「お前を愛することはない」と言われたので、食料調達はじめます①
短編版に加筆修正して、スタートしてます。
よろしくお願いします。
「お前を愛することはない」
結婚式を終え、夜、夫婦の寝室に二人きりとなった途端、夫となったカリウス・ナビレートに言われた。
「…………え?」
「だから、お前を愛することはない。俺に何も期待するな」
冷たく言い放たれ、鋭い視線を向けられ、私はうつむいた。
小さく肩が震える。
口元を手で隠すと、息を整えてから、どうにか言葉を口にした。
「お、お世継ぎは、どうなさるのですか?」
「遠縁から優秀な養子を迎える。とにかく、お前は何もするな。分かったな」
黙ったまま頷く私を見たあと、旦那様は寝室を出ていった。
その瞬間、耐えきれず私の膝は崩れ落ちる。
「…………ふっぐっ……」
もう無理だった。
寝室の外に声が漏れることのないよう、必死に両手で口を押さえる。
「ぶふっ! ぶふふ…………」
空気が手のひらにあたり、くぐもった音がもれた。
目尻から涙をこぼしながら、ふかふかなじゅうたんに倒れ込む。
「お前を愛することはない」という旦那様の言葉が頭の中で繰り返され、息が苦しい。
あまりにもテンプレだ。
こんなにテンプレ過ぎることを言う人いるんだ……。いやいや、成人もして、政略結婚の意味を理解しているであろう立場の人が言うはずない。きっと聞き間違いだ。
などと思っているうちに、第二波「何も期待するな」が来て、もう駄目だった。
旦那様に向かって、指差して笑わなかった自分を褒めてあげたい。
「あー、笑った笑った。「お前を愛することはない」って、政略結婚で初対面の相手に言う言葉じゃないよねぇ……ぶふっ!」
駄目だ。これ、しばらく旦那様の顔を見たら笑っちゃうやつ。
「顔が良くても、性格があれじゃねー」
間違っても、私も愛することはないな。
と、艷やかな黒髪に濃紺の瞳を持つ、整った顔をしたヒーロー顔の旦那様を思い出す。
「あっ! 恋人がいるのかも。えー、ゴタゴタは勘弁なんだけど」
とりあえず、夜を共にしなくて良かったことに胸を撫で下ろし、私は大の字になって寝ても空白の方が広いベッドの上で、やはり大の字になって寝てみた。
明日からもこのベッドは使わせてもらえるのだろうか。
寝心地、最高!
さすが同じ伯爵家でも金のある家は違う。
***
翌朝、誰も起こしにこなかったので、思い切って昼過ぎまで寝た。
「あー、よく寝た」
こんなに寝たのは、いつぶりだろうか。
首と肩をぐるぐる回してから、ベッドサイドにあるベルを鳴らす。が、誰も来ない。
「聞こえない……とか?」
チリンチリンチリンチリーン!!
くじ引きの金を鳴らすリズムで高らかにベルを鳴らしてみる。
「…………あ、誰も来ない系か」
なるほど、なるほど。
実家と同じだから、それはいいとして……私のご飯は?
困った。
この屋敷で私が知っている場所は、この寝室と隣接してる浴室。そして、玄関ホールからここまでの道のりくらいなもの。
食料調達の場所が分からない。
「お腹すいたな……」
『ぐぅ……』
私のつぶやきに返事をするように、お腹が鳴る。
胃がきゅっと縮むような感覚に、胸の奥がざわつく。
食事がないのは駄目。
他はいらないけど、食事だけは……。
「よしっ! 来ないなら、勝手にちょうだいしよう。まずは、着替えないとだ」
頬をペチンと軽く叩き、気合を入れる。
クローゼットを開ければワンピースやドレスがたくさんあった。
「これ、着ていいやつだよね……。袖を通したら弁償とかある?」
前世で楽しんだ異世界恋愛の小説たちを脳内検索していく。
「うん。そこまでのケチヒーローはいないな」
一人で着替えやすいものは……と選びかけ、手を止める。
思わず口角が上がるのを感じながら、私は大きめのハンカチ1枚だけ出し、クローゼットをしめた。
スキップしながら扉の前まで行くと、そっと扉を開けて寝室の外を覗き見る。
「やっぱり誰もいない!!」
初夜のために着せられた──この世界ではセクシーにあたるネグリジェのまま、靴も履かずに私は寝室を出る。
ふふんっ。前世ではキャミソールとミニスカートで街を歩き、水着はビキニだった。
この程度、日常よ。
ペタペタと裸足で屋敷内を歩いていけば、くすくすと笑う者、顔を赤くして逸らす者、そっとこの場から去る者、申し訳なさそうな顔をする者……反応は様々だ。
けれど、旦那様を呼んだり、声をかけてくる人はいない。
「すみません。食事が……」
「──っ! 申し訳ございません!! 失礼いたします!!」
真面目に掃除をしている侍女さんに話しかけたら、逃げられた。
「あの──」
「ごめんなさい!」
「すみませ──」
「大変だ。こんな時間だ!」
そんな様子を見て、愉しそうに笑う集団。
つまり、あれが原因ってこと……かな?
