妖怪大相撲大会②
相撲大会1組目はアカシさんの勝利で幕を閉じた。
続いて2組目の力士が土俵に上がってくる。
「東ぃ~、カイチ!」
そう呼ばれた東の力士は額に一角獣のような角を生やしている。全身は黒い毛でおおわれている妖怪だ。いや、あれは妖怪というよりか……。
「なんかファンタジー世界の聖獣に近い感じだな」
そう、白虎や青龍のような聖獣に近い。華の国はそんな聖獣たちがいる国なのだろうか。
一方、西の力士は。
「西ぃ~、シラタ!」
凄いな。西のあの力士、肩幅が異常に広く、そして何より全体的に四角い。まるで壁のような見た目で……。あ、そういえばシラタっていう力士はぬりかべじゃないのか?
しかし、凄い容姿だ。顔には3つの目。肌の色は白く正面から見たら恐らく壁のような圧があるであろう。
しかも、手足は短いという訳ではない。むしろ身長もあるのでその分長い。華の国の力士が妖怪ぬりかべを見上げているほどの巨体だ。
「おお、シラタじゃな。奴は前回4位だった力士じゃ。こいつも見ごたえがあるぞ」
4位の力士か。いったいどんな戦いを見せてくれるのだろうか。
東の力士、カイチが腰を落として構える。続いて西の力士、シラタがゆっくりと腰を落とす。
「はっけよい!」
掛け声とともにカイチが踏み込んだ。一方シラタは動かない。反応が遅れたのだろうか。
……いや、違う!
ドンッ!!
激しい音とともに、カイチはシラタにぶちかますが、びくともしない。まるで巨大な壁にぶつかっているみたいに手ごたえがないのだ。
カイチは戦法を変え、張り手でシラタを押し出そうとするがこれもまた微動だにしない。本当に壁を相手にしているような気分だろう。
しかし、相手はぬりかべであり、力士でもある。張り手すらも物ともせず、ゆっくりと歩を進めるとシラタはカイチのまわしをがっしりと掴んだ。
そのまま凄まじい力で一気に寄ってくる。
カイチも慌ててまわしを取り返そうと腕を伸ばした。
「ぐっ! と、届かん!」
腕の長さも、身長も、すべてが足りない。
しかも相手は上手を取っている。
どう手を伸ばしても、シラタのまわしには指先すら届かなかった。
そのまま、踏ん張りがきかず土俵際まで押し込まれていく。そして、俵に足をかけてしまい後ろへと倒れ込んだ。
「西ぃ~! シラタの勝ち!」
勝負が決した瞬間、カイチはシラタの巨体に押しつぶされるような格好で土俵の外へ転がり、そのまま大の字になっていた。
「ぐっ……!」
荒い息を吐きながら顔をしかめるカイチ。
一方、勝者となったシラタは慌てることなくゆっくりと立ち上がると、真っ先に倒れた相手のもとへ歩み寄った。
「立てるか?」
そう言って差し出されたのは、大きく節くれだった手。
「ううぅ……、すまねえな」
カイチは苦笑しながらその手をつかむ。
シラタは軽々とその身体を引き起こし、無事に立ち上がらせた。
「ありがとよ」
「ああ。いい勝負だった」
勝敗は決しても、相手への敬意を忘れない。それがシラタという力士だった。
「おお、さすがシラタだ」
「カイチもよく頑張ったぞ!」
見守っていた観客たちから惜しみない拍手と歓声が飛ぶ。
圧倒的な強さ。
そして、勝ってなお相手を気遣う器の大きさ。
その実力とやさしさを兼ね備えているからこそ、シラタは多くの妖怪から愛される人気力士なのである。
「いやあ、さすがシラタですね。今年も見事に勝ってくれましたよ」
「ほっほっほ。あのシラタに土俵際まで寄られてしまえば、逃げ切れる者などそうはいませんな」
俺のすぐ近くで実況役の天狗と村長が先ほどの試合について熱く語り合っていた。
その光景は、まるで前世で見ていた相撲中継の実況と解説そのものだ。
……できれば、この二人には最後まで解説を続けてもらいたいところである。
そして迎えた3組目。
東側の入場口から力士が姿を現した瞬間――会場全体が大きく揺れた。
「東ぃ~。ハクオウ!」
先ほどまでの歓声とは、まるで次元が違う。
空気そのものが震えるような声援。
さすがは現役横綱。その名が呼ばれただけで、観客たちの期待と興奮が一気に頂点へと達する。
ゆっくりと土俵へ向かって歩く姿には、見る者を惹きつける圧倒的な存在感があった。
自信に満ちた表情。一切の迷いを感じさせない足取り。
これまで積み重ねてきた勝利の数々が、彼という存在そのものを格上のものへと押し上げている。
「西ぃ~。ギンジ!」
対する西の力士は、サクラノ村出身の鬼。
木工屋の建設現場で働く、力自慢の職人鬼の一人だ。
肌の色は黒に近い灰色。
鬼族にしては体格が少し細く見える。顔もまだ若々しく、幕内力士というよりは学生相撲の選手のようだ。
「ふぅ~。一回目敗退かもな」
彼はそんな言葉を呟いた。
同じ鬼でも覇気が違う。さすが酒呑童子の親父さん。観客席にいる俺でさえ、ハクオウから放たれる圧を肌で感じる。
見ろよ、あの四股踏み。地鳴りがしているぜ。
まるで大地そのものが悲鳴を上げているみたいだ。ここまで振動が伝わってくる。
そして、それを真正面から受けているギンジは、一体どれほどの圧を感じているんだろうか。
彼は自分の顔を強く2度叩くと気合を入れなおす。彼の目は決して諦めの表情なんかではない。
「ほう、このハクオウを前にいい目をしているのう。胸を借りるつもりで掛かって来るがよい」
ギンジの目には恐怖ではなく、純粋な闘志が宿っていた。
格上の相手と戦えることへの喜び。その機会を与えられたことへの感謝の目だ。
「よろしくお願いします!」
ハクオウはゆっくりと腰を落とし、両手をドンッと力強く突ける。一方ギンジはゆっくりと腰を落とし、両手をつく。
「はっけよい!」
次の瞬間、二人の鬼が土俵でぶつかり合う。
ドゴンッ!
まるで重戦車のような衝撃音が響き土俵が揺れる。その衝撃で、ギンジの巨体がわずかに後ろへ押し込まれる。
踏みとどまろうとするギンジ。その姿に、観客席からどよめきが起こる。
だが――。
「ぬぉおおおりゃあああ!!」
ハクオウの咆哮。
次の瞬間、ハクオウはギンジのまわしをがっちりと掴み、その巨体を一気に前へ押し出した。
「ぐ、ぐおおおお……!」
ギンジも負けじと両足に力を込め、必死に踏ん張る。
しかし――。
ズズズズッ……。
ものすごい勢いで寄り切っていく。
ギンジは必死に踏ん張るが、土俵際まで一直線に運ばれていく。
最後はそのまま、土俵の外へと押し出されてしまった。
「東ぃ~、ハクオウの勝ち!」
土俵には二本の深い跡が残っていた。ギンジが耐えたにもかかわらず、そのまま押し出されたことによってできた跡。
ええと、何て言うんだっけな、あれ。
「おお、さすが横綱ですね。見事な馬車道ですね!」
「うむ。さすがハクオウ。毎度圧巻の戦いを見せてくれるのう」
馬車道……。いや、確か電車道だ。
なるほど、この世界には電車がないから馬車の轍の跡に例えて馬車道って言うのか。
ハクオウさんの圧倒的な強さを目の当たりにして3組目の試合は幕を閉じた。




