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BOOK ―神のゲーム―  作者:


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7/13

第七話 開戦前


 8月2日 AM7:00


 綾瀬家。


 リビングでは、陽翔がソファに座っていた。


 手にはコーヒー。


 時計は午前七時を指している。


 キッチンでは、結衣が朝食を作っていた。


 ベーコンの焼ける音。


 味噌汁の香り。


 昨日。


 世界が変わったとは思えないほど。


 いつも通りの朝だった。



 その時。


 窓の外が白く光った。


「……?」


 陽翔が立ち上がる。


「なに?」


 結衣もキッチンから顔を出した。


 同時に。


 テレビの画面が切り替わる。


 スマートフォン。


 タブレット。


 パソコン。


 街中の大型ビジョン。


 北海道中の画面が。


 一斉に同じ映像を映し出した。


 昨日現れた神。


 その顔には。


 昨日以上に楽しそうな笑みが浮かんでいた。


『おはようございます』


 まるで。


 普通の朝の挨拶だった。


『それでは』


『ルール説明の時間です』


 陽翔の表情が変わる。


 クロも静かに画面を見つめていた。


『各都道府県に守護水晶を設置しました』


 画面に映し出される。


 巨大な水晶。


 全部で四十七個。


『この守護水晶を』


『他都道府県の者が破壊してください』


 一つの水晶が映る。


 次の瞬間。


 砕け散った。


 同時に。


 日本地図から一つの県が消える。


『守護水晶を破壊された都道府県は』


『その県に住む人間全員が死亡します』


 部屋が静まり返る。


 結衣の手が止まった。


 陽翔も言葉を失う。


 神だけが。


 楽しそうに笑っていた。


『そして』


『五つの都道府県の守護水晶を破壊した都道府県は』


『その時点で生存が確定します』


 陽翔は画面を見つめる。


 つまり。


 生き残るためには。


 他の県を滅ぼすしかない。


『最終的に生き残れる都道府県は五つ』


『そして』


 神が笑う。


『生き残った都道府県には』


『代表者一名へ』


『どんな願いでも一つだけ叶える権利を与えます』


 陽翔は無意識にスマートフォンを握った。


 画面には。


 家族三人の写真。


 結衣。


 美月。


 願いなんていらない。


 金も。


 名誉も。


 力も。


 そんなものはいらない。


 ただ。


 家族と笑って暮らせれば、それでいい。


『ゲーム開始まで』


『残り一時間』


 神は最後に。


 楽しそうに告げた。


『どうぞ、お楽しみください』


 映像が消える。



 静寂。


「……あと一時間」


 結衣が呟く。


 陽翔はようやく理解した。


 昨日与えられた二十四時間。


 あれは。


 戦いが始まるまでの準備期間だった。


『ここからが本番だ』


 クロが静かに言う。



 その時。


 テレビが再び切り替わった。


【北海道政府 緊急会見】


 画面には北海道知事が映っている。


『先ほど発表された神によるルールを確認しました』


『北海道政府は現在、守護水晶が札幌市中央区・大通公園に存在することを確認しています』


 陽翔は画面を見つめる。


『BOOK所有者の皆様へお願いします』


『札幌市内の指定施設へ、至急お集まりください』


『守護水晶の防衛にご協力をお願いいたします』


 さらに。


『BOOK所有者および、そのご家族には』


『住居、食料、医療を優先的に提供します』


『ゲーム開始まで』


『残り50分です』


『北海道の未来は、皆様に託されています』


 会見が終わった。


「一気に変わったね……」


 結衣が呟く。


『当然だ』


 クロが答える。


『BOOK所有者には価値がある』


『BOOK所有者に対抗できるのもBOOK所有者だけだ』


『政府も、それを理解したんだろう』



「パパぁ……」


 眠そうな声。


 二人が振り返る。


 そこには。


 目を擦りながら歩いてくる美月がいた。


 まだ。


 何も知らない。


 ただ。


 パパとママを探しているだけだった。


 結衣が美月を抱き上げる。


「おはよう」


「おはよぉ……」


 美月の頭を撫でながら。


 陽翔は静かに思った。


 守る。


 何があっても。


 絶対に。



それから。


三人は朝食を食べながら、これからのことを話した。


気づけば。


時計の針は七時半を指していた。


 テレビでは。


 繰り返し神のルールが流れている。


 それでも。


 今だけは。


 家族の時間だった。


「陽翔はどうしたい?」


 結衣が聞く。


「正直、分からない」


 陽翔は美月を見る。


「でも」


「二人だけは守りたい」


 結衣も頷く。


「私も」


「二人を守りたい。」


『おい』


 クロが口を開いた。


『お前は行け』


「なんでオレだけ?」


『忘れたか』


『お前の能力は模倣だ』


『BOOK所有者が集まる場所へ行け』


『能力を見なければ模倣できん』


 陽翔は黙る。


『使える能力は、多いほどいい』


『守りたいなら、なおさらだ』


 陽翔はしばらく考え。


 静かに頷いた。


「……分かった」


 クロは結衣を見る。


『嫁は今日は家にいろ』


「なんでよ」


『お前の能力は回復だ』


『回復系BOOKは利用価値が高い』


『その中でも、お前の能力は上位クラスだ』


『狙われる可能性が高い』


 結衣は黙る。


『今のお前は』


『まだ自分を守れん』


『だから今日は動くな』


「……確かにそうだけど。」


 結衣は美月を見る。


「美月を一人にはできない」


 陽翔は少し安心したように頷いた。


「ごめん」


「ありがとう」


 結衣が笑う。


「任せて」


 ゲーム開始まで。


 残り三十分。


 静かな朝食の時間は。


 もうすぐ終わろうとしていた。



 札幌市内。


 高層ビルの屋上。


 五人の男女が街を見下ろしていた。


 遠くには。


 守護水晶がある大通公園。


 そして。


 その周囲を走る人々の姿が見える。


「始まるな」


 ガイが呟く。


 仲間たちも静かに頷いた。


 ガイは街から視線を外さない。


「オレの意思に賛同できるやつを探してきてくれ」


 短髪の女が頷く。


「分かったわ」


 隣の男も立ち上がる。


「オレも行く」


「じゃあ、二人に任せる」


 ガイは二人を見る。


「分かってるとは思うが」


「回復系BOOKの所有者を見つけたら、必ず報告してくれ」


「上位クラスだ」


 女の表情が変わる。


「……回復系ね」


「ああ」


「もちろん」


 二人が屋上を離れていく。


 残った三人。


 ガイは再び街を見下ろした。


 これから。


 この街は戦場になる。



 一方。


 別のビル。


 その屋上。


 一人の少女が立っていた。


 フードを深く被っている。


 表情は見えない。


 少女は空を見上げる。


 ゲーム開始まで。


 残り三十分。


 やがて。


 視線を札幌駅の方へ向ける。


 昨日。


 戦闘があった場所。


 そこに。


 誰かを待つような視線を向ける。


「……君なら来るよね」


 返事はない。


 少女は小さく笑った。


「楽しみにしてる」


 風が吹く。


 フードが少しだけ揺れる。


 それでも。


 少女はその場を動かなかった。


 まるで。


 誰かが来ることを。


 最初から知っているかのように。



 そして。


北海道中で。


BOOK所有者たちが動き始める。


守る者。


奪う者。


逃げる者。


戦う者。


それぞれが。


自分の生き残る道を探していた。



午前七時三十分。


ゲーム開始まで。


残り三十分。


そして。


北海道の戦いが。


始まろうとしていた。


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