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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
城下町妖怪相撲編

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高野豆腐と栄養学

 昼食を終えると、奥方たちは家事へ、力士たちは再び稽古へ戻っていった。

 広場には、ぶつかり稽古や四股を踏む音が絶え間なく響いている。

 ちゃんこ鍋の作り方は一通り教えた。あとは奥方たちに任せれば大丈夫だろう。

 力士の奥方たちも各自家に戻ったようだし俺たちも屋敷へと戻るとしよう。


***


「ああ、な、なんてことなの!?」

「今の声はトウコさんなのです」


 突如、屋敷へ戻る途中にある氷屋の冷凍庫でトウコさんの叫び声が聞こえた。

 気になった俺は氷屋の冷凍庫の中を覗いてみる。中からトウコさんが飛び出してきた。


「ああ、エイタさん、これを見て」


 トウコさんが手に持った容器の中身を俺に見せる。そこには完全に凍り付き、色が黄色っぽく変色した豆腐があった。


「ほら、豆腐って傷みやすいじゃない? だから長期保存できるよう凍らせてみたんだけどさ……」


 トウコさんのこの様子だと、思っていた感じと違っていたようだ。

 しかし、俺はその豆腐を見た瞬間、新しい食材の誕生を確信した。


「と、トウコさん、これ高野豆腐ですよ」

「え? 高野豆腐?」


 高野豆腐とは豆腐を凍らせて解凍し、乾燥させた日本の伝統的な保存食だ。

 乾燥しているため長期間保存でき、水で戻すとスポンジ状になって煮汁をよく吸い込むので煮物として使ったりする。


「凍らせた豆腐を再び解凍したら、絞って水分を出すんです。そうすると普段の豆腐とは違った食感が味わえますよ」

「ええ、そうなの!? ちょ、ちょっと作り方教えて! 凍らせた豆腐がいっぱいあるのよ」


 冷凍庫の中を覗くと、確かに大量の豆腐が凍らせてある。これは好都合だ。

 新たな保存食を、この世界に広められるかもしれない。


「ヨウコ、これは新たな食材が生まれるチャンスだ。やるぞ」

「分かったのです!」


 早速俺たちは高野豆腐作りを始めることにした。

 トウコさんは冷凍庫から凍らせた豆腐を取り出すと、それを醤油屋へと運んでいく。

 醤油屋に入ると小豆洗い子分たちが出迎えてくれる。


「お帰りなさい、女将さん。あ、そいつは凍らせた豆腐ですね。どうでした?」

「ダメね。色が変色してしまったわ。でもね、エイタさんが新たな食材が生まれるって言ってくれたのよ」

「ほ、本当ですかエイタさん」


 小豆洗い子分たちは驚きや喜びの表情を見せる。まるで初めて豆腐を作った時のような喜びようだ。


「今は相撲大会の稽古で旦那はいないからアタシたちでやるしかないわね」

「ええ、そうですね、早速作ってみましょう」


 俺は小豆洗い子分たちに指示を出してぬるま湯を用意させる。

 ぬるま湯の中に凍らせた豆腐を入れて解凍させるだけだ。幸いトウコさんは豆腐を凍らせやすいように小さめに切っておいたおかげですぐに解凍できた。


「中心まで柔らかくなったら両手で挟むようにして優しく、しっかりと絞ります」

「これってもしかして乾燥させれば長期保存出来たりするの?」

「ええ、出来ますよ。しっかり乾燥させないといけませんけどね」


 完全に水分を抜く方法としては凍結、解凍、乾燥という工程を2回行うと良い。……何で知っているかって? 高野豆腐は俺が小学3年生の時の冬休みに作ったことがあるからだ。


「な、なんか元の豆腐とは全然違う物になったわね」

「こいつは水分をよく吸うので煮物なんかと相性がいいんですよ。試しに作ってみたいので鍋借りてもいいですか?」


 俺がそう言うと小豆洗い子分がすぐさま鍋とさらに野菜一式、醤油や砂糖等の調味料まで用意してくれた。なんだ、この用意周到さは。

 とりあえず、高野豆腐を使った一品を作ってみるとしよう。

 まず、出汁を取るためにお湯を沸かし、カタオ節で出汁を取る。

 大根、人参を一口大の大きさで乱切りにして、砂糖、醤油、酒を加えて、軽く沸騰させる。

 そこに同じく一口大にした高野豆腐を入れ、中火で15分くらい煮込んで完成。

 さらに火を止め、10分ほど置くと味が染みて美味しくなるぞ。


「これで完成だ」

「早いのです」

「あら、意外と簡単なのね」


 早速みんなで味見をしてみることにする。味の染み込んだ高野豆腐を口に入れると、吸い込んだ出汁の味が口の中に広がる。


「んんん~。味が染み込んでとても美味しいのです」

「この高野豆腐って不思議な食感ね。まるでお肉みたいよ」

「しかも乾物だから豆腐よりも長持ちしますね」


 新たな食材、高野豆腐を生み出したことによって、痛みやすい豆腐を保存食に変えることが出来るようになった。


「しかし、この豆腐って色々な食材に使えるのね」

「ええ、しかも、豆腐にはお肉に負けないくらい豊富な栄養があるんですよ」

「ええ、そうなのですか!?」

「肉に負けないくらい栄養があるって? 元は大豆だから野菜じゃないのか?」


 まあ、この先は栄養学になってしまうが、力士を育てるため知っておいて損はないだろう。


「ええと、大豆にはタンパク質っていってお肉と同じ栄養があるんですよ。俺の世界だと畑の肉って呼ばれています」

「たんぱくしつなのです?」

「畑の肉……。大豆って凄いのね」

「ええ、このタンパク質っていうのは筋肉を作るのに重要な栄養なんです。いくら稽古をしてもこのタンパク質を取らないと強くはなれません」


 正確には肉は動物性タンパク質、大豆は植物性タンパク質で、同じタンパク質でも若干違う。まあ、大豆も体を強くするタンパク質が入っていると思ってくれればいい。


「あとは、卵や牛乳、魚にもタンパク質が多く入っています」

「なるほど、つまりそのタンパク質っていう栄養は今の力士たちに必要ってことだね」

「そういうことです。ただ、それだけ食べてもダメです。他の栄養も合わせて取らないと効率よく吸収しなかったりするんですよ」

「なるほど、何事もちょうどいい塩梅が必要ってわけね」


 トウコさんは必要なことをメモ帳に書いている。後で他の奥様方と共有するのだろう。

 オウカも言っていたことだけど、最近の村の住人は活気に満ち溢れている。

 バランスのいい食事をして、必要な栄養が行き渡ったことで、本来の力を発揮できるようになったのだろう。

 そして、このことは相撲大会に出る力士にとって大きなアドバンテージとなる。

 どんなに強い力士でも力を発揮できなければ勝てる相手でも勝てなくなってしまう。


「とにかく、相撲大会当日は最高の状態で迎えましょう」

「ええ、そうね。そのためのアタシたちってわけだものね」


 俺もこの村に住んでいる以上、やはり村の住人に勝ってもらいたい。俺も、彼らが勝つために出来る限り協力をしていこうと思う。

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