妖怪大相撲大会⑥
1時間の休憩中、俺は力士たちの様子を見にいくことにした。
なんでも、オウカ曰く、力士たちもこの1時間の間だけは自由に過ごすらしい。
風呂に入る者。飯を食う者。家族と過ごす者。寝る者。自らのファンにファンサービスする者。
そして――。
「俺の味噌とお前の味噌、同じようでも味が全く違うんだよ。つまり、使う味噌によって料理の味わいが全く違うものに変わっちまうってわけさ」
「ほ、本当だ。確かに味が違う!」
自らの店を宣伝する者。
ミソナミさんの店先で、自分の店から持ってきた味噌を使ったみそ汁を振る舞ってるアズキダさん。もちろん、ミソナミさんの店の味噌で作ったみそ汁も用意されている。
アズキダさんは二種類のみそ汁を飲み比べてもらいながら、その違いを熱心に説明していた。
周囲には、相撲大会一回戦を勝ち上がったアズキダさんの知名度もあってか、大勢の妖怪たちが集まり、大きな人だかり――いや、妖怪だかりができている。
しかし、今のアズキダさんの説明、少し気になったな。
俺は妖怪だかりをかき分け前に進むと、俺に気付いたアズキダさんが声をかけてきた。
「お、エイタじゃねえか。みんな、こいつが俺に豆腐を教えてくれた料理番だ」
俺は妖怪だかりの中からアズキダさんに引っ張り出された。いや、さすが相撲大会に出るだけあって力があるな、この人。
……いや、失礼。この妖怪。
「アズキダさん、さっきミソナミさんとアズキダさんの味噌が違うって言ってましたけど。見せてもらってもいいですか?」
「おう、俺は構わねえけど。ミソナミはどうだ?」
「ああ、俺も構わねえぜ。お前が言っていた料理番の意見も聞きたいしな」
そう言ってミソナミさんは店員に指示を出すと、店員はすぐに味噌の入った瓶を持ってきた。
俺は二つの味噌を見比べると、その違いがはっきりと確認できた。
「なるほど、こっちのアズキダさんが作った味噌は赤味噌で、ミソナミさんの味噌は白味噌ですね」
「「赤味噌と白味噌!?」」
「た、確かに色が違うな!」
「どっちの味噌が料理に向いてるんだ!?」
「そんな違いがあったのか!」
周囲の妖怪たちが一斉にざわめく。
ミソナミさんも、興味津々といった様子で俺を食い入るように見つめてきた。
「これはどちらが料理に向いているとかそういうのではないんです。どちらにもそれに合った使い方があるってだけです。例えば……」
俺はアズキダさんの持っている赤味噌を指さす。
「この赤味噌はコクが強く塩味がしっかりしています。香りが力強く煮込み料理やしっかりした味付けの料理に向いているでしょう」
俺の説明にアズキダさんは頷きつつ小さくガッツポーズをする。
続いて俺はミソナミさんが持っている白味噌を指さす。
「一方、白味噌は甘みが強くて、とてもまろやかです。優しく上品な香りで素材の風味を生かす優しい味付けの料理に向いています」
さらに俺はみそ汁が入った二つの鍋を指さした。
「例えば、みそ汁は赤味噌、白味噌、どちらも使えます。ただ、どちらの味噌を使うかは入れる具材によって変えると料理の幅が広がります」
「入れる具材で味噌を変える?」
「ええ、例えば豆腐やきのこ類、肉や海鮮などのコクを出したい食材には赤味噌を。一方大根やかぶ、ジャガイモや玉ねぎなどの甘みのある野菜は白味噌をといった具合です」
「なるほど、入れる食材によって変えるのか」
群衆からも『おお~!』という声が響く。これだけ大きな町だ。俺がこの世界に来てまだ見ていない食材だってあるだろう。
「だったらあの野菜はどうだ?」
「魚なら赤味噌の方が合いそうじゃないか?」
「いや、この木の実は白味噌でもいけるかもしれねえ!」
妖怪たちは早くも、思い思いに食材を挙げて語り合い始めた。
そう、みんなで考えれば、その数だけ新しい料理が生まれる。
その光景を見届けた俺は、小さく笑みを浮かべながら、その場を後にした。
しばらく町の探索をすると新たな妖怪だかりを見つける。その中心には豪快に樽に入った酒を飲み干すハクオウさんがいた。
「は、ハクオウ様、本日はまだもう1戦残っております故。ほどほどになされては……」
「がっはっはっは。これほど愉快なことがあって飲まない訳にはいかんであろう」
「そうじゃぞ、スクナヒコ! 父殿をぶん投げる力士が現れるかもしれんのに飲まないわけにはいかんじゃろう。ほれ、お主も飲むのじゃ」
「い、いえ、私は下戸でして」
スクナヒコさんが止めているがハクオウは構わず酒をまるで水のように飲んでいる。いや、水でもあんな樽ごと飲み干したりしないぞ。
……ってか、隣でオウカも一緒に飲んでんじゃねえよ。
あと、スクナヒコさん……。そんな厳つい見た目で下戸なのかよ!?
「おう、エイタか! 我の言いつけ通り、力士を強くする料理とやらを作ったようだな」
力士を強くする料理って、あれはただ栄養があるものを一つの鍋で一緒くたに煮込んだだけですが。
まあ、しかし、現にサクラノ村の力士たちが勝っているのは事実だ。
「そうじゃぞ、父殿。妾の言った通りであろう。こやつの作った料理がサクラノ村の力士たちを強くしたと」
「いや、オウカ。俺の料理がそこまで影響があるわけじゃ」
「おお、いったいそれはどんな料理なんですか!?」
群衆の注目がハクオウから俺の方に向けられた。いやいや、そんな期待の眼差しを向けられても困る。
「と、とにかく、料理本の続きが出ますのでそれを参考に……」
「むむ、さすがに力士を強くする料理の内容は秘伝となりますか」
「いや、この時期だけは秘密なのかもしれん。いずれは公開されるということかも」
勝手に話が大きくなっていくが、否定したところで今の空気では誰も信じてくれそうになかった。むしろ変に弁解するほうが怪しまれそうなので、俺は曖昧な笑みを浮かべるしかなかった。
しかし、あんなに酒を飲んで次の試合は大丈夫なのだろうか。スクナヒコさんも心配そうに見ているが……。
そんなことを考えていると、突如空から鼻の高い天狗が一人降りてくる。それを見た群衆はハクオウたちへの道を開けるように左右へと散る。その道を鼻の高い天狗はつかつかと進み、ハクオウたちの前で軽く一礼する。
「ハクオウ様、スクナヒコ様。そろそろ2試合目の準備をお願いいたします」
すると、先ほどまで上機嫌だったハクオウがぴたりと酒を飲むのを止め、立ち上がる。
酒を止められて不機嫌になるのかと思ったら、その顔はやたらと上機嫌だった。
「ふむ、そろそろ時間か。行くぞスクナヒコよ」
「御意!」
二人の力士は会場へとまっすぐ歩いていく。その足取りは揺れることなくまっすぐだ。
「さあ、エイタ。妾たちも会場へ向かうぞ。そろそろ2回戦目が始まるのじゃ!」
「あ、ああ。もう始まるのか」
確かに、先ほどの群衆も会場へと移動を開始している。
俺はオウカと共にその場を後にし会場へと向かった。




