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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
城下町妖怪相撲編

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妖怪大相撲大会⑤

 7組目の試合が終わり、一回戦も残すところあと一試合となった。

 さて、最後はいったいどのような組み合わせなのだろうか。


「東ぃ~! カイエン!」


 東から現れたのは、身の丈2メートルを優に超える青肌の大男だった。坊主頭に筋骨隆々の肉体。その姿は、まさに海坊主そのものだ。

 観客席からも、ひときわ大きな歓声が飛ぶ。


「行けぇ! カイエン!」

「海の男の力見せつけてやれ!」

「漁師の根性をなめんじゃねえぞ!」


 応援している妖怪たちも、妙にガタイのいい連中ばかりだ。どうやら彼は城下町で漁師をしているらしい。

 一方、西から土俵へ上がってきた力士は――。


「西ぃ~! トーリス!」


 西から現れた力士のその鼻は妙に大きく、脚は短い。しかし、一番の特徴はその全身の体毛だ。顔、腕、体、脚に至るまで全身が毛むくじゃらだ。

 東の妖怪というより、西の魔物といったところだろうか。あれは、魔物のトロールかな。


「やっちまえトーリス!」

「丸太を軽々と運ぶその力でぶん投げてやれ!」

「こちとら建設業の根性を見せる時だ!」


 漁師対建設業、何だこの職業対決。

 しかし、どちらの力士も後は相撲で決着を付けると言わんばかりに土俵で四股踏みを始める。


「さあさあ、城下町の漁師・カイエン対、建設業のトーリスの一番となりました! センジュさん、今回の見どころは?」

「そうですなぁ。やはり注目はカイエンでしょう。前回大会三位の実力者ですからな」


 なるほど、前回の優勝者がハクオウさん、2位がダイジロウ、3位がカイエン、4位がシラタだったというわけか。

 その4人の優勝候補のうち1人はすでに1回戦目で敗退してしまうという大波乱が起きてしまったが。


 そんなことを考えていたらすでに制限時間いっぱいだ。土俵の上で二人の力士がにらみ合っている。

 先に腰を落としたのはカイエン。

 続いてトーリスが腰を落とし、両手を土俵に突いた。


「はっけよい!」


 ボムッ!

 開始の声と同時に、二つの巨体が真正面から激突する。

 だが、その瞬間、カイエンは違和感を覚えた。


(浅い……!)


 トーリスの全身を覆う分厚い体毛が衝撃を吸収し、渾身のぶちかましの威力を大きく殺していたのだ。

 互いに弾かれた衝撃で距離が開く。カイエンはその剛腕から放たれる張り手でトーリスを押し出そうとするが。


 ボンッ! ボンッ! ボンッ!


「効かぬぞ!」


 トーリスは意に介した様子もなく張り手を受け止め、そのまま倍する勢いで打ち返す。

 カイエンの張り手は分厚い体毛に勢いを削がれ、有効打にならない。

 逆にトーリスの重い張り手だけが、容赦なくカイエンを襲っていた。


「ぬうっ! このままでは……!」


 一方的な展開を嫌ったカイエンは、張り手をかいくぐって一気に懐へ潜り込む。

 狙うはまわし。

 しかし、伸ばした手は何度も分厚い体毛に阻まれ、うまくつかめない。


「もらった!」


 トーリスはその隙を逃さなかった。

 体毛を盾に時間を稼ぎ、先にカイエンのまわしを上手でがっちりとつかむ。

 そして、その怪力を生かした寄りで一気に押し込む。


 カイエンは踏ん張ろうとするものの、その巨体ごと押し込まれていった。


 土俵際まで追い詰められたカイエン。その光景に観客席が大きくどよめく。


「おいおい、ダイジロウに続いてカイエンまで負けるのか!?」

「い、いや、待て! あれを見ろ!」


 カイエンはまわしを取れないと見るや否や、トーリスの脇の下に腕を潜り込ませた。

 そして、カイエンの巨体がわずかに沈む。

 その一瞬の沈み込みに合わせるように、トーリスの体勢がほんのわずか前へ揺らいだ。


「来るぞ! カイエンの得意技。海潜りだ!」


 海潜り? 

