表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蛇の目/美食家  作者: ふゆはる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

36/48

第三十六話/解析

 科警研第二課――オペレーションルーム。


 沈黙は、もはや静寂ではなかった。

 それは“圧力”だった。


 解析結果が示した地点――水上IC。

 そこから先へ踏み込めない現実が、秋山の思考を締め付けている。


 だが、止まる理由にはならない。


 秋山は一歩、蛇の目へと近づいた。


「――予測で出たリストを、最上位から順に並び替えろ」


 間を置かず、条件を追加する。


「水源の近く……もしくは、水が使える施設を優先しろ」


 その一言で、解析の軸が変わる。


 蛇の目が反応する。


 モニター上のリストが一瞬で再構築される。


 項目が崩れ、再び積み上がる。


 “場所”ではなく、“条件”で再評価されていく。


 水。


 それは、この犯人にとって重要な要素だ。


 拘束。

 維持。

 加工。


 その全てに関わる。


 水がなければ成立しない。


 逆に言えば、水がある場所に限定される。


 リストが動く。


 順位が入れ替わる。


 いくつかの候補が、機械的に削除されていく。


 秋山はその過程を無言で見つめていた。


 やがて、最初のフィルタリングが完了する。


 表示されたデータ群。


 ---


【再評価条件】

 ・水源(河川/湧水/貯水設備)へのアクセス可能性

 ・電力供給履歴(断続的使用含む)

 ・建造物の遮蔽性(外部視認困難)

 ・車両進入経路の存在(未舗装路含む)


 ---


【優先候補リスト(再構成)】


 ① 群馬県利根郡みなかみ町

 分類:旧別荘地(放棄)

 水源:地下水井戸(使用履歴あり/断続的)

 電力:契約残存(微弱使用ログ検出)

 アクセス:林道経由(一般車進入可)

 遮蔽:高(森林密集)

 評価:A+


 ② 群馬県沼田市山間部

 分類:廃業旅館跡地

 水源:貯水タンク(容量中)+近隣沢水

 電力:完全停止(だが過去改修痕あり)

 アクセス:舗装道路あり(交通量極少)

 遮蔽:中

 評価:A


 ③ 群馬県利根郡片品村

 分類:個人所有別荘(長期未使用)

 水源:井戸設備(登録あり)

 電力:契約維持(使用ログなし)

 アクセス:私道(管理放棄状態)

 遮蔽:高

 評価:A-


 ④ 群馬県渋川市外縁

 分類:農業用施設(廃棄)

 水源:用水路接続

 電力:断続的な使用履歴

 アクセス:軽車両のみ可

 遮蔽:低

 評価:B+


 ⑤ 群馬県利根郡昭和村

 分類:旧倉庫施設

 水源:近隣河川(距離200m)

 電力:完全停止

 アクセス:砂利道

 遮蔽:中

 評価:B


 ---


 リストはさらに続く。


 だが、上位だけでも十分に“絞られている”はずだった。


 それでも――


 秋山の表情は、変わらない。


 むしろ、わずかに険しくなる。


「……甘いな」


 低く呟く。


 その理由は明確だった。


「廃墟は削れ」


 短く命じる。


 蛇の目が即座に再処理を開始する。


 廃業旅館。

 倉庫。

 農業施設。


 次々と候補から外されていく。


 理由は単純だ。


「維持できない」


 秋山は思考を言語化する。


「長期間の拘束、管理……それに“育成”」


 わずかに言葉を選ぶ。


「朽ちた建物じゃ無理だ」


 水があっても、環境が安定しない。


 温度。

 衛生。

 密閉性。


 どれも足りない。


「……別荘」


 その可能性は高い。


 だが――


 秋山は首を横に振る。


「それも違うな」


 偽造ナンバー。


 この一点が、全てを歪めている。


「わざわざ偽装してるってことは……」


 思考が収束する。


「足がつく場所を避けてる」


 つまり、


 正規に所有している土地ではない。


 名義。


 契約。


 履歴。


 それら全てが、リスクになる。


「自己所有地の可能性は低い」


 結論だった。


 再び、候補が削られる。


 リストがさらに減る。


 残るのは――


 “中途半端な場所”。


 誰のものでもないようで、


 誰かが使える場所。


 秋山は目を細める。


(どこに潜む……)


 思考が巡る。


 だが、完全な像には至らない。


 苛立ちが、わずかに表に出る。


 指先が、机を軽く叩く。


 一度。


 二度。


 止まる。


 蛇の目の精度は高い。


 それは疑いようがない。


 だが――


「限界もある」


 秋山は理解している。


 日本には、“見えない場所”が多すぎる。


 監視カメラの網は、万能ではない。


 山間部。


 過疎地。


 そして――


 人が多すぎる場所。


 記憶が蘇る。


 過去の案件。


 西成。

 山谷。


 いわゆるドヤ街。


 人は溢れている。


 だが、カメラは少ない。


 匿名性が極端に高い空間。


「何度も見失った……」


 秋山は小さく吐き捨てる。


 今回も同じだ。


 いや――


 それ以上に悪い。


「今回は……カメラが“無い”」


 決定的だった。


 犯人は理解している。


 どこで追跡が切れるか。


 どこに入れば、消えるか。


 全てを知った上で動いている。


「……狩り慣れているな」


 その確信だけが、強まっていく。


 やがて、蛇の目の出力が停止する。


 最終リスト。


 数は、十数件。


 完全ではない。


 だが、無意味でもない。


 秋山は、しばらくそれを見つめた。


 そして――


 決断する。


 右手を操作パネルに置く。


 データ送信。


 宛先は三人。


 吉羽恵美。

 渡辺。

 片瀬。


 送信完了。


 静かな通知音が鳴る。


「……後は現場だ」


 誰に言うでもなく呟く。


 ここから先は、“人間の領域”。


 勘。

 経験。

 執念。


 蛇の目では届かない場所に、


 彼らは踏み込める。


 秋山はゆっくりと背筋を伸ばした。


 視線は、すでに次を見ている。


 闇の中に潜む“それ”を、


 引きずり出すために。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