友人の過去と今〜第二王子side〜
第二王子視点になります。
「分かった。それだけの価値があるということだね」
「……たぶん?」
首を傾げ、カリウスの奥方が言う。
たしか年齢は十八歳だったか。
歳のわりに言動の幼さが目立つな。
「どうぞ」
「ありがとう」
受け取った紙は三枚。
どれど……れ…………。
「……は?」
「何か変なこと書いてありましたか?」
「変なことっていうか……」
「お願い分の価値ありますか?」
価値があるとか、そういう次元じゃない。
不正についてと、その証拠の隠し場所。さらには関わった貴族まで書かれている。
これは、かなりの数の貴族が関わっているな……。
「そうだね。もし本当なら、とても重要なものだよ」
「じゃあ、稲作、調べてくれますか?」
「証拠が見つかれば……かな」
そう言うと、奥方は不満げに唇を尖らせる。
「というわけで、一緒に行こうか。明日でいいよね? 早いに越したことはないし」
「どこ行くんですか?」
「ラビソン伯爵家だよ」
証拠の隠し場所は、奥方が一番詳しいだろうしね。
「分かりました」
「駄目です」
カリウスと奥方が同時に話す。
「カリウス、これは国として動かなければならない案件だよ」
「だからといって、コレッティーナを連れて行く必要はありませんよね」
「一緒に行ったほうが手っ取り早いでしょ。夫人が断るならともかく、カリウス、ちょっと過保護なんじゃない?」
「それは!」
何か言いたげなまま、カリウスは口を閉じる。
まぁ、単に奥方が心配なんだろうけど。
さっき見た、家族ともめている様子だけでも、ラビソン伯爵家でどんな扱いを受けていたのか、想像がつく。
でも、それはそれ……なんだよね。
「夫人、一緒に来てくれないかな?」
「いいですよ」
表情一つ変えることなく奥方は了承する。
「……俺も行く」
「はい。一緒に行きましょう。行ったら、カリウスには、美味しい実をあげます。今の季節なら、たくさんあるはずです」
「……もしかして、それが目当てで引き受けたのか?」
「違います。一番は稲作です」
奥方がそう言うと、カリウスは優しく目を細める。
カリウス、変わったなぁ。
女性が苦手で、社交界に来ても常に仏頂面だったのに──。
***
カリウスがまだ社交界に顔を出していたのは、十年前くらいだったかな。
その頃のカリウスは、周りが引くほどの近づくなオーラを放っていた。
「ねぇ、カリウス。愛想を良くしろとまでは言わないけど、その眉間のシワ、どうにかならない?」
「無理ですね」
「無理ってさ……。社交界は社交をする場所だよ? それじゃ誰も近づいてこないって」
実際、オレとカリウスの周りだけ、誰もいない。
けれど、女性たちの視線はカリウスにばかり向けられている。
「誰にも近づいてほしくないから、こうしているんです」
「……そこまでして、社交界に来てる理由は?」
「婚約者探しですよ」
カリウスは深いため息をこぼしながら言う。
「探す気ないよね?」
「まぁ、そうですね。できれば、誰とも婚姻せず、分家から優秀な養子を引き取って、後継者として育てたいんですよ」
「……十八歳の言葉じゃないね」
なんて答えつつ、カリウスは本当に結婚しなそうだな……と思う。
婚姻は貴族にとっての当たり前。
その当たり前をしないと、余程の変わり者か、婚姻相手を見つけるのが難しい厄介な人物として扱われる。
「女性絡みは、ろくな事が起きないですから」
「あー……、普通はそんなこともないんだけどね」
カリウスの場合、女性から付きまとわれるなんて日常茶飯時。心中を図ろうとした人もいたっけ。
無駄にモテるから、男性からは嫉妬をされ、逆恨みされることもある。
「顔が良すぎるのも大変だね……」
オレだって、顔は整っている方だけど、カリウスは別次元だからなぁ。
「というか、社交界に無理して来なくてもいいんじゃない? 養子を取るつもりなんでしょ?」
「……いいんですか?」
「うん。変わり者扱いされるだろうけど、カリウスの場合、困らないでしょ?」
なんて言ったのが、まずかった。
翌日、社交界免除証明書ってものを自作して持ってきたカリウスに、サインさせられたもんなぁ……。
サインした時の嬉しそうな顔といったら……。
少し休んだら、また社交界に姿を現すかと思ってたんたけど、十年近くも参加しなかったし。
参加しないことについて誰かに言われる度に、「第二王子殿下より、社交界不参加の許可をもらっていますので」って、全責任をオレにぶん投げられたしさ。
カリウスのおかげで、いろいろと大変な目にあったんだよなぁ。
***
思わず昔を思い出していれば、奥方と目が合った。
「いろいろと残念ではあるけど、カリウス、悪いやつじゃないから」
「はい。かなりヒロインっぽいです」
「……ヒロイン?」
「心優しい頑張り屋です」
あー、たしかに。
それは間違いない。
「夫人、あなたのおかげでカリウスの幸せそうな顔が見れたよ。ありがとう」
「いえ、妻ですので」
……やっぱり、奥方も独特だな。
まぁ、カリウスも相当な変わり者だし、変わり者同士、うまくいくのかもしれないな。




