家族を得た私、誘拐されました①
──ガタリ。
詰め込まれた馬車の中、道が悪いのだろう、身体が大きく揺れた。
私、コレッティーナ・ナビレート、人生で初めて誘拐というものを経験している。
おかしい。ただ、珍しいお菓子を食べようとしただけなのに……。
***
お茶会に招待してもらったのは、生家での事情聴取に王城へ呼ばれた日のこと。
「悪いが、今日は一緒に行けない。後日にしてもらおう」
「大丈夫です。一人で行けます」
そう言うと、旦那様から疑いの目を向けられる。
「何ですか、その目は。私、十八歳ですよ。一人で行けるに決まってるじゃないですか!」
「いや、だけどな……」
「行けます!!」
旦那様は過保護すぎる。
第二王子のところに行くくらい、一人でできるのに。
「……分かった。護衛をつける。絶対に護衛から離れるなよ」
「分かりました」
「知らない人についていくなよ」
「大丈夫です」
「お菓子くれるからって──」
「旦那様は私を何歳だと思ってるんですか!!」
「とにかく、気をつけ──」
「いってきます!!」
いつまでも続きそうな言葉を振り切って、護衛と一緒に王城へとやってきた。
「おぉぉ。相変わらず、素晴らしいお庭……」
見たことない実がなっている木。花や葉っぱ……。
ちょっとだけ、見ていこうかな。
味見しなければ、大丈夫でしょ。
「……って、あれ?」
護衛が消えた。
右見ても、左見ても、前と後ろを見ても、護衛がいない。
「木に登って……は、駄目か」
高いところから探したいけど、木登りは旦那様に止められたことがある。
仕方ない。第二王子のところに行けば、合流できるでしょ。
と思って、歩き出したのだけど……。
ここ、どこ?
広い城内で迷い人となり、あっちへふらふら、こっちへふらふらしながら、とりあえず進んでいく。
「ちょっと、そこのあなた。あなたよ、止まりなさい! ナビレート夫人、止まるのよ!!」
あ、私か……。
振り向けば、お胸ばーん! 腰ギューン! のコルセットで内臓を痛めつけているお嬢さんたちがいた。
センターにいるドリル髪が、小さく咳払いする。
「あら、あなたはカリウス様の……」
「はい。カリウスの妻でございます」
誰だ? この人?
と思いつつも、旦那様の妻として振る舞う。
「へぇ、変わったドレスを着ていると聞いてましたけど……」
「何とも幼い体型ですわね」
「可哀想に……」
くすくすと笑いながら、意地の悪い視線をぶつけられる。
なるほど、敵か。
敵前逃亡するか、戦うか……。
というか、道聞いたら、教えてくれないかな……。
「そんなこと言っては駄目よ。ごめんなさいね、ナビレート夫人。皆、カリウス様を射止めたあなたがうらやましいのよ。許してやってね」
「はぁ……」
勝手に他人の心をベラベラ話す、センターのドリル髪がやっぱりリーダーか。
何というテンプレだ。
これじゃ、私がヒロインポジションじゃないか。
ヒロインは、旦那様って決まってるのに。
「良かったら、これから私たちとお茶しませんこと? ナビレート夫人とは是非、仲良くしたいわ」
「いえ、私は──」
「お父様が他国の珍しいお菓子を取り寄せてくれたの。夫人にも召し上がって──」
「行きます!」
第二王子との約束に遅れないように、かなり早めに王城へは来た。
迷ってた時間とお菓子の時間を引いても、間に合うはず!
一人で迷い続けるより、珍しいお菓子を食べてから、道を聞いた方が合理的だ。
「移動は馬車でいたしましょう」
「馬車ですか? 歩けますよ」
「まぁ、面白い冗談ですこと。広い城内を移動するだけでも、私たちには大変ですわ。さ、夫人から、どうぞ」
「……ありがとうございます」
ギューギューなコルセットしてるから大変なんじゃ? と思いつつ、馬車に乗る。
けれど、誰も乗り込んでこない。
「あの──」
意地悪な笑い声。
冷たい視線。
閉められたドア。
「さようなら。あなたがいなくなれば、カリウス様も目が覚めるわ」
やられた!
まだ珍しいお菓子、食べてないのに!
走り出した馬車の中「だから、菓子に釣られるなって言っただろ!」という旦那様の声が聞こえた気がした。
***
「周り、木ばっかりだ」
揺れる馬車の中、窓から外を見る。
斜面を上った感じはないから、森かな?
ということは、食料には困らない。
馬車が止まったら、帰ろうっと。
道は、聞けばいいよね。
なんて思っている間に、日が沈み始め、馬車が止まった。
「あー、長く乗ってたから、肩凝った……」
勝手に馬車から降りて、肩をぐるぐると回す。
すると、私のことをギョッとした顔で見ている誘拐犯と目が合った。
「こんばんは。この馬車、どこまで行きます? そろそろ帰らないと、旦那様が心配するんですけど」
うーん。誘拐犯というには、身なりが綺麗だな。
護衛騎士って言われた方が、納得できる。
「あの、大丈夫ですか?」
顔を引きつらせている男の人の前で、ひらひらと手を振る。
「あ、あぁ、大丈夫だ」
「そうですか。あの、何か食べるものありますか? お腹空きました」
催促するように、小さくお腹が鳴る。
「悪い。突然のことで、何も持ってない。水ならあるが……」
「そうですか」
うむ。
この人も巻き込まれた感がすごいな。
可哀想に。




