集まった強者たち
昼食を食べ終わったあと、ハクオウさんとスクナヒコさん、そしてレイカさんは会場へ先に向かっているとのことだ。ハクオウさんは横綱なので色々と忙しいのだろう。
「少しの時間だけど、早速町の中を見て回るぞ」
「なんじゃ、お主。随分とはしゃいでおるのう」
「当たり前だろう。新しい食材に出会えればそれだけ新しい料理も作れるんだからな」
「む、確かにそうじゃのう」
「……新しい料理のために探しに行く」
カナメも賛同してくれたので早速町の探索開始だ。
町の中はまるで江戸時代の町並みのような賑わいだ。しかも今の期間中は相撲大会の影響もあって、町のあらゆるところに力士の絵が書かれた紙が張られている。
「へい、らっしゃいらっしゃい! 今日は全品2割引きだよ」
「相撲大会特別価格だ。見ていってくれ!」
相撲大会が始まるっていうのにもかかわらず商売をしているものもいる。
なぜこんな時間にと思ったが、この通りから見える中央広場。そこで相撲大会が行われるため、ここからすぐの場所だ。
なるほど、これはギリギリまで商売をしたい気持ちが分かる。なんてったってこの店の通りは凄い人だかり、いや、妖怪だかりだからだ。
「おう、アズキダ! お前、この料理本に書いてあること本当なのか!?」
ふと、聞き覚えのある名前を叫んでいる妖怪がいる。店の前には二人の妖怪が言い争いをしている。一人は妖怪というよりお地蔵さんみたいな姿をしており、妙に舌が長い。
そして、もう一人の方は俺がよく見知った顔だった。
「アズキダさん!」
「ん? おう、エイタか! お前も城下町に来ていたんだな」
アズキダさんは俺の方を振り向くと再び向き直る。正面にいるのは先ほど言い争いをしていた妖怪だ。
「てめえんちの醤油や味噌の作り方を広めるとは、気でも狂ったか!?」
「ミソナミ。俺は俺の秘伝を広めることにしたんだ。と言っても、大まかな作り方程度だがな」
「そ、そんなことしたら、俺たちの味噌や醤油が……」
「問題ねえよ。俺たちと同じ味なんざ、誰にも作れねえ。俺とお前の味噌や醤油だって、まったく同じじゃねえだろ?」
よく見ると言い争っている場所は店先で看板には醤油、味噌と書かれている。なるほど、ここは醤油、味噌屋だったのか。
ミソナミと呼ばれた妖怪は手に料理本を持っている。そういえばすでに料理本はこの町に出回っている。
だが、味噌や醤油の作り方はあの本に載っていなかったはずだ。まさか、アズキダさんは独自でクダンさんに作り方を書いた物でも渡したのだろうか。
「言いてえことは、それだけだ」
アズキダさんはミソナミさんへ背を向ける。
「後は相撲で決着をつけようぜ。もっとも、土俵でぶつかれたらの話だけどよ」
そう言い残すと、そのままこちらへ歩いてくる。そして俺を見つけると、軽く片手を上げて笑った。
「変なところ見せちまったな」
「さっきの方は知り合いなんですか?」
「まあな。俺と同じ醤油や味噌を作ってるミソナミってやつさ」
アズキダさんは振り返り、先ほどの店の看板を見上げる。
「俺が城下町で店を出さない理由はあいつだ。互いに”俺が先に醤油や味噌を生み出した”って言い争ってよ」
その言葉を聞いて、以前のことを思い出した。
初めてアズキダさんの店を訪れたとき、俺が何気なく醤油や味噌の作り方を口にしただけで、大変な目にあったことがあった。
あのときは不思議に思ったが、今なら理由が分かる。
ミソナミさんとの因縁があったからこそ、俺が作り方を知っていることに、あれほど神経を尖らせていたのだ。
「俺が相撲大会に出る目的はミソナミだ。奴と立ち合えれば勝ち負けなんてどうでもいい」
アズキダさんはそう言ってにやりと笑みを浮かべる。勝ち負けでは量れない信念のぶつかり合いが彼らの中にあるのかもしれない。
