「お前を愛することはない」と言われた私、証拠を売り飛ばします②
「えっと、証拠の場所ですけど……」
食糧庫の奥へと進む。
しっかり、くわえてっと……。
落とさないようにペロペロキャンディをくわえて、たくさんある木製の樽の一つに足をかける。
「ちょっと待て」
樽の上に登りかけた身体は、旦那様によって降ろされた。
抗議の目を向ければ、ぺしりと優しい力でおでこを叩かれる。
「危ないだろ」
「んー……」
たしかに、ペロペロキャンディをくわえながらの移動は危険か。
落とすかもしれないし。
仕方ない、動かすか。
よし。腰をしっかり落として……。
「んーー!!」
ペロペロキャンディをくわえたまま、全力で樽を引っ張った。
でも、びくともしない。
歯を食いしばらないと無理か。
いつもより力が入らない。
「カリウス、これ持っててください」
ペロペロキャンディを噛み砕かないよう、旦那様に渡そうした。
「カリウス?」
なかなか受け取ってもらえず、旦那様の方を見上げれば、眉間に深いシワができている。
「頼むものが違うだろ」
「え?」
不機嫌そうに、旦那様が樽に手をかける。
「でも、本当に重くって──」
──ズリッ、ズリズリズリ……。
樽がゆっくりと動かされていく。
旦那様、意外と力持ちだ……。
「たしかに重いな。何が入ってるんだ?」
「塩です。たしか、ワインもあります」
「……管理、雑すぎないか?」
「そうなんですか?」
どうなんだろう。
たしかに、ナビレート家の食料保管庫はもっと整理されている。
ナビレート家がしっかりしてるのかと思ったけど、違うのかも。
「これ、全部どければいいの?」
第二王子に話しかけられ、頷く。
「はい。一番奥の樽に証拠があります。全部どけます」
「了解。じゃ、カリウスと奥方は下がっててね」
第二王子がそう言った瞬間には、もう騎士様たちが動き出していた。
「一瞬でしたね」
騎士様たちは軽々と樽を移動させ、残るは一番奥にあった樽だけ。
「開けます」
パカリと蓋をあければ、雑に羊皮紙が詰め込まれていた。
「すごい量だね。……何で処分しなかったんだろう。こっちとしては、助かるけど」
「父は、一緒に悪さした人を逃さないような人です。この証拠は、保険ですね」
逃げ出そうとすればいつでも脅せるよう、保管しておいたのだろう。
「それが自分の首を絞めたってことかぁ」
「はい。そうですね……」
そのあと、父の書斎、ドレス部屋からも無事に証拠を回収した。
「これ、全部確認するのかぁ……」
嫌そうに第二王子が言う。
旦那様の顔も引きつっている。
「私もやりますか?」
「ありがたいけど、それはできないよ。夫人が証拠を隠蔽、改ざんしたなんて、万が一にでも疑われるかもしれないからね」
「そうですか」
そうなったら、余計な仕事が増えるだけだ。
何もしない方がいいだろう。
「事情は聞かせてもらうと思うから、協力よろしくね」
「分かりました」
生家の件は、これで無事に解決! と思ったんだけど……。
「これは、どういうことだ!!」
めちゃくちゃ、父が怒っている。
「どういうことかって言われても、お前の悪行の数々の証拠回収だよ。見て分からないのかな?」
第二王子はにこにこと捕縛されている父に言う。
「私は何もしていない!」
「それ、これ見ても言える?」
ひらりと一枚の羊皮紙が、父の顔の前に突きつけられる。
「これ一枚でも、事実なら重罪だよねぇ。命があるといいね?」
「──っ。ぜ、全部、そこの女が仕組んだことだ。私じゃない!」
そう言う父の視線は、まっすぐに私へと向かっている。
「……私ですか?」
「そうだ。認めれば、ラビソン伯爵家の力を使って、減刑になるよう動いてやる」
なるほど。
実父も敵だったか。
そうだよね。私が食事抜かれてるの、気づかないわけないもんね。
「わぁ……。何という提案なのでしょう。胸がドキドキするわ」
転がされている父の顔を踏む。
「食事さえ、まともにくれない親のために、私に罪をかぶれと? 不快極まりない」
「コレッティーナ!」
後ろから羽交い締めにされる。
振り向かなくても分かる。旦那様だ。
「気持ちは分かる。けど、駄目だ」
「……食事を与えないのは良くて、顔を踏むのは悪いことですか?」
「そうじゃない! コレッティーナが手を汚す必要はないだろ」
……そうかな。
そんなことないと思うけど。
「旦那様。これは、人の皮をかぶった汚物です。何をしても罪にはなりません」
「人の皮をかぶってる時点で、国の法律が適用される。捕まりたいのか!?」
「…………それは、嫌ですね」
牢屋のご飯はまずそうだ。
それに、もし食事が出てこなくても、庭で食材調達もできない。
「なら、こういうのはやめろ」
「分かりました。別の方法を考えます」
「考えるな! お前の家族は捕まる。あれだけの証拠があれば、死罪は免れない。もういなくなるんだよ……」
いなくなる?
そうか。私のご飯を奪う人は、いなくなるのか……。
「じゃ、いいです。第二王子殿下」
「何かな?」
「絶対に、美味しいものを食べさせないでください」
「分かっているよ。夫人が食べていたものを食事で出す形にしようか?」
それは、ありかも。
でも、難しいんじゃないかな。
「私の場合、現地調達だったので、王宮から毎日ここまで来るの大変じゃないですか?」
「はい?」
「私の食事、ここにいた時は庭にあったので」