「ふーん……。でも、甘いかな。実家には負けるし」
義母と義妹は、私を使用人扱いしてたしね……。
まぁ大方、事前に旦那様に何か言われているか、冷遇された妻など仕えるのに値しないと思われているか、どちらかなのだろう。
だけど──。
「ごはんが出てこないのは困るんだよ」
頼んだら、厨房でわけてくれないかな……。
ま、その厨房の場所も分からないんだけどさ。
『ぐぅ……』
何か食べたいと鳴ったお腹をなで、やはりあれしかないか……と、窓を開ける。
確実に食料を確保するため、窓から外へと出た。
裸足で踏んだ土の感触が、少しヒヤリとして気持ちいい。
「ふんふんふんふーん♪」
食べられる草や葉、実などを勝手に採取して、持ってきたハンカチにのせていく。
「あ、この実あまーい! さすが金持ちだわ」
つまみ食いをしながら、今日の夕飯分の確保も始める。
干して日持ちするようにもしたいから、多めに採取しないと!
裸足のまま伯爵家の庭と呼ぶには広すぎる敷地を歩き回る。
「おっ! 根っこでお茶を作れるやつだ!」
このお茶は私の唯一の嗜好品だったもの。
問題は、この植物は抜くのにかなり力がいることだろうか。
「ぬっぉぉぉぉおおおお!! ──うぁぁぁぁぁあっ!!」
全力で引っ張っていると、ブチブチブチという音がして、尻もちをついた。
私の手には、千切れてしまった茎がある。
なるほど。抜くのを失敗したというわけ……か。
ここで諦めるという手もある。
けれど、今は飲み物が水だけになるか、大好きなお茶があるかという分岐点。
私はお茶が飲みたい!
えっさほいさと手と石を使い、どうにか掘り起こしていく。
「……この根を掘り出すのかの?」
「はい。この根っこでお茶を……作って…………。え?」
「なるほど。わしも手伝って良いかの?」
「それは、とてもありがたいですけど……」
誰!?
私の目の前には、麦わら帽をかぶった小柄なおじいちゃんがしゃがんでいる。
おじいちゃんはにこりと笑うと、すごいスピードで素手で土を掘り始めた。
「ほれ。これ一つでいいのかの?」
「あ、はい。ありがとうございます」
受け取りつつも「だから、誰?」と思う。
「私、コレッティーナです。あなたは……」
「庭師のデンガと申しますのじゃ。ところで奥様は、ここで何をしておったのかの?」
「朝ごはんをとりに」
素直に答えつつ、新鮮な葉を一枚食べる。デンガさんはつぶらな目をぱちぱちとさせる。
「朝ごはん?」
「はい。お腹が空きましたので」
もう一枚食べつつ、互いにしゃがみ込んだまま、じっと見つめ合う。
「「………………」」
その間も、デンガさんは目をぱちぱちとし続け……って、瞬き多いな。
なんて思っていたら、デンガさんは大きく息を吸った。
「デザー殿ぉお! 事件じゃぁぁあ!!」
広いお屋敷の敷地中に響くような大声でデンガさんは叫ぶと、遠くから土煙と共に、誰かが走ってきた。
そして、私を見てデザーと呼ばれた執事っぽい男の人は目を見開いた。
「奥様が葉っぱを食べていらっしゃる!?」
「……私の朝ごはんです。あげませんよ」
手伝ってくれたデンガさんはともかく、この人にあげる義理はない。
取られないよう、私は葉っぱや花を口のなかに詰め込んだ。




