3 消えたコレッティーナ〜カリウスside〜
時は少し遡り、コレッティーナが拐われ、森だな……なんて呑気なことを考えていた頃、ナビレート伯爵家では──。
「は!? コレッティーナが消えた!?」
王城から馬で駆けてきた護衛が、深く頭を下げる。
「大変申し訳ございません」
「どこで消えたんだ?」
「奥様が王城の庭園に足を踏み入れまして……、見失ってしまいました……」
…………そういうことか。
そうだよな。あの予測不能な動きについていくのは無理だよな。
「すぐに王城へ行く。第二王子殿下には、報告済みか?」
「はい。既に捜索を開始してくださっております。申し訳ございません」
「謝らなくていい。仕事を優先して、一緒に行かなかった俺の落ち度だ。王城で木の上から食糧庫の木箱の中まで徹底的に探すぞ」
「……え?」
よく分からないという顔をされる。
「コレッティーナは、実をとるために木に登るし、茂みにも入っていく。とにかく急ごう。暗くなるまでに探しださないと、腹を空かせて何を食べるか分かったもんじゃない」
俺の言葉に、執務室で一緒に仕事をしていたデザーとザールが深く頷く。
「アンネとデンガも呼んで参りますか? 奥様の動きを少しでも予測できる者がいた方がよろしいかと」
「そうだな。だが、アンネは屋敷に置いていく。もし、コレッティーナがお腹が空いたからと一人で帰ってきた場合、普段からよく接している者が誰もいないと寂しがる」
「承知いたしました。アンネにも状況を知らせるため、声をかけて参ります」
デザーが、部屋を出ていく。
「……旦那様、さすがにお一人では帰ってこないのでは?」
ザールはそう言うが、相手はコレッティーナだ。常識は通用しない。
「お腹が空いたので、馬を拝借してきました。とか言って、帰ってくるかもだろ」
「あぁ……」
遠い目をして、ザールが頷いた。
部屋に戻ってきたデザーの後ろでは、デンガがはしごを持ち、アンネは大きな包みを抱えている。
「これを持っていってください。どうか、どうかコレッティーナ様をよろしくお願いします」
包みをアンネから受け取り、デザー、ザール、デンガ、使用人たちを連れ、コレッティーナを探すため、王城へと向かった。
***
「カリウス、すまない。誘拐ではないといいんだけど……」
到着早々、第二王子殿下が駆けてくる。
息が上がっている様子から、殿下も探してくれていたのだろう。
「こちらこそ、ご迷惑をおかけして申し訳ありません。コレッティーナの場合、誘拐や監禁とも断言が難しく、捜索範囲がとにかく広くなります。食べ物、植物のある場所は特に念を入れて捜してください。あと、これを……」
アンネが渡してくれた包みの中から、キャンディやチョコレート、クッキーなどを渡す。
「食べている暇はないと思うんだけど」
「これで、おびき出します」
「…………はい?」
「何よりも、効果が絶大かと」
気持ちは分かる。
だが、その半目はやめてほしい。
「それと、木のそばで大声を出すのは控えてください」
「どうしてかな?」
「驚いたコレッティーナが落ちてくるかもしれません」
第二王子が額を押さえている。
「カリウス、心配なのは分かるよ。だけど、相手は動物じゃない。人間だ。いくらなんでも──」
「それがあり得るんです。殿下も、コレッティーナの食への執着……じゃなくて、探究心をご存知でしょう?」
「…………そうだね。カリウスがそう言うのなら、探し方を変えようか」
皆で探し、三時間が経った。
けれど、コレッティーナが見つからない。
「コレッティーナ、おやつにするぞ。アンネが用意してくれたクッキーがある。出ておいで」
大声になりすぎないよう、探し続ける。
怒っていると勘違いしたら、クッキーだけ取って逃げていくかもしれない。
「旦那様、日が落ちてきましたの。もう外にはおらんのではないじゃろうか」
一緒に庭園を探していたデンガに話しかけられる。
「どうして、そう思う?」
「コレッティーナ様は、日が沈み始めると庭園には来ませんのぅ。「食べ物を探すのに、効率が悪いです」と言っておりましたのじゃ」
「なるほど……」
ということは、明かりが届きにくい温室や食糧庫にもいない可能性が高い。
「────っ」
一気に血の気が引いていく。
コレッティーナのことだ、庭園を楽しく散策している間に、迷子にでもなったのだろうと、どこか楽観視していた。
けれど──。
「第二王子殿下の元へ行く」
誘拐、監禁の可能性が跳ね上がった。
何故、俺はその可能性を低く見積もった?
先に城外を探すべきではなかったのか?
コレッティーナだからと、どうして大丈夫だと決めつけた?
「旦那様、落ち着いてくだされ!」
「……デンガ」
デンガの眼差しは、力強い。
「コレッティーナ様ほど、サバイバル能力の高い貴族女性はいませんのじゃ。だから、コレッティーナ様は大丈夫ですじゃ」
ほんの一瞬、デンガの視線が揺れた。
「……そうだな。捜索を誘拐、監禁に絞る。デンガは先に屋敷に戻って、ご馳走を用意するよう伝えてくれ。帰ってきた時、腹を空かせているだろうから」
不安なのは、俺だけじゃない。
何が何でも見つけ出す。
待ってろ、コレッティーナ。
必ず、助けてやるからな……。




