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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
城下町妖怪相撲編

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猛者たちの休息時間

 妖怪大相撲大会1日目が終わり、会場は所々で帰宅するものが見え始めている。

 そんな中、俺たち一行に声をかける者がいた。


「おう、お主ら。これから飯にするぞ!」


 振り返るとそこにはこちらへ歩いてくるハクオウさん。その横にはスクナヒコさんまでいるのだが。


「キャー! ハクオウ様!」

「スクナヒコさん! かっこよかった!」


 多くの取り巻きも一緒に付いて来ていた。

 取り巻きの女性たちにハクオウさんはまんざらでもない様子。一方、スクナヒコさんはあたふたし、後ろを振り返る。そこには落ち込んだ様子で遠くから見ているミクモさんの姿があった。

 その取り巻きは若い女性ばかり。そして、それを見たレイカさんは文字通り鬼の表情で睨みつけた。

 いや、元から彼女も鬼なのだが。

 その途端、取り巻きの女性たちがさあっと散っていった。数名は隣にいたスクナヒコさんの所へ移動するが。


「そっちもダメ! 後ろで本命が待っているんだから! しっしっ!」


 まるで虫でも払うかのように手を振って見せた。スクナヒコさんについていた取り巻きの女性はあきらめたように帰っていった。

 スクナヒコさんはすぐさま遠くで見守っていたミクモさんの所へと駆けていく。

 一方、ハクオウさんはレイカさんに耳を引っ張られている。

 ああ、もう。先ほどまでの相撲でのかっこよさが台無しだよ。


「そ、それよりもじゃ。今日は町の中で夕食にするぞ」


 そういえば、言っていたな。料理本のおかげで、町の中に料理を振舞う店が出来たのだと。

 相撲に勝って上機嫌なハクオウさんは俺たちを連れて町の中心の通りへとやってくる。そこには数々の店が立ち並び、店先では客を呼び込もうと必死に声をあげている妖怪たちがいた。


