「お前を愛することはない」と言われた私、バナナに衝撃を受ける
「ふぃー、美味しかったです。ごちそうさまでした!」
食べてぽこりと膨らんだお腹をなでながら言う。
前世では嫌だった食後のぽっこりお腹も、今世では愛おしい。
食べられるって幸せ……。
「お腹いっぱいか?」
「はい! 大満足です!!」
元気いっぱいに言えば、旦那様は嘘くさい困り顔を浮かべた。
「そうか……。デザートもあったんだが、お腹いっぱいでは──」
「食べます!! デザートは別腹です!! 何なら、お腹すいた気もしてきました!!」
食べ損ねてなるものかっ! と、手を挙げて全力アピールをする。
……ん? 旦那様、震えてない?
「なる……ほど……。お腹もすくの……か…………ぶふっ、……ふふ……くくく…………」
「そうです! だからデザートください!」
と言うと、旦那様はテーブルに突っ伏してしまった。
お行儀悪いけど、楽しそうで何より。
「デザートでございます」
アンネが出してくれたものを凝視する。
これは……庶民の味方のあれだよね?
「栄養価が高いんだそうだ」
なるほど。そこは前世と一緒だ。
けど、ここは異世界。私の知らない未知の味なのかもしれない!
「ありがとうございます。いただきまーす!」
お皿の上に輪切りにされ、きれいに並べられているバナナを一切れ、食べる。
「んー! あまーいっ!! ねっとりしてるのに、しつこくなくておいしいです!!」
今世では初めて食べるバナナに口が喜んでいる。
けど、ものすごーく前世で馴染みのある味だ。
普通のバナナ……だよね。おいしいけども。
「旦那様がコレッティーナ様のためにと、南国より取り寄せたのでございます」
小さな声でデザーが私に教えてくれる。
けれど──。
「余計なこと言うな!」
バッチリ聞こえたようで、旦那様は耳を赤く染めた。
「バナナは、めったに食べられないんですか?」
「気に入ったのか? また取り寄せとく」
バナナがお取り寄せフルーツ!?
そ、そうか……。この世界では交通網が発展してないもんね。
実家からナビレート伯爵家に来るのも馬車だったし、道もデコボコだった。
フォークで小さく切って、バナナを食べる。
「はぁ……おいしい……」
貴重だと思うと、さらに美味しいのは何でだろう。
ちみちみとバナナを食べ進めてれば、旦那様から強い視線を感じる。
「……これは、私の分です」
旦那様のお金で買ったけど、これは私がもらったバナナだ! 絶対にあげないんだから!!
お皿を旦那様から離れたところに逃がせば、アンネに元に戻される。
まさか、アンネは旦那様の味方!?
次いつ会えるか分からないから、ちょっとずつ食べようと思ったけど、とられるくらいなら一口に入れよう!
そう決意して、かき込んで食べようとお皿に手をかける。
「取らないから、安心しろ」
「……破ったら、末代まで祟ります」
「それもいいな」
ふっと小さく笑う旦那様は、今日も安定してお疲れのよう。
祟られたいなんて、心が荒んでいるに違いない。
「……実は、コレッティーナに伝えなければならないことがある」
「何ですか?」
そんな深刻な顔をしてどうしたんだろう。
「罰を与えていた五人だが、最後の一人に今日ドクターストップがかかった」
「そうですか」
そのことなら、デザーから聞いて知っている。
口にできるものは塩と水のみ。その生活を罰として始めて、主犯はたった一日半で脱落。三人は三日で精神に支障をきたす可能性があると終了。最後の一人であったセナさんも、ドクターストップかぁ……。
「子どもの頃、五日なら余力があったから、いけると思ったんだけどな……」
「コレッティーナ……」
「駄目なものは、仕方ありませんね。そういう約束でしたから。では、セナさん以外は二度と私の視界に入らないよう、お願いします。セナさんはラビソン伯爵家に送ってくださいね。きっと人手不足だから、ろくな調査もせず雇ってくれますよ」
あの家、私に仕事を押し付けてラクすることしか考えない使用人が多いからな……。
真面目な人ほど辞めてっちゃうし。
「あ、それと、これはお願いなのですが……」
「……? 何でも言ってみろ」
「クソみたいな実家ですが、助けてくれた人たちもいたんです。その人たちが望んだ場合、新しい仕事先を紹介してもらえないでしょうか?」
私を庇って解雇されてしまった者や、こっそり食べ物をくれて罰を受けた者。
彼らのおかげで生きてこれたのだ。
「特にミュゲルって侍女は優遇してください! 食べるものがないなら、庭の草を食べればいいと言ってくれたんです!! まさにメシアです」
「…………は?」
「私にはない発想でした。草を食べるようになってから、空腹で寝れないこともなくなって、本当に感謝してるんです」
そう言い終わるかどうかのところで、旦那様の手が伸びてきて、抱きしめられる。
「これからは、俺が好きなだけ食わせてやるからな」
「……えっと、このギューは好きなだけ食べるための対価ですか? 私、対価なら労働で返します。ギューは、契約に入ってません」
旦那様の胸板を押せば、すぐに距離ができる。
「……草を食って、腹は大丈夫だったのか?」
心配そうに濃紺の瞳が私を映す。
そうか。まだ伝えてなかったんだっけ。
「私、毒を食べると激辛に感じるんです。なので、ちょっとかじって駄目ならペッしました」
毒の耐性はないけど、感知はバッチリだったから、お腹を壊したことはなかったんだよね。
ナビレート家でお腹が痛くなったのって、脂質に胃が耐えられなかったからだし、感知だけって便利そうであまり役に立たないよなぁ。
街のシーンまでたどり着けませんでした。
すみません。明日か明後日には、必ず……。




