城下町へ②
「城下町が見えてきましたぜ」
馬車にしばらく揺られながら外を眺めていると、御者が声をかけてきた。
俺は馬車から顔を出し進行方向を見るとその先にある建物に驚いた。
「うお! 城が建っているぞ!」
思わず声が漏れた。
恐らく、あれが目的地の城下町なのだろう。
その名の通り町の中心には立派な城がそびえ立っているのだが、その姿は完全に和風建築そのものだった。遠目からでも白い城壁と幾重にも重なる屋根がはっきりと見える。
そして、その先には果てしなく広がる海。海沿いの城下町といったところだ。
「うおおおお、海だ。海が見えるぞ!」
「なんじゃ、お主。そんな子供みたいにはしゃいでおって」
「エイタさん、なんだか楽しそうなのです」
そりゃそうだ。俺にとってはこの異世界に来て初めての海だ。そして、その海から獲れた食材が集められた町がこの先に見えるのだ。テンションが上がらない方が変だってもんだ。
やがて、城下町の入口へと到着する。御者は門番らしき妖怪に手形を見せるとそのまま中へと入っていく。
にぎやかな町並みにはあらゆる店が並び、多くの人、いや、妖怪たちが行きかっている。西の国の街とは違ったにぎやかさ。
「そうじゃ、御者よ。このままハクオウの屋敷へと向かってくれ」
「ハクオウ様の屋敷へですね。かしこまりました」
御者は馬車を操り道を変える。やがて、町並みに並ぶ家とは明らかに違った大きな屋敷が見えてくる。
ここがオウカの親父さん、ハクオウの屋敷か。よく見ると屋敷の一部が店舗になっており、酒蔵や酒造所になっているようだ。
「到着しました」
「うむ、ご苦労じゃったぞ」
オウカは懐から巾着を出して銭を払う。御者は銭を受け取るとその場を後にした。
しばらくすると、屋敷の方からスクナヒコさんがやってくる。
「おお、皆さん、お久しぶりですね。さあ、どうぞこちらへ」
スクナヒコさんが屋敷の中へと案内してくれる。屋敷の中は広いが、雰囲気的にオウカの屋敷と大して変わらない。
てっきりあの城に住んでいるのかと思っていた。だって酒呑童子の親父さんだぜ。
まてよ、ということはあの親父さんよりも強い、または偉い妖怪がこの世界にいるということだ。いったいどんな妖怪なのだろうか。
「おう、来たようだな。待っておったぞ」
この屋敷の主、ハクオウは嬉しそうな顔をして出迎えてくれた。
……なぜか俺の顔を見ると睨みつけてくる。なぜだ。
仕方がない。ここは何か美味しいものをごちそうして機嫌を取ってもらうしかないようだな。
「昼食は俺が作ってもよろしいですか?」
「え? またあの料理が食べられるのかしら!?」
「む!? ま、まあ、構わんぞ。今年はスクナヒコも出場するしな」
ハクオウは渋々了承してくれた。まあ、隣で奥さんが喜んでいたら断るわけにもいかないだろうし、何より美味いものが食えるのだ。断る理由はないだろう。
俺とヨウコはスクナヒコさんに案内されて炊事場へと向かう。
炊事場はオウカの屋敷よりも少し広いくらいだ。そして、立派な石窯オーブンが設置されていた。
次に俺は冷蔵庫を確認すると、それなりに食材が揃っている。村で買える野菜とほとんど同じだ。しかし、やはりここは城下町、もちろん村にはない食材が入っている。
「お、これはギャウルの肉ですね」
「うむ、実は以前お主が作ったすき焼きをえらく気に入ってしまってな。今日の昼もそれを作ろうかと思っていた所なのだが」
「ギャウルの肉は城下町で普通に買えるものなんですか?」
「うむ、ギャウルだけではなくボアッカも買えるぞ」
やはりか。行商でボアッカの肉を持ってきてくれたから、当然城下町にも売ってはいるだろう。
スクナヒコさんはすでにお米を水に浸けておいたのか、冷蔵庫から取り出し、火にかけている。
その間に俺は昼食の準備だ。まず、ごぼうことギャウボをささがきにし、水に5分ほどさらしてアクを抜き、水を切る。
ギャウルの肉は食べやすい大きさに切っておき、オウコンこと生姜は千切りにする。
「あ、スクナヒコさん、なたね油はありますか?」
「うむ、こちらにあるぞ。前にいただいたこの料理本に書いてあったからな。戻ってからすぐに購入したぞ」
俺は渡されたなたね油を平鍋にひいて火にかけ、ギャウボを炒める。
3分ほど炒めたらギャウルの肉、オウコンの千切りを入れ、ギャウルの肉に火が通るまで炒める。
水、酒、砂糖を加え、中火で5分ほど煮る。さらに醤油を加えて10分ほど煮て汁気が少なくなるまで煮詰めて完成だ。
「ヨウコはみそ汁を頼む」
「分かりましたのです」
「それでは私は副菜を作りますぞ」
スクナヒコさんはそう言ってボウルに味噌、酒、砂糖、水を入れしっかりと溶かしていく。そこに卵を入れよく混ぜる。
