妖怪大相撲大会④
先ほどの5組目の試合。まさかの金星で会場は熱気に包まれたままだ。
この熱気のまま6組目の試合が始まろうとしていたのだが。
「東ぃ~。マタキチ!」
ん? マタキチって確かネコタさんだよな。奥さんがそう呼んでいたのを覚えている。
もちろん、東から現れたのはネコタさん。アズキダさんよりもさらに小さく、身長150㎝もないだろう。
ネコタさん、ダイジロウとの対戦じゃなくて良かったな。あんな動く要塞と戦ったら、場外まで吹っ飛ばされてしまうぞ。
そう思って、西からくる力士を見た。……すまん、俺の考えが甘かったわ。
「西ぃ~。タイゾウ」
ネコタさんの相手がまさかのだいだらぼっちのタイゾウだ。
なんだこれは、身長差が2倍あるぞ。子供と大人とかそういうレベルを超えている。
いや、ここはネコタさん、何か秘策を考えていることだろう。そう思ってネコタさんの顔を見ると、冷や汗だらだらで、少し笑顔が引き攣っている。
あ、ダメな奴だこれ。
「マタキチさん、頑張って~♪」
土俵に近い観客席から黄色い声援が聞こえる。ネコタさんの奥さんのタマさんだ。
そうだぞネコタさん。かわいい奥さんが応援しているんだ。カッコいい所をみせないとな。
ネコタさんも奥さんの声援を受けてか自分の頬を数回叩き、気合を入れた。
「頑張れよ小さい猫!」
「また金星を見せてくれ」
観客たちは先ほどの金星を見た影響なのか、ネコタさんの金星に期待をしているようだ。
「さあさあ、先ほどの金星を見せられましたが、今回もまた変わった組み合わせですな。今回の対戦、センジュ村長はどう見ますか?」
「ふむ、こうやって見る限りではタイゾウが圧倒的な強さを誇るでしょう。しかし、先ほどの金星を見せられましたからのう。今年の妖怪相撲はなかなか予測できない展開が待ち受けておりますなあ」
ネコタさんは腰を落とし構える。そして、タイゾウも腰を落とし構える。
「はっけよい!」
掛け声とともにネコタさんは飛び出した。
一方だいだらぼっちのタイゾウは動かない。いや、動く必要すらない。
「な、なんだ。あの手の長さは!」
タイゾウの身長も相まってその腕はかなり長い。その場から動かなくてもネコタさんを掴むことができるくらいだ。
しかし、ネコタさんはタイゾウの腕を縫うように避けると懐に飛び込んだ。
……いや、違う。
「ぬ? どこに行った!?」
タイゾウの懐に飛び込んだはずのネコタさんが消えていた。
先ほどのカワマタさんと同じように横に飛んだのかと思ったのか、タイゾウは右に左に首を振りネコタさんを探す。しかし、見当たらない。
突如、タイゾウの左膝がガクンと崩れ、左肩に重みがのしかかる。
「ぬわ!? な、なんだ!?」
「うにゃあ! 崩れろにゃ!」
なんと、ネコタさんはタイゾウの懐に飛び込むと、股下を抜け背後に回っていたのだ。
そのまま相手の膝裏を押して態勢を崩し、飛び上がって左肩にしがみつき、地面に倒そうとしている。
体格差があるからこその奇襲攻撃。それは見事に成功したかに見えた。
「ぬうううう!」
「にゃ、にゃんだと!?」
膝が崩れ今にも手がつきそうになる寸前でタイゾウは態勢を立て直した。なんという体幹だ。
態勢を立て直したタイゾウは改めてネコタさんと向き直る。タイゾウは長い両腕を広げネコタさんを土俵際にじりじりと追い詰める。
あの体格差だ。ネコタさんは捕まったらあっという間に土俵の外へぶん投げられてしまうだろう。
「頑張れ! マタキチ!」
「負けんなよ! マタキチ!」
先ほどの金星を見せつけられた観客は再び金星が見られるのではとネコタさんを応援する。しかし、先ほどのカワマタさんの時とは状況が違う。ネコタさんは完全に追い詰められている。
ネコタさんは再びタイゾウの懐に飛び込む。しかし……。
「ふにゃ!?」
「捕まえたぞ~!」
懐に飛び込むのを読まれていたようでネコタさんは捕まってしまう。そのまま振り回すようにして土俵の外へとぶん投げる。
「にゃんの!」
ネコタさんは空中で態勢を立て直すと、そのまま綺麗に着地する。
凄い、さすが猫だ。身のこなしが半端じゃない。
しかし、着地したのは土俵の徳俵の上。そのせいで態勢を崩したのか後ろに倒れそうになる。
何とかこらえようとぶんぶん腕を振り回すが、中年太りしたお腹が仇になったのか土俵の外に尻もちを着いてしまった。その瞬間に軍配が上がる。
