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BOOK ―神のゲーム―  作者:


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第十話 全国の怪物たち(後半)



神奈川県。


守護水晶の周囲を、一人の男が静かに歩いていた。


男は地面へ細い糸を張り、石の位置をわずかに動かし、木の枝を折っては足元へ落としていく。


一見すると何も変わっていない。


だが、その全てに意味があった。


男は最後の糸を結び終えると、小さく息を吐く。


「完璧。」


満足そうな笑みが浮かぶ。


「踏んでも死ぬ。」


「避けても死ぬ。」


少し考え、さらに笑みを深めた。


「飛んでも死ぬ。」


誰かがこの場所へ足を踏み入れる瞬間を想像しているのか。


その表情は、子供がおもちゃを前にしたように楽しげだった。



宮城県。


市街地ではBOOK所有者同士の戦いが激化していた。


轟音が響き渡る。


爆炎が建物を飲み込み、衝撃で窓ガラスが一斉に砕け散る。


巻き上がった土煙が視界を覆い尽くした。


「もう駄目だ……。」


誰かが震える声を漏らす。


「あれじゃ誰も助からない……。」


その時だった。


一人の男が煙の中から静かに歩いてくる。


黒いローブ。


無表情。


男は瓦礫の前で立ち止まると、ゆっくり地面へ手を置いた。


「戻ってこい。」


静かな一言。


次の瞬間。


ゴゴゴゴ……。


地面が震え始める。


土が盛り上がり、白い腕が一本現れた。


続いて二本。


三本。


やがて骨だけになった人影が、ゆっくりと土の中から立ち上がる。


その数は一体では終わらない。


十体。


二十体。


三十体。


死人たちは何も言わず、男の後ろへ整列した。


その光景を見た誰もが息を呑む。


「……嘘だろ。」


男は振り返ることなく歩き出した。


その後ろを、無数の死者が静かに続いていく。



福岡県。


巨大な会議室には数十人が集められていた。


BOOK所有者も一般人も関係ない。


全員が壇上だけを見つめている。


一人の男が椅子へ深く腰掛けていた。


「……連れてこい。」


低い声が響く。


数秒後、一人の能力者が拘束されたまま引きずられてきた。


「離せ!」


「なんで能力が使えん!」


必死にもがく男を見下ろしながら、壇上の男は静かに立ち上がる。


そして肩へ手を置いた。


「悪う思うな。」


「力は、持っとう奴が使うもんばい。」


その瞬間だった。


男の身体から黒い光が溢れ出す。


悲鳴が響く。


光は粒子となり、壇上の男へ吸い込まれていった。


やがて全てを吸い終えると、男は静かに目を閉じる。


「……これで五冊目か。」


会議室は静まり返っていた。


誰も逆らわない。


逆らえば。


BOOKそのものを奪われる。


その恐怖だけで、福岡は一人の男に支配されていた。



大阪府。


豪華な屋敷。


赤い絨毯の上を、一人の男がゆっくり歩いていた。


周囲には能力者たちが並び、その視線の先では数人の女性が肩を震わせている。


男は一人を見つめ、静かに指を差した。


「今日は、お前や。」


女性の顔が青ざめる。


必死に首を振るが、誰も助けようとはしない。


男は笑った。


「誰に逆らっとんねん。」


その一言だけで空気が凍る。


能力者たちは女性を立たせ、そのまま男の後ろへ歩かせた。


屋敷の奥。


閉まる扉。


残された者たちは俯いたまま動けない。


逆らえばどうなるか。


全員が知っていた。


この屋敷では。


男の言葉だけが絶対だった。



沖縄県。


青い海がどこまでも広がっていた。


波音だけが静かに響く砂浜。


一人の青年が裸足で海へ近付く。


そっと手を差し伸べた。


「おいで。」


穏やかな声。


すると海面が大きく揺れ始める。


巨大な鯨が姿を現した。


青年はまるで旧友と話すように微笑む。


「異常ある?」


鯨はゆっくり鳴き声を返す。


青年は何度か頷き、小さく笑った。


「そうか。」


「ありがとう。」


その様子を見守っていた能力者たちは言葉を失う。


青年は振り返り、穏やかな笑みを浮かべた。


「慌てることない。」


「海のみんなが教えてくれるから。」


沖縄では。


海そのものが味方だった。



北海道。


札幌市内。


とある倉庫には数十人のBOOK所有者が集まっていた。


全員が同じ映像を見つめている。


埼玉県消滅。


砕けた守護水晶。


そして、その中心へ突き刺さる一本の矢。


誰も口を開かなかった。


重苦しい空気の中、一人の男が静かに立ち上がる。


ガイだった。


「早いな。」


低く響く声。


「開始五時間で、一県消えた。」


誰も反論できない。


それが現実だった。


ガイは割れた守護水晶の映像を見つめたまま続ける。


「最速で二十五県の守護水晶が割れたら、どうなると思う。」


沈黙。


答えられる者はいない。


「残った県は終わりだ。」


「神は五県しか生かさねぇ。」


ゆっくりと全員を見渡す。


「守ってるだけじゃ負ける。」


その言葉が倉庫中に重く響いた。


一人の男が恐る恐る手を挙げる。


「それって……。」


喉を鳴らしながら続けた。


「人を殺すってことですか。」


ガイは迷わなかった。


「そうだ。」


即答だった。


空気が凍り付く。


だがガイは構わず続ける。


「向こうは違うのか。」


「北海道を襲わない保証があるのか。」


誰も答えられない。


埼玉県は消えた。


誰かが先に動いた。


それが全てだった。


「家族を守りたい。」


「仲間を守りたい。」


「だったら戦うしかねぇ。」


その時、一人の男が震える声で尋ねた。


「でも……相手が埼玉を滅ぼしたような化け物だったら。」


言い終わる前だった。


ガイの姿が消える。


「え……?」


男が振り返る。


そこには、すでにガイが立っていた。


誰一人。


移動した瞬間を見ていない。


ガイは男の肩を軽く叩き、静かに言う。


「知らねぇ。」


「関係ない。」


「勝つだけだ。」


その一言に、誰も息を呑んだ。


少なくとも、この場にいる全員が理解する。


ガイもまた。


十分すぎるほどの怪物だった。


やがて、一人の男が拳を握る。


「俺は行きます。」


続いてまた一人。


さらにまた一人。


覚悟を決めた者たちが次々と前へ出る。


ガイはその光景を静かに見渡し、口元をわずかに緩めた。


「オレの意思に賛同する奴を集めろ。」


「覚悟がある奴だけでいい。」


そう言って背を向ける。


そして、最後に振り返った。


「明日。」


一拍置いて、静かに告げる。


「青森を落とす。」

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