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【第一章完結】「お前を愛することはない」と言われたので、労働対価に食事を要求します(連載版)  作者: うり北 うりこ@8/1ざまされコミカライズ①発売


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後悔と寝言〜カリウスside〜


 コレッティーナが、ものすごく目をこすっている。

 というか、頭が揺れている。


「話はまた明日に──」

「駄目です! 肝心な話は何もしてないです」

「……いや、大事な話してたよな」

「そんなこと……ないですよ。それより、朝ごはんです。朝ごはん! 手で食べれる……ものを…………んあっ! ね、寝てません……よ……」


 いや、どう見ても寝てるだろ。


「俺も今日はもう休みたいし、明日でもいいか? 朝食は手で食べれるものを頼んでおくから」

「あい……」


 こくんと頷いたんだか、船を漕いでいるんだか……。


「ほら、送っていくから……」


 そう言いながら、腕を引いて立たせた瞬間──。


「えっ!? ちょっ……嘘だろ!?」


 コレッティーナがソファーの上に倒れ込んだ。


「おい、大丈夫……って、寝るな!」


 抱きかかえていた枕を頭の下に入れ、コレッティーナは寝息を立て始めた。


「起きろって!」


 ゆさゆさと揺すれば、体を丸め、ソファーの上で寝返りをうつ。


 普段からちいさい体が、更に小さくなった姿に、何とも言えない感情が湧く。


 コレッティーナのことは、哀れだと思う。

 五歳で母親を亡くしてからというもの、本来なら得られるはずだった貴族としての教育はおろか、生きていくための食事すらまともに与えられなかったのだ。

 当然、優しさや愛情というものも得られなかっただろう。


 何より、それを普通のことだと思ってしまっていることが、見ていて苦しい。

 何故、そんな仕打ちを受けなければならなかったのか。


 コレッティーナじゃなくていいだろ!

 何で、コレッティーナなんだよ……。


 飴一つで喜んで、頬をゆるめて()める。

 その姿を見るたびに可愛いと思う反面、最近では胸の奥に苛立ちが湧き上がってくる。

 コレッティーナを温かく迎え入れなかった馬鹿な俺を殺してやりたい。

 あの日に戻って、やり直せたら……。


「ごめんな……」


 柔らかな髪を撫でる。

 そうすれば、コレッティーナはへにゃりと笑った。


「こんなにいっばい、食べられませんよぉ……」


 幸せそうに口をもごもごと動かしている。


「……うまいか?」

「あい。旦那様には……ピンク…………。アンネにはブルーの…………」


 ……おい。何で俺がピンクで、アンネがブルーなんだよ。

 おかしいだろ。


 規則正しい寝息をたてているコレッティーナに、溜め息がこぼれる。


「お前には、俺がどう見えてるんだろうな……。って、お前呼びは駄目だったんだっけか? 悪い、気を付ける」


 寝ている相手に話しかけるなんて、どうかしている。


「なぁ、コレッティーナ。ラビソン家を潰すと言っていたが、俺がやったら駄目か? もう、コレッティーナが傷つくところを見たくないんだ……」


 いや、違うな。

 コレッティーナが虐げられる様子を、俺が見たくないんだ。

 きっとコレッティーナは、ラビソン家の者に何をされても気にもしないだろうから。


「はぁ……。どうせ駄目って言うんだろ? 頼むから、一人で何でもしようとするなよ……」


 頼ることも、頼むことも、コレッティーナは選択肢から無意識のうちに除外するクセがある。

 生きていく中で、そうしなければならなかったのだとは分かる。けれど──。


「それをさみしいと思うんだよなぁ」



 さて、こうしていても仕方がないし、部屋まで運ぶか。


 コレッティーナを抱き上げ、隣の部屋まで行く。

 ベッドへと降ろし、布団をかけようとした。


「──っ⁉ え、おい! ちょっ……」


 だが、俺の手は布団をもったまま、何故か体を起こしたコレッティーナに抱きつかれる。


「逃がしはしません! あなたには申し訳ありませんが、今日の晩御飯になってもらいます! って、あれ? うなぎってどう(さば)けばいいのでしょう……か……」


 そう言いながら、コレッティーナは俺の首に手を回したまま後ろへと倒れ込んだ。


「うわっ!」


 勢いよく引っ張られ、俺の体も一緒に倒れていく。


「あっぶね……」 


 どうにかコレッティーナを潰さずに済んだまでは良かった。


「──っ‼ コレッティーナ、離してくれ!」


 ぺちぺちとコレッティーナの腕を叩くけれど、まったく離す気配はない。

 それどころか、力が強まっていく。


 近い。近いって!

 顔が熱い。心臓の音が耳まで聞こえてくる。


「頼む。手の力を抜いてくれ。いい子だから……」


 腕をベッドにつき、できるだけコレッティーナから離れようと力を入れる。

 だが、俺の努力はコレッティーナの寝言によって、すぐさま打ち砕かれることとなる。


「……へへへ。きっとこれでみんな喜んでくれます。巨大うなぎ、もとい沼の主ゲットですよぉ」

「巨大うなぎって何だよ……」


 あまりの寝言に脱力し、腕の力が抜けた瞬間、コレッティーナの足が俺の腰に絡みつく。


「…………」


 これ、もう無理じゃないか?

 大人しく、力が抜けるまで待つしかなくないか?


 こういうのを諦めの境地と言うのだろう。

 この日、俺は自分の力ではどうにもならないことがあるのだと、身を持って、思い知らされたのだった。


 それにしても、こんな大声ではっきりと寝言を言う人っているんだな……。


 

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