「お前を愛することはない」と言われたので、労働対価に食事を要求します②
「愛することはない……」
小さく呟いた旦那様に大きく頷く。
「はい。政略結婚なうえに、昨日が初対面。そんな相手に「お前を愛することはない」と言われて、好きになるわけないじゃないですか」
「し、しかし……。今までは……」
「え!? まさか、私が旦那様のことを好きだと思ったんですか!? ないですって! ありえませんよ!」
笑いながら全力で否定をすれば、旦那様はソファーから崩れ落ちた。
「そんな馬鹿な……。最初が肝心だって聞いたんだぞ?」
「えっと……、誰に? というか、最初があれだと嫌われる以外の選択肢はないと思いますけど」
そう言いつつ、旦那様の隣に移動してしゃがむ。
「俺がキャーキャー言われたり、追いかけ回されたくないって言ったら、「愛することはない」と最初から釘を刺しておけばいいって……」
「あー、いろいろと苦労したんですね。旦那様、無駄にイケメンですもんね」
キラキラの金髪に、碧眼、お顔も整っていて、The王子顔だもんなぁ。
アイドル扱いだったのか……。
だからって、あれはないと思うけど。
「ま、ある意味成功したんじゃないですか? 私もドMじゃありませんから、釘を刺されたおかげで頭のおかしな男に嫁いだと思いましたし。いくら顔が整っていても、旦那様の印象はマイナス要素しかないですから」
食事がなかったこととか、食事がなかったこととか、食事がなかったこととかね!
「とにかく、デザーが食事を用意してくれると約束してくれましたが、旦那様もそれで問題ないようで安心しました。旦那様が駄目と言うものは、執事長といえど覆せないでしょうし」
うんうん。
これで安心して、このお屋敷に住めるというものよ。
「頭がおかしい……。マイナス要素……」
ぶつぶつと旦那様は私の言った言葉を繰り返している。
自分は初めましての日に、あれだけ失礼なことを仕出かしたのに、言い返される覚悟もなかったのか……。
うーん。ここまで落ち込ませたら、食事に影響でるかな。
仕方ない。
少し、励ましとくか。
「旦那様のおかげで、早めに互いの求めるものが分かって良かったじゃないですか。旦那様は私に干渉されたくない。私は食事を確保したい。明確ですから、守りやすいですよ。これで、愛のない結婚が無事成立ですね」
「愛のない……結婚…………」
ん?
何でそんなに落ち込んでるの?
あー、あれか。たしかにそうだよね。
「なるほど。私がただ飯食らいになるって心配なんですね」
うんうん。これじゃ私が一方的にもらうだけになってしまうし、気になって当然だよ。
「ただ飯は良くないですし、何かしらはお返ししますね」
実家では、掃除、洗濯、料理をやっていた。
けど、それは手が足りてそうなんだよね。
ということは、別の対価が必要か。そう思い、書類の山へと向かう。
「ちょっと拝見します」
「え? あ、おい!」
旦那様は急いで立ち上がると、私を後ろからひょいと子どものよう抱き上げ、ソファーへと連れて行く。
「勝手に見るな! って、裸足じゃないか! ちゃんと普段からご飯食べてるんだろうな。軽すぎる。……とりあえず、俺の靴でいいか?」
私の前に跪き、旦那様は自身の革靴を履かそうとした。
「……ずいぶん汚れてるな」
「ちょっとお外に行ってきたので」
「裸足でか!?」
「はい。朝ごはんの調達に。このお屋敷のお庭は食べられる植物が多くていいですね」
今度、デンガにお庭の植物をリクエストするのもいいかもしれない。
「お庭って、ちょっと変えてもいいですか?」
「え!? あ、そうだな。庭師のデンガという者と相談しながらやってくれていい」
「ありがとうございます!」
ヤッター。これで庭にたくさん非常食を作れる。
「……好きにしていいが、きちんと靴は履けよ」
「はーい」
用意しなかったのは、そちらの使用人ですけどね。という言葉をのみ込む。
心配してくれるあたり、思ったより悪い人ではないのかも。
何か知らんけど、旦那様自ら足拭いてくれてるし。
「まったく。お前は世話が焼けるな」
お前って言うなよ。
と心の中で文句を言いつつ、革靴を履かされる。
片足をあげれば、ぶかぶかなのですぐに靴が落ちた。
「何やってるんだよ……」
「お気になさらず」
履き直させてくれる旦那様を見下ろしながら言えば、睨まれる。
「気にするに決まってるだろ! 妻なんだから」
「言ってること支離滅裂ですけど、大丈夫ですか?」
愛さないって言ってみたり、妻だと言ってみたり……。
どちらかにしてほしい。
疲労に加えて、マリッジブルーってやつかな。男性もなるらしいし。
ま、どうでもいいか。
「えっと、どれどれ……」
何かを言っている旦那様に、適当に相槌を打ちながら、連れてこられながらもゲットした書類に目を通す。
うん、私でも問題なくできそう。
「あ、旦那様。ここの計算間違えてますよ。あと、ここもですね」
「ん? あー、そこまでチェックする時間がなくてな」
渋い顔をする旦那様に、これだ! と思う。
「私、それやりますよ。食事の対価に」
これで、少しはフェアになるはずだ。




