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【連載版】「お前を愛することはない」と言われたので、労働対価に食事を要求します  作者: うり北 うりこ@8/1ざまされコミカライズ①発売


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「お前を愛することはない」と言ってきた旦那様と、ラブラブ夫婦を演出するにはどうしたらいいでしょう


 ……何だこの状況は。


 目の前には旦那様の顔。

 体は旦那様によってすっぽり覆われ、脱出不可。

 場所は私の使っている部屋のベッド。

 推定時刻、朝七時。


 ……意味が分からない。

 何で旦那様がここにいるの?


「おーい、旦那様! 部屋、間違えてますよー」


 ぺちぺちと頬を叩けば、旦那様の目が開く。

 濃紺の瞳はぼんやりとしたまま、私の顔を映した。


「よく分からないんですけど、離してください」

「──っ!」


 すごい勢いで、旦那さんは体を起こす。

 首まで真っ赤だ。


「ドンマイです、旦那様」


 人間、誰しも間違いくらいある。

 朝ご飯を手で食べられるものにしてくれると約束してくれたし、旦那様は家族だから、特別に許してあげよう。

 何より、恥ずかしがっている人をこれ以上責めるのはかわいそうだ。


「お部屋、間違えちゃったんですね」

「はぁ⁉」


 不機嫌そうな声に、深く刻まれた眉間のしわ。

 何だろう? 私、何か間違えた?

 うーん……。あ! そうか‼


「すみません。デリカシーが足りませんでした。いい大人が部屋を間違えただなんて、傷をえぐるようなこと言いました。反省してます」


 うんうん。良くなかった。

 デリカシー、大事!


「んなわけあるか! コレッティーナがうなぎみたいに巻きついてきたんだろ!」

「……それを言うなら、ヘビでは?」


 うなぎは巻きつかないと思う。

 知らんけど。


「……昨夜、散々うなぎっって聞いたせいだな。コレッティーナが悪い」

「はい? うなぎの話なんて……。まさか、私に内緒でうなぎ食べたんですか⁉ 誘ってくださいよ! というか、私の分のうなぎください‼」


 旦那様ばっかりズルい!

 ……いや、ズルくはないのか。自分のお金でうなぎ食べてるんだもんね。

 ということは、うなぎ分の働きをすれば、対価として私も食べられるかも!


「うなぎ分の仕事ください!」

「何でそうなるんだよ。そもそも、うなぎは食べ物じゃないだろ。あんなにうねうねして気持ち悪いもの。よく食べようと思うな」

「……? おいしいですよ」


 たしか、調理するためには泥抜きが必要なんだよね。

 東の国に行けば、そこら辺も分かるかな……。


「旦那様、この世界に和食ってありますか? それか独自の文化を築いている東の国とか」

「どうした、急に……。そう……だな。たしか、東の果てに独自文化の国があるとの話は聞いたことがある。ただ、かの国は他国との交流を望まないとも」


 そ、そんなぁ……。

 まさかの鎖国状態ってこと?


「じゃ、じゃあ和食! 和食はありますか⁉」

「悪いが、聞いたことないな。調べてみるか?」

「はい……。世界中の料理事情も調べます……」


 実在しそうなのに、こんなに遠いってあり?

 いっそのこと、絶対にないならあきらめがつくものを……。


「ぐぬぬぬぬぬ……」

「こら、歯を食いしばるな。俺も調べてやるから」

「あい……」


 書物、あるいは人に聞くのがいいよね。

 あとで、お屋敷中の人に聞いて回ろう。


「ところで旦那様」

「何だ?」

「私の先生が見つかったんですよね? いつから来てくれるんですか?」

「明日だ。だから、明日以降のコレッティーナの仕事はマナーと貴族の常識を覚えることだな」


 ん? 仕事がそれ?


「たしかに仕事ではありますけど、それは私のスキルアップのためですよね。それとは別に仕事します!」

「駄目だ。ただでさえ時間がないんだ。そっちに集中しろ」

「ですが……」 


 それだと、もらっているものと労働に差が生まれてしまう。


「いいか、コレッティーナ。これは必要な投資だ。コレッティーナはこれから先、ナビレート伯爵夫人として社交界に行かなければならないんだからな」


 なるほど。それもそうか……。


「分かりました! 誰もがうなる伯爵夫人になってみせます!」

「……そこまでは求めてないからな?」  


 分かってますとも!

 優しい旦那様は、私に無理をしろなんて言わない。

 完璧を求めたくても、求められない。

 ならば、旦那様の予想を遥かに超えてみせるのが、良き従業員というもの。


「完璧かつ、溺愛……では甘いですね。ラブラブな夫婦を見事演出してみせます!」


 うむ。ラブラブか……。つまり、相思相愛ってことだよね。


「カリウス!」

「お、おう!」

「違います! 溺愛してる妻に、「お、おう!」はしません!! もう一回です。カリウス!!」

「な、何だい? コレッティーナ」


 うん。さっきよりはいいと思う。

 けど、ラブラブじゃない。

 何か、旦那様ギクシャクしてるし。


「そこ、立ってください」

「え?」


 旦那様の腕を引っ張り、姿見の前へと移動する。


「ちょっと失礼します」


 そう言って、旦那様の腕にくっついてみる。


「……何か、違いますね。私が勝手に引っ付いてるみたいです」


 何故だ? 何が違うんだ?

 ラブラブ演出といったら、身体的接触じゃないのか?


「……そうだ! 旦那様……じゃなくて、カリウスは私の腰に腕を回してみてください。たぶん、いい感じになるはずです!」

「あ、うん……」


 旦那様は腕を回してくれるけれど、やっぱり何か違う。


「もっとしっかり腰を持ってください! 俺の妻だぞ! 愛してるんだぞ! ドヤァです!」

「え゛っ⁉」


 鏡越しの旦那様がうろたえている。


 ……そう言えば、旦那様ってモテる割に奥手なんだっけ?

 ミニ丈ネグリジェ見て、真っ赤になってたもんなぁ。


「仕方ありませんね。私がお手本見せます!」


 旦那様は、超ホワイト企業のトップなんだぞ!

 従業員の健康を気にしてくれて、しかも優しいんだぞ!

 うらやましいだろ!


「ドヤァ!」

「…………うん。頑張ったな」


 何か知らないけど、哀れみの目で見られた!

 旦那様だって、うまくドヤァできないくせに!  

  

                                                                          

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