「お前を愛することはない」と言われたけれど、お肉が美味しくて幸せです。
「それは、ラビソン伯爵家を俺が潰してもいいってことか?」
「違います。私が潰します」
「……なら、何で急に売ろうとしたんだ?」
不思議そうに旦那様が聞いてくる。
「ワイルドお肉を買うためのお金です!」
「いらないだろ」
「──っ! 私にワイルドお肉を食べるなってことですか!?」
情報を買わないのは、理解できる。
けど、食べるななんて……。許せない!
ギッと旦那様を睨む。
けれど、旦那様は私の手を引きながら屋台へと近づいて行く。
「二本くれないか」
「はいよ。まいどありー」
串に刺さった所々黒い焼き色がついたボディーに、遠慮なく振ってある香辛料。今にも溢れ出しそうな肉汁……。
あぁ、なんてワイルド……。
「ほら」
「……へ?」
目の前に差し出されたワイルドお肉。
かぶりつきたい衝動を必死に抑え──。
──ガブッ。
「はふ……はふ…………。肉汁じゅわっ。むぐ……むぐ…………。ワ、ワイルド〜」
串に刺し、塩と香辛料を振っただけなのに、何という背徳感のあるお味!
ただのワイルドじゃない。これは……。
「ウルトラスーパーハイパーワイルドお肉!!」
「ぶほっ……。げほげほげほ……」
旦那様がむせた。
「大丈夫ですか? ウルトラスーパーハイパーワイルドお肉のお塩がきつかったですか?」
高級品ばかりを食べている旦那様のお口には、刺激が強かったのかもしれない。
「あ! ちょっと待っててください」
「げほ……どこ……行くんだ……けほ……」
見つけたのだ。
しょっぱかったのなら、塩味を薄めればいい。
お肉には、きっとこれが合う。
──ぶちっ。
「あーん。むしゃむしゃ……。うん、やっぱり毒ないです」
「おい、いきなりどこか行くんじゃない!」
追いかけてきた旦那様が私の肩をつかむ。
「おいって言わないでください」
「悪い……じゃなくて、ハグレるだ……むぐ」
旦那様の口に摘みたての葉っぱを突っ込む。
「お口、さっぱりしましたか?」
そう聞きつつ、私ももう一枚食べる。
うん。ここの葉っぱは、大きいし育ちがいい。
非常食として記憶しておこう。
「……俺のために葉っぱを取りに行ったのか?」
「はい。しょっぱくてむせてたので!」
「いや、むせてたのは……ありがとな。おかげで、ちょうどよくなった。この葉は何て言うんだ?」
え? 名前?
そんなの全部、葉っぱは葉っぱだ。
「知りません。葉っぱです」
「…………そうか」
うん? 何でそんな残念そうな顔をするの?
「この葉は好きなのか?」
「はい。葉っぱ界隈でもクセがなくて食べやすいのでオススメです」
って、あれ?
私、ウルトラスーパーハイパーワイルドお肉にかぶりついた……よね。
「お金!!」
「え?」
「無銭飲食しまし……むぐぅ」
旦那様の手が私の口をふさぐ。
「むむ、むむむぐー!!」
ばしばしと旦那様の手を叩けば、パッと離される。
「す、すまない」
「ぷはぁ! いきなり何するんですか!!」
旦那様は手が大きいから、口どころか鼻もふさがったじゃないか!
「あのな。きちんと金を払ってるから、無銭飲食にはならない」
少し大きめの声で言われる。
というか、周りを気にしてる?
……あ! なんか注目されてる!!
「でも、払ったのは旦那様で、私は払ってません。旦那様のお肉を勝手に食べちゃいました。有罪です」
「ギルティって……」
私なら、めっちゃ恨む。
何なら、生霊になって枕元に立つ。
人の食べ物を奪うようなやつは、万死に値する。
「そうは言っても、一本はコレッティーナに買ったものだしなぁ。俺が一緒に食べたかったから、プレゼントした。それじゃ駄目なのか?」
「……駄目です」
もらうだけは、駄目だ。
何か返さないと……。
「じゃあ、その手に持ってる葉と交換しよう」
「……そんなに気に入ったのなら、旦那様も摘めばいいですよ」
「コレッティーナが摘んだのがほしいんだ」
──っ!!
や、優しい……。
誰が摘んだって、同じなのに。
「はい、交換」
「ありがと……ございます……」
ワイルドお肉が食べれて嬉しい。
でも、旦那様に施されたみたいで、胸がじくじくする。
「おいしくないのか?」
「……おいしいです」
そう。おいしい。
ワイルドなおいしさがある。
でも、ウルトラスーパーハイパーではなくなっちゃった。
「実はな、このウルトラスーパーハイパーワイルドお肉はな、コレッティーナへの先行投資なんだ」
「先行投資?」
「あぁ、この肉を食べてコレッティーナがやる気を出してくれたら、今回の市場調査はどうなると思う?」
「効率よく進む……ですか?」
旦那様は小さく微笑む。
「そうだ。だから、この肉は必要経費だ」
「必要経費!!」
なるほど。それなら、遠慮なく食べれる!!
「あーむっ!! もぐむぎゅ……もぐ……。はわぁぁぁ、ウルトラスーパーハイパーワイルドでおいしいです!!」
「そうだな」
時々葉っぱをちぎって食べながら、ワイルドお肉を完食した。
「いいか。今日食べるすべての食べ物は必要経費だ。仕事できてるのだから、遠慮するなよ」
「はい!」
あぁ、市場調査って最高! 毎日、市場調査がいいなぁ。
いつも読んでいただき、ありがとうございます。
街を満喫し始めたコレッティーナ。本当は葉っぱをちぎって食べちゃ駄目なので、あとで旦那様の命でデザーあたりが謝罪に行っていることでしょう。
知らず知らずのうちに、旦那様の仕事を増やす。それがコレッティーナです。