「西ぃ~! タイゾウの勝ち!」
ネコタさん。惜しかったが負けてしまった。がっくりと項垂れて土俵を降りるネコタさんを観客たちは温かい拍手で迎えてくれる。
「凄かったぞマタキチ!」
「惜しかったな。もう少しで勝てたのにな!」
「マタキチさん。お疲れさまでしたにゃ」
最後は美人の奥さんに励まされ、落ち込んでいた顔が一瞬で幸せの顔になった。
金星取れなかったのは残念だったが、今までの超重量系の力士とは違った戦いが見れて凄かったぞ、ネコタさん。
6組目の試合が終わり、7組目の力士が現れる。
東から現れたのは……。
「東ぃ~。ギンノスケ!」
東から現れたのはサクラノ村出身の鬼。ハクオウさんと戦った鬼に顔つきがよく似ているが、こちらはいかにもな鬼の体型で見事なあんこ型である。そんな彼に観客席から応援が飛ぶ。
「父さん、頑張れ!」
「頑張りなよ。アンタ!」
1回戦目でハクオウさんに負けた鬼の若者だ。なるほど、あの二人は親子だったのか。そりゃ顔がよく似ているわけだ。隣にいるのが奥さんなのだろう。
続いて、西から現れた力士。
「西ぃ~。 スクナヒコ!」
西から4つ腕を持つ両面宿儺。スクナヒコさんが現れた。
「ほう。多腕族ですな。この妖怪大相撲では久々に見ますな」
「ええ、前回は確か150年くらい前に横綱だった土蜘蛛のクロヒコでしたかね。彼の4本の腕を使った相撲は圧巻でしたよ」
すでに4本の腕で相撲をとっていた力士はいたのか。しかも土蜘蛛って確か妖怪の中でも結構強い妖怪だったよな。そりゃ横綱にもなるよ。
しかし、4つ腕の相撲ってどうやって戦うのだろうか。俺はスクナヒコさんがどのような戦いをするのか気になって仕方がなかった。
「スクナヒコさん、頑張って!」
突如、観客席から女性の声が上がった。そこにはスクナヒコさんと同じ4つ腕を持つ女性。ミクモさんだ。
その声援に応えるようにスクナヒコさんが四股踏みをする。
ドシンッ! ドシンッ!
ここからでも響くような力強い四股踏みだ。そういえば、スクナヒコさんってどれくらい強いのだろうか。今まではこの相撲大会に参加していなかったらしいが。
「スクナヒコさんって今まで相撲大会に出ていなかったんだよな」
「うむ。スクナヒコは父殿の補佐に回っておったからのう。あとは稽古の相手もしておったぞ」
「……え? ぶつかり稽古の相手もしていたってことは」
それって、最強の力士相手に稽古をしていたってことだよな。
そんなことを考えていると制限時間がいっぱいになったようだ。土俵にいる力士二人は互いに腰を落としているところだった。
サクラノ村の鬼。ギンノスケが先に腰を落とし待ち構えている。遅れて、スクナヒコさんは腰を落とし4つの拳を地面につける。
「はっけよい!」
バチィン!
その掛け声とともに二つの巨体がぶつかり合う。その衝撃で二人の距離がわずかに開く。すかさずギンノスケは張り手でスクナヒコさんを押し出そうとするが。
「ぐぅう!」
同じように張り手で押し返すスクナヒコさん。しかし、その手数が半端じゃない。
なにせ4本の腕による張り手だ。通常の2倍の手数にギンノスケは押し込まれていく。
「おお、すげえ! なんだあの張り手は!」
「土蜘蛛のクロヒコの再来だ!」
観客は一斉に歓声を上げた。スクナヒコさんは一方的な攻勢でギンノスケを土俵際へ追い込む。
一方、ギンノスケは張り手を避けようと懐へ潜り込み、まわしを掴もうと手を伸ばす。
「な、なにっ!?」
ギンノスケの伸ばした腕はスクナヒコさんの手によって防がれる。さらに同時にギンノスケのまわしを掴んでいる。
「いやいやいや、そんな戦法ありか!?」
「うむ、ありじゃぞ。以前いた多腕族の横綱。クロヒコも同じ戦法を使ったことがあるぞ」
4本の腕で寄りと張り手を同時に繰り出し、一気にギンノスケを土俵外へと押し出した。
「西ぃ~。スクナヒコの勝ち!」
あまりの奇想天外な戦い方に観客は言葉を失っている。
しかし、行司の声により状況を理解したのか。一斉に歓声が上がる。
「うぉおおお! すげえ、なんだあの戦い方は!?」
「土蜘蛛のクロヒコの再来だ!」
スクナヒコさんの戦い方に大きな歓声が上がる。
今回初出場の力士がまさか、過去に横綱まで登りつめた力士と同じ戦い方をするとは思わなかったのだろう。
観客の熱気が治まらぬまま7組目の試合は幕を閉じた。




