「お前を愛することはない」と言われた私、居場所を見つけました①
そう、庭にあったのだ。
庭があったから、私は生きてこれた。
「あ、実を集めないと……。証拠も集まったので、庭に行ってもいいですか?」
「え? あ、うん。いいよ」
第二王子が頷いたので、庭に行くために足を踏み出す。
「……一緒に行きますか?」
旦那様の方を振り向き、声をかける。
「いいのか?」
「はい。カリウスには、一番大きな実をあげます」
「そうか……。ありがとな」
「甘くて美味しいですよ」
腕を差し出され、手をのせる。
走って庭に行きたいけど、第二王子の前でのエスコートは大事だ。ラブラブ夫婦っぽさが増す気がする。
「待て! 父を見捨てるのか!?」
「そうよ。育ててやった恩を忘れるなんて! 早く何とかなさい。役立たず!」
「可愛い妹が縛られてるのよ! とうにかするのが姉の役目でしょ!!」
父、義母、義妹が騒いでいる。
「あなたたちは、家族じゃありません。だから、助ける義理もないです。……さようなら」
旦那様と一緒に庭へ向かって歩き出す。
何か叫んでるけど、私には関係のないことだ。
もう二度と会うことはないだろうけど、まったく寂しくも、悲しくもない。
それに──。
「ちっともスッキリしなかったです」
「何がだ?」
ざまぁと言うのは微妙だけど、悪事の証拠を第二王子へと売り飛ばし、復讐は果たした。
だけど、そこには何もなかった。
あるのは、食事をもらえなかったという変えられない過去だけ。
「スッキリして終わるのは、物語の中だけってことなんですかね……」
「ん? あぁ、さっきのことか?」
「はい。復讐すれば、縁を切れば、何かが変わるんじゃないかって思ってました」
結局、何も変わらなかった。
既に手にあるものはあるし、ないものはない。
「まぁ、そんなものじゃないか。家族と関係が切れたところで、区切りがつくぐらいだろ」
「たしかに……」
ざまぁして「はい、終わり!」というわけには、いかないか……。
「旦那様、見えてきました!」
今年もたくさんの実をつけている木に向かって、走る。
木の下について見上げれば、実の重さでたわんだ枝が、今年も大きな実をつけたのだと、教えてくれている。
「あぁ! もう鳥にかじられてるのがある!」
「それだけ甘いってことだな」
追いつき、隣に並んだ旦那様を見上げれば、穏やかに微笑んでいる。
「この実、好きですか?」
「食べたことないからなぁ……。でも、コレッティーナのオススメだ。うまいんじゃないかな」
「最高に美味しいですよ!」
えっと、一番大きくて、一番甘くて、鳥にかじられてなくて……。
木を見上げ、旦那様の実を探す。
「あった! あれです! あれにしましょう!」
「……届かなくないか?」
「大丈夫です。お任せください!」
木の幹に近付き、わしっと幹に抱きつくように手を伸ばす。けれど──。
「待った」
「──ぐえっ」
首根っこをつかまれた。
「何するんですか!?」
「今、登ろうとしたよな」
「登らないと、とれません」
言い切れば、体の向きをくるりと変えられる。
旦那様と向かい合わせになれば、ひくりと頬が引きつるのを感じた。
「旦那様、般若です」
「怒ってるからな」
「何で怒るんですか!?」
抗議の声を上げれば、ぺしりとおでこを叩かれる。
「危ないだろ」
「いつも登ってました。慣れてます」
「そういう問題じゃない。目の前で大切な人が危ないことをしようとしたら、怒るし、止めるもんだ」
…………大切。
ペロペロキャンディみたいな、暴力的な砂糖のように甘い気持ちが、じわじわと広がっていく。
「私、大切ですもんね」
「そうだ。コレッティーナは大切な人だ。だから、危険なことはさせない」
ほっぺが溶けたみたいに、ふにゃふにゃになって、うまく表情が作れない。
「私も、旦那様が大切です。だから、一番大きな実は旦那様です」
「知ってるよ。ありがとう」
大切だと思ってもらえる。
大切だと思える。
それは、当たり前なんかじゃなくて、キラキラした宝物だ。
「登っちゃ駄目なら、どうやって実を取りますか?」
「……肩ぐるまとか?」
肩ぐるま!!
たしかに、それなら取れるかも!
……だけど、どうやって?
「……肩ぐるまは難しいです。力不足ですみません」
旦那様を持ち上げるには、圧倒的に筋肉が足りない。
まさか、こんなところでも筋肉不足が問題になるとは……。
「コレッティーナの肩ぐるまくらいできる」
「へ? ぉ……ぉあああああ!!」
ぐっと視界が高くなる。
怖くて、旦那様の頭にしがみつけば、くつくつと笑う声がした。
「コレッティーナにも、怖いものがあるんだな」
「あるに決まってるじゃないですか。あ、旦那様、もっと右です!!」
一番大きな実に手を伸ばす。
「取れました!!」
実を引っ張って取れば、ぐらりと身体が揺れ、とっさに旦那様の頭にしがみつく。
心臓がありえないくらい、速い。
「悪い。大丈夫か?」
「あ、はい。大丈夫です」
そう言いつつ、身体の力を抜く。
「見てください! すっごく大きな実が…………って、あれ!?」
手にあるはずの実がない。
きょろきょろと見回せば、地面に実が落ちていた。
「旦那様の実!!」
肩ぐるまから下ろしてもらい、急いで拾いあげれば、地面とぶつかったところが潰れている。
「一番大きかったのに……」
鼻の奥がツンとする。
じわりと涙腺がゆるんだ。
おかしいな。
身体が自分の言うことをきかない。
ちょっと前まで、泣きそうになることなんて、なかったのに。
「別に、ちょっとつぶれただけだろ」
「──っ。ちょっとって!」
旦那様は私の手から実を取り上げると、当たり前のようにかぶりつく。
「うん。甘い」
「旦那様ぁ……」
べそりと涙がこぼれた。
馬鹿みたいだ。こんなことで泣くなんて。
「さっきまでは強かったのにな」
優しく旦那様の袖が私の涙を吸っていく。
「一緒に食べよう」
「あい!」
「って、鼻水!! ったく、しょうがないなぁ」
呆れられたように笑われる。
けど、それだってふわふわと優しい気持ちになる。
あと1話で、第一章はおしまいです。