「相撲大会、頑張ってください。同じ村の住人として、応援していますから」
「そうじゃぞ。今年こそ、妾の父殿を倒す猛者が現れてくれんとのう」
「がっはっはっは。さすがに俺じゃあ厳しいかもな。……だがよ」
アズキダさんが顔を向けたその先には、多くの妖怪だかりができている。その中心にいるのはアカシさん。そして、カワマタさんもいる。
「頑張れよ。キスケ!」
「ミズゴロウも負けんなよ!」
「キスケ? ミズゴロウ?」
「うむ。相撲大会の時は名前で呼ばれるのじゃ」
なるほど。アカシさんはアカシが家名で名前がキスケか。で、カワマタさんが家名でミズゴロウが名前という訳だな。みんな普通に呼んでいたし異世界だからずっと名前だと思っていた。
まあ、俺にとってはアカシさんはアカシさん。カワマタさんはカワマタさんだ。
「おお、ダイジロウが来たぞ!」
そこにも妖怪だかりが出来ているが、その中心には身長2m50cm近くある大男が自信満々に闊歩していた。
あれが相撲大会で大関にもなった男。大入道のダイジロウだろう。
「やっぱり上位の力士ともなれば人気がすごいんだな」
「うむ、そうじゃのう。ダイジロウは父殿とも立ち会ったほどの猛者じゃ。今年もその強さを期待されておるのう」
確かに、あの巨体から繰り出されるぶつかり合いは迫力がありそうだ。これはファンが付くのも頷ける。
そんなことを思っていると、町の入り口にも妖怪だかりが出来ている。その中心には先ほどのダイジロウよりもさらに大きな男がいた。
何だあの大きさはゆうに3mを超えているぞ。
「ほう、今年はだいだらぼっちのタイゾウも参加するのか」
「だ、だいだらぼっちのタイゾウ!?」
「この相撲大会で一番背の高い力士なのです。まだ上位は数回しか取ったことはないのですが、その背の高さから大きな期待を寄せられている力士なのです」
だいだらぼっちって確か山のように大きな妖怪だったよな。まあ、山とは行かずとも十分にその背丈は大きいが。
「そういえば、西の国からも参加者がいるって言っていたよな」
「うむ、奴らは港の方からくるじゃろう。ほれ、あれじゃ」
そう言うとオウカの指さした先にも妖怪だかり、いや、魔物だかりかもしれない。
その中心には牛の頭を持つ魔物が大きく両手を掲げていた。あれは魔物のミノタウロスか。
「頑張れよタウラー。俺たちの期待の星」
「東の国の妖怪たちに負けんじゃねえぞ」
同じ西の国の魔物たちに応援され、その期待を一身に背負い会場へと向かっている。
その後ろにも魔物だかり、その中心には同じく巨体で鼻が大きく毛むくじゃらな魔物がいた。あれは魔物のトロールだろうか。
恐らく、相撲大会の時間が迫ってきているのだろう。多くの妖怪や魔物たちが続々と町の中央に集まってくる。
行き交う妖怪たちも多くなってきたし、そろそろ俺たちも移動した方がいいかもしれない。
「ほらほら、今年の春場所の参加力士の番付表だ」
会場へ行く途中の通りの店先で、一人の妖怪が道行く妖怪たちに何かを配っている。どうやら今年の相撲大会の番付表のようだ。
「ほう、今年も華の国からの参加者がおるのう」
「花の国の参加者か。強さはどうなんだ?」
「ただの力自慢じゃな。この相撲大会はただの力だけでは勝つことはできん」
確かにそうだな。現実世界の力士たちもただ力を付けるために稽古をしているわけではない。相撲に勝つための稽古をしていると聞いたことがある。
そして、その一つが食事だ。相撲とは他の格闘技と違って体重制限がない。体重こそ己の武器であり、努力の象徴でもある。
サクラノ村の力士たちは俺が料理を広めてくれたおかげで、昔に比べて活気に満ちていると言ってくれた。そして、その成果が今試される時だ。
さて、そろそろ相撲大会が始まる会場へ向かうとしよう。




