「お前を愛することはない」と言われたのに、旦那様が背後霊化しました②
「知らないわ。ハメられたのよ!」
「誰にです?」
「セ、セナによ!」
指差されたセナは目を見開き、無言で首を横に振る。
「セナさんにどうハメられたんですか?」
「私に罪を着せるために、仕組んだに決まってるわ」
「どうやって?」
「そんなの知るわけないでしょう!」
ツリ目をもっと釣り上げて、怒鳴られる。
キンキン声が義母と義妹とそっくりで、うるさくて仕方ない。
さっさと終わらせよう……。
「分かりました。では、あなたとセナさんは二人とも解雇で」
「──っ。何でそうなるのよ!」
「こ、困ります……」
と言われても、もう決めたことだ。
「たとえ今回の窃盗が冤罪だとしても、あなたたちには別の罪がありますから。あ、二人だけじゃないですね」
実を口に含みつつ、目当ての人物の前に行く。
「あなたと、あなた。それから、あなたもですね……」
指名した五人の顔を一人ずつ見て、にっこりと笑いかける。
「解雇します」
一瞬、ホール内は静まり返ったあと、ざわりと空気が揺れた。
「どういうことですか? 私たちは関係ありません」
「そうですよ。何もしないのに、あんまりです」
「急に解雇だなんて、ひどすぎます……」
新しく指名した三人が訴えてくる。
仕方ない。再発防止のために、ほかの使用人たちにも聞こえるよう説明しておくか。
「あなたたち五人は、あの日の私付きだったにも関わらず、食事を運びませんでしたよね」
「た、たった一回です。それに、その罰はもう受けたはずです」
「毎日、きちんと掃除しました。侍女長に聞いてくれたら分かります」
無実を証明するように、自信満々に言われる。
けれど、どう話したところで、私の気持ちは変わらない。
「侍女長なら、二日前に辞職していただきました。知りませんでしたか?」
私と旦那様、デザーしか知らないことを、知っていて当たり前のように話す。
侍女長は、侍女たちの統率を取れないどころか、私とすれ違う度に敵意を向けてきていたのだ。
彼女を放置していたら、また食事がないなんてことが起こりそうなので、排除した。
「それに、掃除は罰なんかじゃありませんよ」
「……え?」
「ただの嫌がらせです」
食事を持ってこなかった罪が解雇だけなんてあり得ない。
それじゃ、すぐに清算できてしまう。
「あなたたちは、私の命を脅かしたんです」
「何を言って……」
「食事とは生きることです。食べなきゃ死んじゃうって、知らないんですか?」
「──っ」
余程、恵まれた人生を歩んできたんだろう。
残飯を漁ったことも、庭の花や葉をむしって食べたことも、空腹でお腹が痛くなったことも、気持ち悪くてめまいがしたことも、何一つない、平和な日々を送ってきたんだろう。
「せっかくだから、一度経験してみるのもいいですね。死んじゃうといけないから、塩と水だけは用意しますよ。そうですね、とりあえず七日間でいいですか? 足りなそうなら、延長ということで」
前世で一月くらいなら水と塩だけで生きていけると聞いたことがあるし、私も厨房から塩をくすねて水と塩のみで五日ほど生活したことがある。
一週間なら、まず問題はないだろう。
そう思ったのに、侍女の顔色が悪い。
「旦那様、五人を同じ部屋で一週間監視は可能ですか?」
「できるが、本当にやるのか?」
「はい。食事の大切さを彼女たちは知るべきです。……何より、私の命を狙ったことを理解させないと駄目です」
いや、彼女たちだけじゃ駄目か。
屋敷全員にしっかり覚えさせないとだ。
「旦那様。やっぱり、使用人全員にさせましょう」
「は?」
「そうすれば、食の大切さを理解できますし、何よりも再発防止になりますから」
何という名案!
もちろん私は既に理解しているからやらないけどね。
「あ、旦那様もやります?」
振り向いて旦那様を見上げれば、顔を引きつらせている。
「いや、俺は遠慮しておく。それに使用人たちも体調を崩すと悪い。全員は許可できない」
「なら、交代制ですね」
「待て。決定事項なのか?」
「はい。分からないから、あんなことできるんですよ。食事を持ってこないことは、殺人未遂ですから」
まともに食べれなかった日々を思い出し、胃がキュッとなり、実を食べる。
大切に食べようと思ったのに、私の手は次々と実を口に入れていく。
早く食べなきゃ。
また踏み潰されちゃう──。
「──ティーナ! コレッティーナ!」
「…………へ?」
手首を摑まれ、ハッとする。
そうだ。ここは、ラビソン伯爵家じゃない。
「大丈夫か?」
「あ、はい……。えっと、いつやるかですよね?」
「やらない。それは駄目だ」
「……どうしてですか?」
平和に生きていくためには、必要なのに。
何で邪魔するの?
「食べさせないことは殺人未遂なんだろ?」
「そうですよ」
「なら、コレッティーナのしようとしていることは何だ?」
「正当防衛です」
「違う。暴力行為だ」
──っ!?
そんなわけない。
きちんと加減している。
「もう二度と、食事が出ないなんてことはさせない。一度でいい。信じてくれないか?」
「…………次、食事が出なかったら決行します」
「分かった。我慢してくれて、ありがとな」
旦那様の言葉に頷く。
「代わりにあとで美味しいものください」
「あぁ、たくさん用意させよう」
「あと、あいつらだけにはさせます」
「…………分かった」
解雇するからと、逃がしはしない。
次の犠牲者を出さないためという名目で、きっちり体に覚えさせてやるんだから。
さて、食事の恨みを晴らす準備はできたし、次は再教育者だ。
私に不満がある者たちを鍛えなおしてもらわないとね。




