犯した罪の重さ〜カリウスside〜
さて、どうしたものか。
明らかにコレッティーナが暴走している。
このままでは、やりすぎだ。
「なぁ、コレッティーナ」
「何でふかぁ!?」
餌付けしようと持ってきていたペロペロキャンディーをコレッティーナの口に突っ込む。
「うまいか?」
「ふぁい」
「どんな味だ?」
「甘いです。暴力的なほどの砂糖の味がします」
幸せそうに顔をゆるめるわりに、感想がまったく美味そうじゃないな。
「落ち着いたか?」
「…………はぃ」
小さく頷く頭をなでれば、叩き落とされる。
「子ども扱いしないでください」
「まだ子どもだろ。その証拠に、感情のまま使用人たちを力で抑圧しようとした」
そう言うと、気まずそうに顔を逸らす。
……そうか。やりすぎの自覚はあるのか。
調査させたコレッティーナの過去。報告書の文面が頭を過る。
食事は、一日に一度。硬いパンと野菜くずがわずかに入っている味の薄いスープを出されるのみ。
それだって、理由をつけて取り上げられることもよくあったらしい。
きっと空腹を凌ぐために、何でも口に入れてきたのだろう。
コレッティーナが、食事に対して過剰反応したのも納得はできる。
コレッティーナがそれで安心できるのなら、好きにさせてやりたい。
だが、他者と関わって生きていくのなら、自分の気持ちを押しつけるだけではいけない。
コントロールしようとしてはいけない。
コレッティーナに「愛することはない」と言った俺が言えることじゃないが、俺もコレッティーナも変わらなくては駄目だ。
「コレッティーナは、自分と同じ目にあわせれば満足なのか?」
「……そうしないと、またやられます。見せしめは必要です」
「それ、本当か?」
アメをなめながら、コレッティーナは不思議そうに首を傾げる。
「恐怖で支配して、そこに何が残る?」
「……私の平和です」
ガリッとアメを噛む音がした。
あんなにも大切になめていたのに、ガリガリとかじっている。
「私を怖いと思わせます。そうしたら、食事を取り上げられません」
「そうか……。コレッティーナ、本当に申し訳なかった」
俺がコレッティーナを大切にしていれば、使用人をしっかり教育していれば、こんなことにはならなかった。
すべて俺の責任だ。
「旦那様は悪いけど、旦那様のせいだけではありません。それに、旦那様は美味しい食事をくれるので、もう怒ってません。……許してもいませんが。あ、歯の奥にアメ詰まった……」
詰まったアメが気になるのか、コレッティーナの頬がもごもごと動いている。
「なぁ、コレッティーナ。五人全員解雇しないと駄目か? 逆らえずにやった者もいる」
「駄目です。甘くすれば、私がやられます」
大きく首を横に振り、甘いアメをなめているのに、苦い顔をする。
「もう、そんなことはさせない。使用人全員の素行と能力、性格を調査した。コレッティーナの周りは特に安心できる者たちに変更したから……」
「でも……」
不安げにコレッティーナの瞳がゆらゆらと揺れている。
気持ちをなぐさめるように、アメを口いっぱいに入れる姿は、年齢よりどこか幼い。
「そうだよな。心配だよな……」
嫁いできて、初めての食事でトラウマを思い出させたんだ。
どんな言葉をかけようと、安心できるわけがない。
信じろなんて、軽々しく言ってはいけなかった。行動で示すべきだった。
「なら、こうしよう。まず庭にコレッティーナ用の菜園を作る。何を植えてもいいし、収穫して食べるのも自由とする。食糧庫の鍵も渡しておくから、好きに持ち出すといい。それと、部屋に簡易的な調理スペースを作るのはどうだ?」
「……いいんですか?」
「あぁ。今日明日に作るのは難しいが、職人を呼ぶから、相談しような」
目を輝かせ、コレッティーナは小さく頷く。
「ありがとうございます」
へにゃりと笑う姿が可愛い。
……ん? 可愛い?
まさか、これが父性というものか!?
コレッティーナは、どうも放っておけないしな。
そうか。子を持つとこういう気持ちになるのか……。
「他にしてほしいこととか、あったら安心して生活できることはあるか?」
「……何でもいいんですか?」
「あぁ。たいていの願いなら叶えられる」
「じゃ、じゃあ。私専用の食糧庫がほしいです!」
頬を染め、期待のこもった目で俺を見る。
「わかった。作ろうな」
「──っ!! ありがとうございます! やっぱなしとか、駄目ですからね!」
興奮したように早口で言われ、頬がゆるむ。
なるほど。これが、ついつい何でも買い与えたくなるというやつか。
子持ちの友人たちもこういう気持ちだったんだな。
「約束だ。絶対に作ってやる。だから、罰を与えることと、自分の意思ではなかった者の解雇はなしにしような。恐怖で縛れば、裏切られにくくはなるかもしれないが、機会があれば報復される」
恐怖で残るのは、従うふりが上手い者だけだ。本当に守るべき人間は離れる。
それでは、コレッティーナの求める平和は叶わず、ナビレート伯爵家も衰退するだけだ。
「…………旦那様は、知らないから言えるんですよ」
「コレッティーナ?」
纏う雰囲気がおかしい。
迷子のように不安げなのに、ひどく怒っている。
……いや、怒っているなんて生やさしいものじゃない。これは、憎悪だ。
「命を脅かしてきたんです。それ相応の対応はしないと……」
そう言って、アメを噛み砕く。
「飢えるとはどういうことかを教えないと、やられた側の気持ちは理解できません」
抜け落ちた表情の中で、目だけが異様に鋭かった。
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