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BOOK ―神のゲーム―  作者:


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10/13

第十話 全国の怪物たち(前半)


午前一時。


開戦から五時間。


日本中のテレビへ、一つの映像が映し出された。


埼玉県。


巨大な守護水晶は無惨にも砕け散り、その中心には一本の矢が深く突き刺さっている。


神は静かな声で告げた。


「埼玉県は敗北しました。」


「県民全員の命を回収します。」


その瞬間だった。


映像の中で、人々の身体が淡い光へと変わり始める。


泣き叫ぶ者。


家族の名を呼ぶ者。


何が起きているのか理解できず立ち尽くす者。


しかし、誰一人として助からない。


数秒後。


人口約七百万人を抱えていた埼玉県から、人の姿は消えた。


静寂だけが残る。


守護水晶は本当に破壊できる。


神は本当に人を殺す。


その事実は、日本中へ絶望を刻み込んだ。


そして誰もが思った。


――一体、誰がこんなことをやったのか。


だが、本当に恐ろしいのは。


その人物だけではない。


日本には、まだ姿すら現していない怪物たちが数多く存在していた。



群馬県。


山奥に広がる草原。


暖かな日差しの中、一人の青年が大の字になって寝転がっていた。


「もう動けない。」


「疲れた。」


「おんぶして。」


まるで散歩帰りのような気の抜けた声だった。


近くでは、一人の男がノートパソコンを操作している。


「嫌だ。自分で歩け。」


「えー。」


青年は不満そうに頬を膨らませる。


そのすぐ隣には一本の弓が置かれていた。


埼玉県を滅ぼした、あの矢を放った弓。


青年は空を見上げながら頭を掻く。


「コア、全部使っちゃったな。」


「何日で戻るんだろ。」


少し考えたあと、小さく笑った。


「……まぁ、いっか。」


その顔に罪悪感はない。


埼玉県を滅ぼしたことさえ。


彼にとっては能力の限界を調べるための実験でしかなかった。



東京都。


都内のマンション。


大型テレビでは、総理大臣による緊急会見が続いていた。


「BOOKを発見した場合は政府へ提出してください。」


「能力を独断で使用せず、冷静な行動をお願いします。」


「政府が必ず皆様を守ります。」


その言葉を最後まで聞く者はいなかった。


一人の少年が静かにリモコンを手に取り、テレビの電源を切る。


部屋に静寂が訪れる。


そこにいたのは四人の高校三年生。


幼い頃から共に育ってきた幼馴染だった。


「まだそんなこと言ってるんだ。」


少年が苦笑する。


隣にいた少女も肩をすくめた。


「BOOKを政府へ渡してください、か。」


「従う人なんているのかな。」


「俺なら絶対渡さない。」


別の少年が笑えば、少女も「私も」と笑い返す。


だが。


中央に座っていた青年だけは笑わなかった。


窓の外へ視線を向けたまま、静かに口を開く。


「今の政治じゃ無理だ。」


その一言で、三人の表情が変わる。


「世界はもう変わった。」


「なのに上の人たちは、昨日までと同じやり方で何とかしようとしてる。」


「そんなので日本は守れない。」


眼鏡を掛けた少女が静かに頷いた。


「私もそう思う。」


「今必要なのは、新しいルールを作る人。」


青年はゆっくり立ち上がる。


窓の向こうには、眠らない東京の街が広がっていた。


「だったら。」


「俺たちで変えよう。」


「俺たちのBOOKならできる。」


「東京を。」


「日本を。」


短い沈黙。


しかし、それは迷いではなかった。


「いいね。」


「面白そう。」


「もちろん乗る。」


三人は自然と笑い合い、拳を重ねる。


幼い頃から変わらない約束。


この日。


後に東京最大勢力となる組織が産声を上げた。


その名は――



新潟県。


守護水晶の周囲は、半透明の巨大な結界に包まれていた。


その前で、一人の老人が静かに胡座をかいている。


部下が足早に駆け寄った。


「埼玉県が……落ちました。」


老人はゆっくりと目を開ける。


「そうか。」


驚きはない。


ただ一度だけ頷き、守護水晶を見上げた。


「若いのう。」


「戦とは、焦った方が負けじゃ。」


そう呟くと、老人は杖で地面を軽く叩く。


その瞬間。


守護水晶を覆う結界が低く唸り、さらに厚みを増していく。


空気そのものが震えるほどの圧力。


老人は満足そうに目を細めた。


「安心せい。」


「この結界を破れる者など、そうはおらん。」


「攻めは若い者に任せればよい。」


「守りは、わしがおる。」


そう言い残し、老人は再び静かに目を閉じた。


まるで何十年も城を守り続けてきた老将のように。

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