「お前を愛することはない」と言われたので、食料調達はじめます②
「お、奥様! いけません。すぐに口から吐き出してください」
「んー!」
口に詰め込んだまま、全力で首を横に振る。
「ペッです。ペッしてください!」
必死の形相で言われるけれど、私だって譲れない。
ハンカチに包んでいた葉っぱや花、実などを次々と口のなかに入れていく。
──むしゃむしゃむしゃ、もぐもぐもぐ。
「──っ。奥様、失礼いたします」
そう言いながら、デザーさんは私のごはんたちを取り上げた。
「ふぁ、ふぁにするんでふか!?」
「何じゃございません。お腹を壊してしまいます」
私のごはんたちを取り返そうと手を伸ばす。
けれど、デザーさんは手を挙げてしまい、ジャンプしても届かない。
「お食事が足りなかったのですか? って、ネグリジェ!? 裸足ぃ!?」
またもやギョッとしたようにデザーさんは私を見る。
なかなか騒々しい人だ。
見た目はロマンスグレーなのに……。
「デンガ、これを持っていてください」
私のごはんをデンガさんに渡すと、デザーさんは自らの上着を素早く脱ぎ、私の肩にかけてくれる。
その顔には、眉間に深いシワが刻まれている。
「…………奥様、大変申し訳ございません」
絞り出すような声と小さく震える手に、私は首を傾げた。
「謝罪はいいので、私のごはんを返してください」
「それは、なりません。どうやら不手際により、奥様の身の回りのお世話が行われなかったようですね」
デザーさんの目がギラリと光る。
これは、不手際と言いつつも、わざとだと気づいてるな。
「不手際をした人たちをどうするつもりですか?」
聞きつつ、近くにあった葉っぱをむしる。
が、その葉っぱもデザーさんに回収される。
「処罰いたします」
「うぐぐ……、まともな人め……」
私だって、話しながら葉っぱをむしって食べるのが非常識だって知っている。
けど、そうでもしなきゃ、食事確保ができないじゃないか。
「奥様、食事はきちんと用意いたしますので」
「え! いいんですか!?」
「はい。ですので、このようにお外にあるものを召し上がらないでください」
……それは、無理だな。
いざという時の非常食を蓄えないとだし。
「お食事楽しみです! ありがとうございます。デザーさん!」
あえて返事をせずニコニコと答えれば、デザーさんも微笑み返してくれる。
「奥様、駄目ですからね?」
「そ、そんなぁ……」
……何だろう。この、デザーさんの最強感は。
私、奥様なのに。
何もしてもらえなかったけど、この屋敷の奥様なのにぃ!!
じとりとデザーさんを見るけれど、微笑みを浮かべたままだ。
「改めまして、私、侍従の取りまとめを任されております。執事長を務めるデザーと申します。どうか、デザーとお呼びください」
頭を下げる姿を見つつ、何を言っても無駄だと悟る。
まぁ、いいや。要はバレなきゃいいのだ。
「……分かりました、デザー。私のことは奥様ではなく、コレッティーナと」
「しかし……」
「お願いします。きっとここでは、誰も私の名を呼んでくれないので……」
わざと伏し目がちに言う。すると──。
ズズッ……、ズズズッ……。
鼻のすする音がする。
何で? と、声の方──デンガさんを見れば、鼻をすすりながら号泣していた。
私のごはんたちがびしょ濡れになっちゃう!!
と思ったけれど、ハンカチに包まれていた。良かった。
「わ、わしもコレッティーナ様と呼びますのじゃ。わしのことはおじいちゃんと……」
「デンガ、身分を弁えなさ──」
「デンガおじいちゃんっ!」
ん? デザー、何か言った?
じっとデザーを見れば、少し困った顔をして微笑んだ。
「仕方ありませんね。私も時々ですがお名前で呼ばさせていただきます。コレッティーナ様」
「ありがとうございます!」
「いえ、私は何も。まともじゃない方々はきちんと処罰させていただきますので、ご安心ください。すぐに侍女頭を呼んで着替えられるよう手配いたします」
氷のように冷たい目に、ご愁傷様と心のなかで手を合わせる。
ま、食事を運ばなかった人は重罪だからきちんと処罰してもらわないとね。
食べ物の恨みは恐ろしいのだよ。
「食事を運ばなかった人だけは絶対に解雇してください。あと、着替えの手配は結構です」
今にも動き出しそうなデザーを止める。
「その前に、旦那様に会いたくて。どこにいるのか、教えてもらえませんか?」
どういう意図を持って、政略結婚相手へ食事を出さなかったのか。
きちんとご説明願わないとね?
ついでに「愛することはない」宣言に、私もお返事をきちんとしたいし。
ふっと、昨夜のテンプレ事件を思い出し、吹き出しそうなのを堪えるために口を手で押さえて下を向く。
「……コレッティーナ様は、此度のことを旦那様の指示だとお疑いなのでしょうか」
「そう……ですね。指示とまではいかなくとも、原因の一つであると思っています」
声が震えた。
笑いを堪えたせいで、肩も揺れ、目尻から涙がこぼれる。
「さようでございますか。只今の時間は執務室にいらっしゃいますので、ご案内いたします。が、そのまえに医師に足を診てもらいましょう」
眉尻を下げ、デザーは私の足を見る。
「怪我もしてないし、大丈夫ですよ。あ、このままお屋敷の中を歩いてもいいですか?」
「それは、大丈夫ですが……」
「良かったです。私が汚したところは、食事を運ばなかった人に掃除させてくださいね。解雇だけでは許せません」
食べ物の恨み、償ってもらうからね。
できるだけ、絨毯の上を歩こう。
少しでも苦労すればいい。
「それと、旦那様のところには、一人で行かせてください。デザーには旦那様のいる場所と行き方を教えてほしいんです」
「きちんとご案内いたしますよ」
優しい声でデザーが言ってくれる。
だけど、それじゃ駄目だ。
「いえ。使用人たちの反応を見たいので。笑ったり侮蔑したりする人の顔をしっかり覚えておきますから、その人たちは今後私に近づかないようにしてください」
そうしたら、嫌がらせされることも減るはず。
何より、互いにストレスがない。
「承知いたしました。ご迷惑をおかけし、申し訳ございません」
「いえ。デザーに責任がないとはいいません。ですが、一番の問題は旦那様ですから」
さぁ、旦那様に会いに行こうか。
言い訳くらいは聞いてもいいけど、そう簡単に今回の件は許さないからね。
デザーに上着を返し、私は意気込んで旦那様のいる執務室を目指した。