「いらっしゃいいらっしゃい! 焼きたてのボアッカの肉の串焼きだ!」

「よう、そこの旦那。握りたてのおにぎりを食べてみたくはないか!?」


 その呼び込みをする店のほとんどはもちろん飲食店。しかも持ち帰り形式の店が多い。

 そして、ハクオウさんが足を止めた。

 それは、サクラノ村にもある店だった。


「ここは、油屋。……まさか!?」

「うむ、この町で今一番の人気店。天ぷら屋だ!」


 看板には油屋と書いてあるのだが、店内を改装しており、完全に飲食店だ。

 しかも、調理場が通りから見えるように作られており、さらに、中で食べられるようにイスとテーブルまで置いてあるほどだ。

 この力の入れよう、相当客が来ているのだろう。

 大鍋に油を張って豪快に天ぷらを揚げているその光景は、道行く妖怪たちの足を止めるには十分だ。


「今日のわしは機嫌がいいからな。なんでも好きな物を食うといい!」

「おお、さすが父殿じゃ! どれ、早速頼むぞ!」


 店の中に入るとそこには石のような灰色の頭をした妖怪がおり、俺たちを席に案内してくれる。

 テーブルにはメニューは置いていない。いったいどうやって頼むのかと思っていると店主がこちらへやってきた。


「お客さん、ここは天ぷらだけになりますぜ」

「ええと、どんな食材を揚げるんだ?」

「そうですねぇ。いろいろありますので出来上がってのお楽しみってことです」

「ほう、いろいろ揚げるのじゃな。よし、大皿で3つほどくれ」


 オウカは適当に注文すると店主は厨房へと下がっていった。

 お任せ盛りか、これなら大人数でもみんなでワイワイ摘まめるな。

 しかし、こいつ、いくら奢ってもらえるとはいえ容赦ねえな。

 まあ、ハクオウさんが上機嫌だし、ここは甘えることにしよう。

 しばらくすると、大皿に盛られた色とりどりの食材が揚げられた天ぷらと人数分の箸が運ばれてきた。

 さらに別の器で天つゆまで付いてきている。


「おお、屋敷で食ったものよりもいろいろあるのう」


 うん、そこは仕方がない。村と城下町とでは恐らく食材の種類が違いすぎる。野菜だけじゃない、肉も天ぷらにしている。

 そして、俺が目を引いた食材が揚げてあった。


「こ、これは。海老か!?」


 俺はその天ぷらにされた食材を箸でつまみ上げた。頭と殻、そして尻尾は綺麗に外され、その身だけを揚げられた海老天が皿の上にあった。

 しかし、よく見る伸ばされた海老ではなく、丸まった状態だったが、まさかここで海老天が食えるとは。


「えび? そいつはエルブじゃ。今までは塩を振って焼くのが当たり前じゃったんだがのう」


 海老だろうがエルブだろうが関係ない。俺は海老天にかぶりついた。

 オウカが食べているのはボアッカの天ぷらだろうか。しかし、オウカは首を傾げて唸っている。


「う~む、ボアッカはやはりカツにした方が美味いのう」

「まあ、俺のいた世界でもボアッカに似た肉は天ぷらじゃなくてカツにすることが多いからな」

「む? なんじゃ、そのカツというものは?」


 俺たちの話を聞いていたハクオウさんが食いついてきた。


「ええと、カツという料理はですね。パンを細かくしてそれを衣の代わりにして揚げた料理でして」

「ほう、それは興味深いのう」


 ハクオウさんはいつの間にか酒瓶を持ってそれを煽っている。


「いらっしゃいませ!」


 店員の元気な声が聞こえてきた。

 さすが人気の店だ。すぐに客が入ってくると思い、店の入り口を見るとそこには見知った顔がいた。


「カワマタさんにアカシさん!」

「おう、なんだエイタもいたのか。それにハクオウまで」


 そう言ってアカシさんはハクオウさんを見据える。明日戦う相手がいるとなると一触即発かと思ったが……。


「ほう、アカシにカワマタではないか。今日の戦いぶり見事であったぞ!」

「い、いえ、ありがとうございます!」

「ああ、明日は手加減なしで行かせてもらうぜ!」


 互いが互いの健闘を称え合ったようだ。

 そして、2人の家族も遅れて店の中に入ってくる。こうやって見るとなかなかの大所帯だな。


「す、すげえや! うちの店に相撲大会上位者4人が勢ぞろいするなんて」


 店主もこの大盛況に張り切っているようだ。

 一方、この大盛況の店を覗き込んでくるものがいる。あれ、この妖怪は隣のボアッカの串焼きを売っていた店主じゃないか?

 さらに、座っている席から通りの向かいの店も見えるのだが、そこの店主たちも覗いてくる。


「おうおう、肉屋にパン屋に米屋じゃねえか! どうしたそんなしょぼくれた顔して」


 油屋の店主が意地悪そうに声をかけている。


「どうしたもこうしたもあるか! 上位力士4人もそっちに入っちまったら、他の客も流れちまう。商売あがったりだぜ」

「うちの店も全部そっちに流れちまったよ。ほら、見てみな。この行列を!」


 確かに、俺の席からでも店の前に行列ができている。

 ハクオウさんたち力士4人の効果も相まって、他の店の客のほとんどがこの店に流れてきているようだ。

 そして、その影響も少しずつ出始めている。


「お~い、頼んでいた天ぷらまだ!?」

「こっちも来ていないよ!?」

「へ、へい、少々お待ちを!」


 俺たちが座った席は厨房に近かったため中の様子がよく見えるのだが、相当忙しいのか、店主と女将が引っ切りなしに働いている。


「な、なんかすごく忙しそうなのです」

「ああ、しかも、料理を提供する順番がめちゃくちゃだ」


 店主は後から来たアカシさんやカワマタさんなどの力士家族を優先して提供しており、他の客は後回しにしてしまっている。

 これではせっかく来たお客さんが料理を食べられずに印象を悪くしてしまう。

 そんな俺のそわそわした雰囲気を察したのかオウカが声をかけてくる。


「エイタ。 心配なんじゃろう。行ってきても構わんぞ!」

「わ、私も手伝うのです! 店主さんが心配なのです」

「うむ、それでは私も手伝おう」

「スクナヒコさんは座っていてください! 明日相撲大会があるので!」


 俺がそう言うと仕方なしという感じでスクナヒコさんが座りなおした。


 俺とヨウコは厨房を覗くと、中は戦場だった。

 流しには食器類が散乱し、調理台はどこにも物を置くスペースがない。床は食材が散らばり、それを片付けている余裕すら感じられない。

 料理本を普及させたとはいえ、飲食店のノウハウまでは書いてはいなかった。

 なんか申し訳ないなと思いつつ、俺は厨房の店主に声をかけた。


「あ、あの……」

「ああ、すみませんねお客さん、今作りますので」


 店主はそう言って、下げてきた皿を流しへ置く。流しに積まれている食器の山がまた一つ増えたようだ。


「よろしかったら手伝いましょうか。なんか申し訳ないし」

「いやいやいや、さすがにお客さんにそんなことさせるわけにはいきませんって」

「そうですよ。こうして、この料理本で天ぷら屋を始めてからこんなにお客さんが来るなんて思わなかったんだから。嬉しい悲鳴ってやつだよ」


 店主と女将はそう言っているが、うれしい悲鳴が本当の悲鳴になるのも時間の問題なのかもしれない。


「いえいえ、さすがに料理本を普及させた張本人として申し訳ないと思って」

「……へ? 料理本を普及させたって?」

「エイタさんはサクラノ村から料理を広めた方なのです」


 店主と女将はポカンとした顔をしていたが、やがて状況を理解したのか、俺の両手をガシッと掴んで頭を下げてくる。


「た、頼む! 正直もう首が回らねえ! 作っても作っても朝から晩まで次々と客が来るからもうヘトヘトだ!」

「あたしも毎日こうだからさ。いつも寝不足さ」


 そりゃそうだろうな。これだけの客をたった二人でまわしている状況だ。

 しかし、この厨房の状況、そして、客の入りよう。俺ら二人が入ったところで焼け石に水だ。

 ふと、俺は厨房から外に目を移した。そこには、この店の繁盛具合を羨ましそうに見つめている周辺の店の店主たちがいた。


「よし、いいこと思いついたぞ」


 俺はこの危機的状況に陥った油屋を救う手立てを思いついた。

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