 そんな相撲の決まり手聞いたことないぞ。恐らくこの世界で彼だけの技なのだろうか。

 次の瞬間、沈んだ巨体が一気に持ち上がる。


「な、なにぃっ!?」


 がっちりとまわしを掴んでいたトーリスの手が、強引に振りほどかれた。

 全身のバネと腕力を利用し、まわしを掴んでいた手を無理やり弾き飛ばした。

 相撲には『おっつけ』という攻防技術があるが、カイエンのそれは比べ物にならない。相手の握力すらねじ伏せてしまうほどの怪力で、その力強さは横綱ハクオウですら苦戦すると言われている。


「やっぱりカイエンの海潜りはすげえぜ!」

「来るぞ! カイエンの奥義、『大波返し』が!」


 まわしを外され焦るトーリスをカイエンは見逃しはしない。脇に差し込んだ左腕をすくい上げるように動かし、そのままトーリスの体勢を崩す。

 先ほど巨体を沈めた瞬間に生まれたわずかな崩れ。その小さな歪みを、一気に大きくする。


「喰らえぃ! 大波返し!」


 体勢を立て直す暇もなく、トーリスの体が宙を舞った。カイエンは左腕一本でトーリスを回すように投げたのだ。それはまるで大波そのものの勢いを思わせる激しい掬い投げだった。まわしを取らずに相手を投げる相撲の決まり手の一つだ。


「東ぃ~! カイエンの勝ち!」


 行司が東へ軍配を上げる。まわしを取られて不利になったかと思いきや、それを生かしての逆転勝利。カイエンもまた土俵の外に転げ落ちたトーリスを起こし、固い握手を交わす。


「ありがとよ。まさかあの体勢からぶん投げてくるとはな、さすがだぜ」

「お前さんもなかなかやるじゃねえか。あのまま押し込まれていたら正直ヤバかったぜ。がはははは!」


 互いに健闘を称え合い、会場からは大きな拍手が送られる。1回戦目の試合がすべて終わった。2回戦目は1時間後に始まるらしい。


「ふむ、今回はサクラノ村の力士が3人も残ったみたいじゃのう」

「ああ、特にカワマタさんは優勝候補に勝ったみたいだし、期待ができるんじゃないか?」


 あれだけの体格差をものともせず勝ったんだ。もしかしたら優勝も夢ではないのかもしれない。


「う~む、そう簡単に勝たせてくれぬのが相撲というものじゃ」


 オウカにそう言われると途端に不安になってきたな。場合によっては次の試合でハクオウさんや他の優勝候補たちにも当たることがあるということだ。

 いや、待てよ。さっきの対戦通りに2戦目が始まるのなら最初に始まるのはアカシさん対優勝候補の一人、ぬりかべのシラタになるのでは?


「なあ、オウカ、次の組み合わせ表とかは出ていないのか?」

「いや、出ておらんぞ。基本2回戦目もくじ引きで決められるのじゃ」


 2回戦目もくじ引きって、つまり、1回戦目で勝ったものだけでくじ引きをして組み合わせも順番もすべてランダムで決まるというわけか。

 つまり、運が良ければ……いや、1回戦目を勝ち進んだ者たちだ。みんな強者揃いで、もちろんみんな本気で挑んでくる。運ではない純粋な強さ。それがこの妖怪大相撲だ。


「ええと、今回1回戦目を勝ち抜いた力士たちはアカシさん、カワマタさん、アズキダさん、スクナヒコさん、ハクオウさん」


 ここまでが俺が知っている者たちだ。


「あとは、ぬりかべのシラタ。海坊主のカイエン、だいだらぼっちのタイゾウじゃな」

「みんな強者揃いなのです」


 確かに一筋縄じゃいかない相手だ。もちろん1回戦で敗れた力士たちも決して弱いわけじゃない。むしろ現実世界の力士以上の力を持った者たちだ。その中で勝ち上がってきた者たちが2回戦目でぶつかるのだ。

 どんな波乱の展開が待ち受けているのだろうか。

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