家族を得た私、誘拐されました③
無事に飲み水をゲットし、葉っぱや実で空腹も凌げた。
日が落ちきる前にと集めた焚き木に火を灯し、誘拐犯の男の人と一緒に座る。
「火起こしは習得してないので、助かりました。ありがとうございます。お礼に、これあげます」
明日の朝に食べようと思っていた葉っぱを差し出す。
「さっき摘んだので、新鮮ですよ」
「……ありがとな」
そう言いながら、男の人は葉っぱをポケットにしまう。
「何してるんですか? それは食べ物です」
「食べる気分じゃないんだ」
シリアスな雰囲気である。
けど、大変なのは私もだ。
「いいですか。人間、お腹が減ると判断力が低下します。好き嫌い言わないで、ちゃんと食べてください」
さっきの私がそうだ。
野生のキノコを口にするなんて、どうかしてた。
「……分かったよ」
遠い目をしながら、男の人が葉っぱを口に入れる。
「…………青臭い」
「葉っぱですから、当たり前です。今頃、屋敷で美味しい食事をお腹いっぱい食べてるはずだったのになぁ……」
葉っぱが悪いとかじゃない。
ただ、お肉様も食べたかったのだ。
お肉様の味を覚えてしまったが最後、お庭の植物だけの生活には、もう戻れない。
「誘拐して、悪かったな」
「はい。おかげでお肉様を食べ損ねました。重罪です。それに、帰ったら旦那様に叱られます」
「心配はされても、怒られないだろ」
男の人の言葉に、ふるふると首を横に振る。
「お菓子につられたと知られたら、絶対に怒られます」
「……菓子に釣られたのか?」
「珍しいお菓子があるからお茶しようって、ドリルが言ったんです。それなのに、くれませんでした。ドリル、許すまじ……」
ギリッと歯を食いしばる。
「お嬢ちゃんは、もう少し警戒心というものを持ったほうがいい。お家の人が心配するぞ」
「そうですね。次からは先に物証を見せてもらいます」
確実に、食べれるお茶会にしか行かないんだから。
「……火の番は俺がしとくから、もう寝な。たくさん寝ないと、小さいままだぞ」
「余計なお世話です。成長期はもう終わりました」
じろりと睨めば、誘拐犯は肩をすくめた。
「女の子は、十四、五歳で成長が止まる子もいるか。悪かったな」
…………ん? 十四、五歳?
「私、十八歳です」
「は? 妹と同じくらいにしか……」
「失礼ですね。コレッティーナ・ナビレート、十八歳。職業はナビレート伯爵家の妻ですよ」
ぬんっと胸を張る。
「……妻? カリウス・ナビレート伯爵の?」
「そうですよ。人のこと、指ささないでください」
指された指を握る。
火で照らされた男の人は、顔を引きつらせていた。
「終わった……」
ぼそりと呟くと、今度は笑っている。
「目が死んでますけど、大丈夫ですか?」
「ははは……、自業自得だ……」
乾いた笑い声が怖い。
「よりにもよって、溺愛されてる妻とか……」
「さっき名乗ったじゃないですか。何だと思ってたんですか?」
「前伯爵の隠し子かと……」
何だ、それは。
貴族って、隠し子とか普通なの?
まぁ、義妹は二歳下だしな。存在知ったの、お母様が亡くなってからだし、そんなものか。
「で、どうして隠し子なんです?」
「どうしてって……お嬢ちゃんは十四、五歳にしか見えないし、溺愛妻って噂だから、絶世の美女だと思ってたんだよ……」
「へぇ……」
ぶつぶつと何か言っている男の人を見る。
これ、いつまで続くんだろ。
「この話、飽きたから寝ますね」
ごろりと地面に横になる。
うん、固いな。
「そういえば、何で誘拐したんです? お金ですか?」
「…………そうだよ」
そうか。お金か。
納得したら、眠くなってきた。
「何で金が必要か、聞かないのか?」
「さっき事情を聞くって言いました。その時、答えなかったじゃないですか」
ふぁ……と、あくびが出る。
焚き火のパチパチという音が心地よい。
眠りへと足を踏み出した、その時──。
「借金があるんだ」
とんでもないタイミングで、男の人が話し出した。
「……もう寝るので、ひと言でまとめてください」
「え? あ、すまない。雇い主の家が、借金を肩代わりしてくれている。返せないようなら、妹が売られる」
「そうですか」
「父親が新しい事業に手を出して作った借金なんだ。それを妹に返せだなんて……」
へぇ……。
気の毒な話だけど、テンプレだなぁ。
本当に、この誘拐犯の男の人は、テンプレでできている。
「お父さん、まだ生きてるんですか?」
「あぁ……」
「必死に働いてます?」
「いや、酒ばかりだよ」
うむ。意外性の欠片もないな。
でも、そんな父親なら、いらないよね。
「では、お父さんの臓器でも売って、お金を工面したらどうです?」
「は!?」
「親の尻を子どもが拭くことないです……よ……」
「って、おい。寝るのか!? 臓器って何だよ? おーい!!」
むにゃ、うるさい……。
一言どころか、話は十分、聞いたって。
続きは、また明日にして……。
あぁ、歯磨きしてないって、アンネに怒られるな……と、思いつつ、意識は深いところに沈んでいった。




