2、家族を得た私、誘拐されました②
嘔吐の表現があります。
苦手な方は、飛ばしてください。
「じゃ、まずは食料調達ですね」
「は?」
「任せてください。得意分野です」
歩き出した私のあとを、男の人が急いだように追ってくる。
「逃げませんよ?」
「そうじゃなくて、ご令嬢の一人歩きは危険だろ」
……? それ、誘拐してきた本人が言うこと?
まぁ、いいか。
お腹も空いたし、食べてから考えようっと。
「あーん」
もぐもぐ……。
うん、辛くない。これは、毒なし。
で、こっちは……。
「ちょっと待ったぁ!」
「はい?」
「今、葉を食べたよな!? 駄目だろ、そんなことしたら。ほら、ペッしなさい!!」
なんか、慌ててる……。
というか、こんなこと前にもあったような?
「毒見してるだけなので、お気遣いなく」
次はこっちの花でも食べてみるかな。
そう思って、口を開けた瞬間、腕をつかまれる。
「いけません。ペッしなさい!」
「…………嫌です」
ペットに向かって言うみたいな話し方に、男の人を睨む。
「ご令嬢は、そんなことしない!!」
「します! 私がそうです!! 食料がないんだから、仕方ないじゃないですか。それに、慣れてるので平気です」
「慣れてる!? 大問題だろ!?」
大問題?
この人、何言ってるんだ?
「ただの趣味だから、問題ありません」
うるさいなぁ。
って、あれ?
「キノコだ!!」
男の人の脇を通り過ぎ、キノコまで一直線に向かう。
生家も、ナビレート家も、キノコはなかった。
すごく、食べてみたい。
けど、毒があったら、キノコはかなりヤバいよね。
……ほんの少しかじるだけなら、いいか。
あむっ。
「────っっ!!??」
かっっっらいっっっ!!!!
ペッとすぐさま吐き出す。
「水ください」
ぐちゅぐちゅぐちゅ……ペッ。
ガララララララ……ペッ。
「お、おい、どうした? 大丈夫か?」
男の人が私の周りをうろうろしている。
「毒です。吐くので、下がっててください」
口の中に指を突っ込む。
「う゛っ……」
ウォロロロロロロ……。
水を飲み、もう一度吐く。
最後にうがいをして……っと。
「いやー、焦りました。これ、毒キノコだから食べない方がいいですよ」
うん。キノコはやっぱり危険だし、もうやめよう。
って、あ……。
「すみません。水なくなっちゃいました」
「え? あ、うん……」
「先に飲み水を探しましょう」
そう言って歩き出せば、がしりと肩をつかまれる。
「待て。今、毒食ったのか?」
「はい」
「水より医者だろ!?」
え? 何で?
「誘拐されてるのに、お医者さんは無理ですよ」
「そうだけど、何でお嬢さんが言うんだよ!!」
「事実だからです」
本当に変な誘拐犯だ。
いったい、何がしたいんだか……。
「ほら、水探しに行きますよ」
「おう……」
遠い目をして、男の人がふらふらと歩き出す。
「調子悪いなら、待っててもいいですよ」
足を止めたついでに、葉っぱをむしって食べる。
うん。フレッシュだ。
「頼むから、もう何も食べないでくれ……」
「…………何も食べないでくれ?」
疲れ果てた顔をしている男を睨む。
「私に死ねと?」
「ち、違う! そうじゃない!!」
手のひらをブンブン振って否定している。
「食べないと、人は死にます。知らないんですか?」
「だから、そういう意味じゃない! 植物を食べないでくれ。明朝には、送り届けるから!!」
なるほど。たしかに、それなら死なない。
でもなぁ……。
「嫌です。お腹空いてます」
空腹は思考を鈍らせ、感情的にさせる。
何より、嫌なことを思い出させる。
「なら、俺に毒見をさせてほしい」
「してもいいですけど、遅効性の毒だと無駄死にですよ?」
「それは、同じだろう? えっと……名前は?」
「コレッティーナ・ナビレートです」
そう答えた瞬間、誘拐犯の顔から血の気が引いた。
「ナビレート? 伯爵家の?」
「はい。もしかして、誘拐の相手、間違えたんですか?」
とんだうっかり者だ。
犯罪、向いてないと思う。
転職したらいいのに。
「いや、俺は指示に従っただけだから分からない。だが、間違ってはないと思う」
指示に従った……。
なるほど。組織的な犯罪か。
この人は、下請けになるのかな?
「それ……」
ん? 名前なんだろう。
名乗っては、なかったよね?
「ドリル髪の命令ですか?」
「ドリル髪?」
「はい。こういうのです」
木の棒を拾い、地面に描く。
「し、知らない」
「知らないわけないです。私にこの馬車に乗るよう言ったのは、ドリルです。ドリルの仲間ですよね?」
スッと視線をそらされる。
嘘がつけない性格らしい。
「あぁ、仲間ではなく、その身なりからしてドリルの使用人ですか? 雇われの誘拐犯にしては、清潔すぎます」
「違うって!」
「何故、そんなに庇うんです? ドリルに弱みでも握られてるんですか?」
「…………」
あ、握られてるのか。
テンプレだな。
この世界は、テンプレが溢れている。
「どんな弱みです? 水を探している間、聞きますよ」
「握られてない」
「沈黙は肯定と同じです。内容によっては、旦那様に話してあげます。旦那様、優しいですよ」
「…………誘拐犯には、優しくしないだろ」
たしかに。
でも、この人は誘拐犯でもあり、被害者でもあるんだよなぁ。
「なら、第二王子殿下に話してみます。お礼は、珍しい食べ物でいいですよ」
ついでに、誘拐したお詫びももらっちゃおうかな。
もちろん食べ物で。
過去にコレッティーナに「ペッです。ペッしてください!」と言った人物がいました。
皆様、覚えてますか?




