城下町へ①
さて、時間というのはあっという間に過ぎていくものだ。気が付けば相撲大会前日の夜だ。当日は城下町へ行くのだろうが。
「城下町へはどうやって行くんだ? またネコタさんの馬車に相乗りしていくとか?」
「いや、違うぞ。当日は城下町から迎えの馬車が来るのじゃ」
「当日の迎えの馬車はすでに予約を取ってあるのです」
さすがヨウコ、こういうところは抜かりない。当日は馬車に乗って城下町に行くようだ。
「城下町か、どんな町なんだろうな」
「城下は大きな町じゃぞ。港もあるから新鮮な魚も売っておるぞ」
そういえば、ネコタさんの兄弟が城下で干物を作ってネコタさんがここに運んできているって言っていたな。
この世界の海の魚か。やはりカタオみたいに現実世界に近い容姿をしているのだろうか。
さて、今日の夕食の準備をするか。
今日の夕食は明日相撲大会ということで鍋料理にしようと思う。まあ、俺は出場しないんだけどな。
で、入れる材料なんだけど。
「え、エイタさん、これは西の国で作ったシチューを作るのですか?」
「いや、鍋料理だ。この料理の名前は飛鳥鍋だ」
飛鳥鍋。
こいつは奈良県飛鳥地方に伝わる郷土料理で、鶏肉を牛乳入りの出汁で煮る鍋料理だ。
もちろん、この世界に牛乳はないので、使うのはギャウルの乳になる。
調子に乗って2本も買ってしまったが、思ったよりも減りが遅くてまだ1本分残っているし、そろそろ賞味期限がヤバそうだ。
なので、まとめて使える料理で飛鳥鍋にするという訳だ。
鍋に入れる野菜は白菜、ネギ、人参、大根、水で戻したしいたけ。これらを食べやすい大きさに切る。
肉はドド肉を使用する。こいつも食べやすい大きさに切っていくぞ。
鍋に水を張りカタオ節で出汁を取る。もちろん水で戻したしいたけの出汁も入れる。
さらに酒も入れて沸かしていき、ドド肉を加え、アクを取っていく。
火が通りにくい大根や人参を入れ、続いて白菜、ネギ、しいたけ。おっと、豆腐を忘れる所だった。こいつも入れないとな。
野菜が柔らかくなったらギャウルの乳を入れるのだが。
「カタオ節の出汁と一対一の割合でギャウルの乳を加える。そこへ醤油と塩で味を調えて、最後に味噌を少し溶かすとコクが増すんだ」
「すごいのです。ギャウルの乳でお鍋を作るのですね」
この世界では、ギャウルの乳はそのまま飲むのが一般的だ。
西の国でクリームシチューとして使って以来、料理に使うのはこれが二度目だ。
「ギャウルの乳を入れた後は沸騰させすぎないように弱火で温めて完成だ」
本日の夕食
ご飯、飛鳥鍋、ナスの糠漬け。
「「「「いただきます」」」」
「ほう、こいつは西の国で食った、くりーむしちゅーという料理か?」
「いや、こいつは飛鳥鍋だ。ほら、クリームシチューみたいにとろみが付いていないだろ」
「むむ、本当じゃ。こいつはギャウルの乳で煮込んだ鍋か」
オウカは鍋から器によそうと早速口に運ぶ。
「ほふっほふっ。ギャウルの乳と肉や野菜がこんなに相性がいいとはのう」
「……美味い。この汁、ご飯にかけるともっと美味い」
お、分かっているじゃないか。鍋の具材が無くなったらご飯を入れて雑炊で締めにするのもアリだからな。
「そういえば、明日は何時にここを出るんだ?」
「迎えの馬車が来るのは8時頃なのです。そこから城下町へ着くのは10時くらいになるのですね」
「うむ、相撲大会は午後からじゃ。向こうに着いたら父殿の所で昼食にするのじゃ」
向こうで昼食か。城下町の店を回る余裕はあるかな? なんてったって港があって魚があるんだ。見て回らない訳にはいかないよな。
まあ、そこは時間と相談して決めるとしよう。
「そうじゃ、それと明日は父殿の屋敷に泊まるつもりじゃからその準備をしておくのじゃぞ」
それなら城下町の店を回る時間が十分ありそうだ。よし、夕飯を食い終わって風呂に入ったら早速明日の準備をしなくてはな。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
***
さて、相撲大会当日の朝だ。朝食を済ませ家事を片付けた俺たちは、迎えの馬車が来るのを待っていた。
「そういえば、昼食はオウカの親父さんの屋敷で作るってことだよな」
「うむ、そうなるのう」
「親父さんの屋敷の炊事場に石窯はあるか?」
「うむ。確かあったぞ」
ということは向こうである程度の料理が作れるということだな。泊めてもらう以上、何か美味しいものでも振る舞いたいところだな。
まあ、何を作るかは向こうに行ってから決めるとしようか。
「そういえば、お隣のヤマネさんたちも城下町に行くんだよな」
「うむ、そうじゃぞ。相撲大会はこの村の者たちも楽しみな行事じゃからな」
「ドドのご飯は心配いらないのです。相撲大会の後、何人かはこの村に戻ってくるのです」
なるほど、それならなんとかなりそうだな。そんなことを思っていると、屋敷の目の前に馬車が止まる。
「お、迎えの馬車が来たようじゃのう。早速城下町へ向かうとするぞ」
俺たちは荷物を抱えて馬車へ乗り込む。
全員が席に着くと、御者が手綱を鳴らし、馬車はゆっくりと走り出した。
村を出てしばらく進むと、一筋の川が見えてくる。この川には水車小屋があり、以前カナメと一緒に釣りをしたこともあった。
その川に架かる橋を渡り、馬車はさらに先へ進んでいく。
「この川は水車小屋や釣りの時にしか来なかったからな。こんな所に橋があったなんて気が付かなかったな」
「うむ、行商もこの橋を通って城下町からやってくるのじゃ」
行商か、そういえばオボロさんも城下町からやってくるからな。向こうでいい食材とか見つかったら、今度持ってきてもらえるよう頼んでみるのも悪くない。
川を越え舗装されていない道を進んでいく。
「相撲大会って結構長い間開催されるのか」
「いや、2日間くらいじゃぞ。参加者が多いときは3日間の時もあるがのう」
え、そんなに短いのか。
現実世界の相撲は何日もかけて優勝者を決めるのに、この世界ではそんな短い期間で決めてしまうのだな。
「どんどん勝ち進んでいって、負けたらそこでお終いという訳じゃ。早ければ最初の戦いで敗退してしまうのじゃ」
なるほど、総当たり戦じゃなくてトーナメント形式でやるわけか。それなら参加者が増えても問題なさそうだな。
城下町までは、およそ二時間。
俺は窓の外へ目を向け、流れていく景色をぼんやり眺めながら、到着までの時間をのんびり過ごすことにした。




