「お前を愛することはない」と言われた私、新規事業をさせてもらえそうです
「──で、詳しく教えてくれ」
豪華な缶に入った、見るからに高そうなチョコレートがテーブルの上に置かれる。
これは、もしかしなくてもご褒美というやつ!?
「あの、これって……」
「チョコレート、好きだろ? 頑張り屋のコレッティーナへのプレゼントだ」
口の中にあふれた唾液を飲み込む。
全力で力にならないと!
今こそ、前世の記憶の使い所だよ! しっかりプレゼンして、チョコレートゲットしなきゃ!!
「えっと……傷のついた果物ですが、加工が簡単なものだと、先ほどあげたジャム、ジュース、あとはコンポートもいいかと思います」
「コンポート?」
「はい。痛んだところは取り除いて、りんごなら砂糖とレモン汁と一緒に煮ます。パイやケーキにも使えて、冷蔵で三日から一週間くらい保ちますよ」
あ、あとはゼリーに入れるのもいいかも!
って、この話、うまくやれば味見係になれるんじゃない?
「まずは、試作品を作ってみないとだな」
「そうですね。問題は領で作ったものを出荷するとなると、保存がきかないことでしょうか」
ふむふむ、なるほど。領内で加工して出荷が前提なのか。
だけど、それじゃあ味見係ができなくて困るんだよ。
「ジャムなど日持ちのするものは領内の新しい特産品として作って、一部の傷がついた果物を他領にも売り出すのはどうですか?」
「売れると思うか?」
「はい。とは言っても、果物を販売するお店ではなく、お菓子や料理に使用するお店に対してですが。……それと、私だったら領地に一号店を作って、ここ王都にも二号店のお菓子屋さんを作ります!」
その二号店の味見を、私がするのだよ!
あぁ、夢が広がる……。
ドライフルーツを作って、チョコレートをコーティングするのもいいなぁ。
「商品は、季節の果物のパイ、ケーキ、ゼリーは外せませんよね。あと、ドライフルーツにチョコをコーティングしたものも人気が出ると思います! それから、研究すればフルーツティーなんかも──」
「ストップ! いったん、落ち着け」
いいところだったのに……。
不満に思い旦那様を見れば、少し困ったように笑っている。
「商品開発を含めた菓子店の新規事業、やってみるか?」
「いいんですか!?」
「あぁ、これだけ嬉しそうにされたらな。やらせてみたくなる。何より、コレッティーナが思い描く甘味を俺も食べてみたい」
──っ!!
味見も、お菓子作りも仕放題!?
一日、お菓子のことだけを考えてて良いってことだよね!!
「全力で、頑張ります!」
「ほどほどにな。もちろん俺もサポートするし、アンネも詳しいはずだ」
「……アンネがですか?」
私付きの侍女になったアンネは、いつもきびきび動いていて、一人で三人分は働いている。
そこに別の仕事を頼むのは、労働過多だよなぁ。
「旦那様、アンネは働きすぎです」
「そうだな。部屋の掃除や食事の配膳は別の者に任せるように言ってるんだが、どうしても自分でやりたいんだと」
「……? 働くのが生きがいってやつですかね」
仕事が趣味かぁ。
あ、でも私もお店を開くとなったら、好きが仕事になるわけか。
「コレッティーナのキレっぷりに惚れたそうだ」
「…………はい?」
「何でそうなったのか、俺にもよく分からないから、気になるなら本人に聞いてくれ」
そう言いながら、旦那様は少し遠い目をする。
うん。これは、聞かない方がいいやつだ。
すごい勢いで語られるけど、まったく理解できないとみた。
「……機会があったら、聞いてみます。あの、どうしてアンネが詳しいんですか?」
「大きな商家の娘なんだよ。二年前までは実家の商会で働いてたんだ」
「へぇー、そのまま商人にはならなかったんですね」
「あぁ、商会はお兄さんが継いだしな」
なるほど。
でも『お兄さんが継ぐ=商人にならない』とは、結びつかないよなぁ。
「わかりました。アンネの意見も聞きながらやってみますね」
皆、それぞれ事情があるってことだよね。
***
お昼の時間になり、食堂へと移動した。
長いテーブルの端と端に向かい合って座る……なんてことはなく、私と旦那様は隣に腰掛ける。
「ふぉぉぉぉお!」
私の目の前には、待望のぷりっぷりウィンナーちゃんとリクエストした目玉焼きにチーズトースト、サラダ、ミネストローネが並んでいる。
「いただきます!」
すぐさまウィンナーにフォークを刺せば、プツリという音と共に、挿したところからじゅわりと肉汁が出てきた。
あぁ、旨味が出ていっちゃう!
急いでウィンナーを頬張る。
「あふっ! あふいけど、おいひー!!」
はふはふとしながら、ウィンナーを噛みしめる。
噛むごとに溢れ出る肉の旨味……。肉汁がジューシー!!
「はぁぁ……。幸せ……」
大事に取っておきたいけれど、ウィンナーは熱々のパリッとした時が一番おいしいのだ。
やはりおいしい時にいただくのが、礼儀というもの。
──パリッ。
はふはふ。もぐもぐもぐ……。
「もっと食べるか?」
「はい!」
返事をすれば、旦那様が一口大に切ったウィンナーをくれる。
「あーんっ!」
旦那様のフォークから直接パクリと食べれば、またもう一口運ばれてくる。
「旦那様、それ以上は奥様のお腹が心配です」
「そ、そうか。もう駄目か……」
給仕してくれているアンネの言葉に、旦那様からのウィンナーの供給が止まる。
「大丈夫です! まだまだ食べられます!!」
「もう少し経ったら、もっと食べれるようになるさ。また倒れると悪いから、今日はここまでな」
「そんなぁ……」
旦那様のお皿の上にあるウィンナーを見るけれど、そのウィンナーは無情にも旦那様の口に運ばれていったのだった。
誤字報告、ありがとうございます!
次の話では、コレッティーナが街へ行きますよ。