四角い平鍋に油をひいたら、先ほど混ぜた卵液を少し流し、半熟になったら手前に巻いていく。
オウカの屋敷でいつも作っているだし巻き卵だが、出汁を使っておらず、すでに味噌や砂糖で味付けをしてあるところも違う。
「私はこいつを味噌卵焼きと名付けましたぞ」
驚いた。まさかあの時作っただし巻き卵をアレンジしてここまで完成させるとは。味噌入り卵焼き。こいつはご飯が進むやつだ。
「漬物は冷蔵庫に入っています。昨日みそ汁の出汁を取るのに使ったカタオ節で作った漬物である」
冷蔵庫を確認するとそこにはカタオ節が混ぜられた漬物があった。これも料理本に書かれていたものだ。
さて、昼食の準備ができたのでみんなでいただくとしよう。
本日の昼食
ご飯、大根のみそ汁、ギャウル肉の時雨煮、味噌卵焼き、きゅうりのカタオ節漬物。
「「「「「「「いただきます」」」」」」」
ハクオウさんやレイカさん、スクナヒコさんまでいただきますを言ってくれた。
「おお、だし巻き卵じゃ。まさかここで食えるとは思わなかったのう」
「ああ、それはだし巻き卵とはちょっとだけ違うんだ」
「なに? そうなのか?」
オウカはそう言って味噌卵焼きを口に運ぶ。
「おお、こいつもなかなか美味いぞ」
「そう言っていただけると嬉しいものですぞ」
「エイタよ。このギャウルの肉に入っているこれはなんなのだ?」
「あ、それはギャウボです。そちらは時雨煮っていう料理でして」
ハクオウさんは訝しげな顔をしながらも口へ運ぶ。口に入れた途端、その顔が笑顔になった。
「ほう、こいつはなかなか」
「よく見たら、みんな普通に箸を使いこなしていますね」
先週は箸を使うのも一苦労だったのに、いつの間にかみんな使えるようになっている。
「アタシたちだけじゃないわよ。オボロが料理本って言うのを印刷所に持っていってからねぇ。そこからこの街に広まって、もうほとんどの住人が使えるようになっているんじゃないかしら」
オボロさん、約束通りちゃんと印刷所へ持って行ってくれたようだ。
「すでにこの町に広まっていてねえ。中にはその料理を出す店を開いた奴もいるよ」
新たな店ということは飲食店といったところか、少し気になるな。もしかしたら相撲大会中は現実世界のお祭りみたいに屋台とか出ているのだろうか。いや、さすがにそれは早すぎるか。
でも、もしこのまま料理が流行続ければ、相撲大会のようなイベントの時に屋台みたいな店が並ぶ日が来るかもしれない。
「今日の夕食は町で食べようかと思っているんだよ。料理本が広まってこの町に料理を振る舞う店が出てきたからね。アンタも気になるだろ?」
「ほう、料理を振る舞う店じゃと?」
俺じゃなくて先にオウカが食いついた。まあ、確かに俺も気になる。なにせ、俺が広めた本を元に新たに開店した店だ。これは本を流行らせた者として味の視察にいかなければならないな。
「まるでオーナーになった気分だな。ははは」
相撲大会が終わって、そのまま町中を回るのだろう。おっと、肝心なことを聞くのを忘れていた。
「そういえば、相撲大会は何時頃始まるんですか?」
「相撲大会は午後1時ごろ開会式じゃ。そこから大会が始まる」
「うむ、あとはサンモトの挨拶があったりするかのう。その時に横綱であるわしの紹介もある」
サンモト? どこかのお偉いさんだろうか。俺は首を傾げているとオウカが説明をしてくれる。
「ほれ、この町に来た時に城が見えたであろう。あそこに住んでおって、この町を治めておる長じゃ」
マジかよ、西の国で言うところのアルバートさんと同じじゃないか。
つまり、そのお偉いさんも楽しみにしている行事ということだな。
「飯を食った後はわしとスクナヒコはすぐに向かわんばならん」
「ふむ、それでは妾たちもすぐに向かった方がいいじゃろう。早くいかないといい場所が取れんからのう」
「あら、場所なら確保済みよ。さすがに横綱の身内を端の席で見せるわけにはいかないでしょ?」
なんと、すでにレイカさんが席を確保していてくれたようだ。これなら少しだけ町の中を回る時間はあるのではないか。
「なあ、オウカ、相撲大会までの間、少し町を回りたいんだけどいいか?」
「うむ、構わんがほどほどにしておくのじゃぞ」
オウカに釘を刺されてしまった。さすがにあれもこれもと買ったまま会場に行くわけにはいかないからな。どんな店があるのか見て回る程度だ。
さて、そろそろ昼食も終わることだし、片付けが終わったら早速町を見て回ることにしよう。
「「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」」




