「お前を愛することはない」と言われた私、実家に行きます
夜会の翌日、朝早くに第二王子がナビレート伯爵家にやってきた。
「殿下、常識というものがありますよね?」
「ほら、オレ王族だから」
「……それ聞いたら、国王陛下や皇太子殿下に怒られますよ」
「カリウスが言わなければ、バレないよ。ところで、奥方はその格好で行くのかな?」
第二王子が私を見ながら楽しそうに話す。
「はい。だ……カリウスに買ってもらいました」
危ない、危ない。
旦那様って呼ぶところだった。
「コレッティーナ、それは庭いじり用のだろ? 今日はラビソン伯爵家に行くんだぞ?」
「はい。だから、ズボンはきました」
デンガおじいちゃんに貸してもらったスコップも、玄関ホールに用意してある。
完璧だ。
「……庭にも証拠があるのか?」
「ありません」
「なら、何故ズボンなんだ?」
「木を持って帰ります。お庭に埋めます」
それで、ナビレート家のみんなと美味しい実を食べるのだ。
たくさんあるから、ジャムにもしよう。
やり方は分からないけど、お酒にするのもいいかもしれない。
「コレッティーナ……」
「はい」
「その木は小さいのか?」
「高さは、カリウス二人分より高いです。横幅は……どれくらいですか?」
「俺が知るわけないだろ」
たしかに。
「普通の木の大きさです」
「普通?」
「はい。普通です」
旦那様が少し困った顔をした。
「残念だが、今日は木を持ち帰れない」
「何でですか!?」
「普通の木は、馬車に乗らない」
「──!!」
も、盲点だった!
掘り返せれば、何とかなると思ったのに……。
「それに、コレッティーナ一人で木を掘り起こすのは無理だ。仮に掘り起こせても、馬車まで持っていけない」
「…………はい」
ということは、あの木はナビレート家には来ない?
「みんなで、食べたかったです」
「うん」
「美味しい実がたくさんなる木だから、今年も、来年も、その先も、一緒に食べたかったんです……」
鼻の奥がツンとする。
何も持ってない私が、唯一、生家から持ってこれるものだったのに……。
「そうか……。じゃあ、コレッティーナの大切な木を迎えるために、しっかり準備をしないとだな」
「準備ですか?」
「あぁ、普通の木の大きさのものは一人では運べない。素人がやったら枯らしてしまうかもしれない。そんな時のための専門家だ」
専門家……。
「その人に頼めば、木を持ってこれますか!?」
「少なくとも、俺たちでやるよりは確実だな」
すごい……。すごい!
「専門家はどこにいますか?」
「帰ってきたら、まずはデンガたちに相談しよう。難しそうなら、街で聞いてみればいい」
「はい!」
旦那様はすごい。
一番の答えを教えてくれる。
私の願いを叶えようとしてくれる。
「カリウスには、一番大きな実をあげます」
このお屋敷に置いてもらえる間は、一番大きいのは旦那様にあげよう。
旦那様がいなかったら、木はラビソン家に置きっぱなしになっちゃうから。
「ありがとな」
「はい!」
ポンッと、私の頭に旦那様の手がのる。
「じゃ、着替えてこい。ズボンもいいけど、今日はワンピースだな。アンネ、頼んだ」
「承知しました」
アンネと一緒に自室へと向かう。
「アンネ、ごめんなさい」
「……? どうしたんですか?」
「私がどうしてもズボンがいいって言ったから、アンネのお仕事を増やしちゃいました」
そう言うと、アンネは首を横に振る。
私を見る目は、あたたかい。
「このくらい、大したことではありませんよ。私の方こそ、コレッティーナ様がお願いしてくれるのが嬉しくて、ズボンへのお着替えを良しとしてしまいました。申し訳ございません」
「ア、アンネは、謝っちゃ駄目です!」
間違えたのは、私だ。
アンネは、服装の忠告をしてくれていた。
それを跳ね返したのは、私なのだ。
「自覚できるよう、頑張ります」
私の言動が与える影響を考えないと。
名目上は、ナビレート伯爵の妻なのだから。
「……あの、実を持って帰るために、かごを持っていくは大丈夫ですか?」
木が駄目なら、実を持ち帰りたい。
けど、どこまでが大丈夫なのか、分からない。
分かるようになるまで聞くしかないんだ。
「かごは難しいかもしれません」
「そ……ですか……」
駄目なのか。
みんなに食べてほしかったけど、今年は無理かな。
気持ちがしぼんだ綿菓子みたいにショボショボしていく。
「……ビンに入れて、少し持って帰ってくるならできるかもしれません」
「──っ! そうします!」
厨房に行って、ビンもらわないと!
「では、用意させておきますね」
「アンネ、ありがとうございます」
これで生家へ行く準備はバッチリだ。
少しでもたくさん持って帰ってこようっと。
***
「カリウス、お待ちしてましたわ!!」
ラビソン家についた途端、義妹が旦那様に抱きつこうとした。
旦那様は、すかさず避ける。
「義妹。カリウスは私の夫です。やめてください」
「もうすぐ交換するからいいのよ。カリウスだって、コレッティーナより私の方がいいわよね」
旦那様は、第二王子の後ろに隠れて首を横に振る。
「俺は、コレッティーナがいい。俺なんかより、ワイバール殿下の方がいいんじゃないか? 未婚だし、婚約者もいないぞ」
あ、旦那様が第二王子、売った。
「……カリウス?」
「背に腹は代えられません」
第二王子を盾にしたまま、旦那様は言う。
そうか。義妹タイプ、本当に駄目なんだな。
遅くなりました。
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