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BOOK ―神のゲーム―  作者:


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第五話 探しもの



『で』


 帰宅して早々。


 クロが口を開いた。


『いつまで休んでる』


「え?」


 陽翔は思わず聞き返す。


「まだ三十分も経ってないよ」


『休む暇なんてない』


 淡々とした声。


『BOOKはまだ落ちている』


 結衣が呆れたようにクロを見る。


「陽翔、今帰ってきたばかりだよ。」


『死にたくなければ動け』


 その一言で、部屋の空気が変わった。


『強い奴はこれからも増える』


『動くなら今だ』


 陽翔は黙って頷く。


「確かに……行くか」


 立ち上がろうとした、その時だった。


『おい、嫁』


「なによ」


『お前はまだBOOKを持ってないな』


「持ってないけど?」


『なら探せ』


 結衣の眉がぴくりと動く。


「なんで?」


『なんでもだ』


「むぅ……」


 頬を膨らませる結衣を見て、陽翔は思わず笑ってしまう。


 クロは小さくため息を吐いた。


『いいか』


『お前の旦那は強くなる』


『間違いなくな』


 結衣の表情が少しだけ引き締まる。


『強い奴の周りには、強い敵も集まる』


『その時、お前が一般人なら』


『真っ先に狙われる』


 結衣は何も言わなかった。


 静かに視線を美月へ向ける。


 無邪気に遊ぶ、小さな娘。


 守るべき存在。


「……そうね」


 小さく息を吐く。


「私も、家族を守りたい」


『それでいい』


「なんかムカつく」


『事実だ』


 相変わらずのやり取り。


 それでも結衣は理解していた。


 世界はもう、昨日までの世界ではない。



 三人と一冊は再び家を出た。


 公園。


 住宅街。


 人気の少ない路地。


 歩いて。


 探して。


 探し続けた。


 それでも。


 BOOKは一冊も見つからない。


「ないねー!」


 肩車をされた美月だけは元気いっぱいだった。


『当然だ』


『BOOKは宝だ』


『道端の石ころのように落ちているものではない』


「だよねぇ」


 結衣は苦笑する。


「ちょっと期待したんだけど」


『甘いな』


「ほんとムカつく」


『ふっ』


 クロが小さく笑う。


 結衣はさらに頬を膨らませた。


 そんな二人を見て、陽翔も自然と笑みがこぼれる。


 気づけば時計は十七時。


 夕焼けが街を赤く染めていた。


 マンションが見えてくる。


「今日の夜ご飯、なにがいい?」


 結衣が振り返る。


 陽翔は迷わず答えた。


「うーん!ハンバーグがいい!」


「また?」


「また」


「一昨日も食べたよ?」


「結衣のハンバーグが一番好きだから」


 一瞬。


 結衣が黙る。


「……そういうこと、さらっと言うよね」


「ん?」


「なんでもない」


 少しだけ耳が赤い。


 クロは呆れたようにページを震わせた。


『見せつけるな。』


家に着いた頃には。


 外はすっかり夕暮れだった。


「ただいまー!」


 美月が元気よく家へ駆け込む。


「手洗いうがいしなさいよ!」


「はーい!」


 返事だけは立派だった。


 陽翔は苦笑しながら靴を脱ぐ。


 世界が変わっても。


 家の中だけは、いつもと変わらない。


 そう思いたかった。



 リビングへ入ると。


 キッチンから包丁の音が聞こえてくる。


 野菜を刻む音。


 フライパンから立ち上る音。


 いつもと変わらない夕食の支度。


 その音を聞くだけで、不思議と心が落ち着いた。



 しばらくして。


 食卓に料理が並ぶ。


 ハンバーグ。


 サラダ。


 味噌汁。


 いつも通りの夕食だった。


「いただきます」


 三人の声が重なる。


 陽翔はハンバーグを一口食べる。


「……うまい!」


「早いって」


 結衣が笑う。


「だってうまいから!」


「それしか言わないね」


 美月も口いっぱいに頬張っていた。


「おいしー!」


「よかった」


 結衣が優しく笑う。


 陽翔はその笑顔を見つめた。


 結衣。


 美月。


 守りたい。


 何があっても。


 この日常だけは。



 陽翔はテレビをつけた。


 携帯電話は相変わらず圏外のまま。


 だが、テレビ放送だけは続いていた。


『北海道各地でBOOKを巡るトラブルが発生しています』


『BOOK所有者による暴行事件も確認されています』


『外出の際は十分ご注意ください』


 画面が切り替わる。


 今度は政府会見だった。


『北海道外への移動が不可能であることを確認しました』


『能力に関する情報をお持ちの方は自治体までご連絡ください』


『道民の皆様は冷静な行動をお願いいたします』


 続いて。


 小さなBOOKが映し出される。


『このBOOKには通信機能が確認されました』


『携帯電話の代替として利用できます』


「そんなBOOKもあるんだ」


『通信専用だ』


 クロが答える。


『大量に存在する』


「今日見つけられなかったね」


『先に拾われたんだろう』


 陽翔は今日見た光景を思い出す。


 人を簡単に殺せる力。


 あれもBOOKだった。


「BOOKを持ってない人は……どうなるんだろう」


 結衣の呟きに。


 誰も答えられなかった。



 その時だった。


「あれ?」


 結衣が寝室の方を見る。


「どうした?」


「あのドア……開いてたっけ?」


 陽翔も視線を向ける。


 寝室のドアが少しだけ開いている。


 家を出る時は、閉めたはずだった。


 二人は顔を見合わせる。


「後ろにいて」


 陽翔はゆっくり寝室へ向かった。


 ドアノブに手をかける。


 静かに開く。


 そして。


 二人は息を呑んだ。



 ベッドの上。


 一冊のBOOKが置かれていた。


 淡い桜色。


 優しく輝く表紙。


 中央には金色の文字。


 《A RANK BOOK》


「……え?」


 結衣が呆然と呟く。


 誰も入っていない。


 なのに。


 まるで最初からそこにあったかのように。


 静かに。


 そこに在った。



 クロが動きを止める。


 数秒。


 沈黙が流れた。


 そして。


『……やはり、そうか』


 その声には。


 驚き。


 確信。


 そして――


 わずかな警戒が混じっていた。


「クロ?」


 陽翔が呼びかける。


 しかし。


 クロは答えない。


 ただ静かに。


 桜色のBOOKだけを見つめ続けていた。


 まるで。


 この瞬間が訪れることを。


 最初から知っていたかのようだった。


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