妖怪力士とちゃんこ鍋
「エイタさん。ご所望通り、城下町での相撲大会に出場する力士たちとその家族たちをお呼びしましたぞ」
やはり困った時に頼りになる男クダンさんだ。彼の広報の力を使って集めてもらったという訳だ。
広場にはアカシさんやカワマタさん、アズキダさんやネコタさん。さらには木工屋の建設現場で働く鬼たち。さらにその家族たちが集まっていた。
「エイタさんこんなところに呼び出してなんの用なんだい。しかもうちの味噌が必要だなんて」
「そうにゃ、うちの旦那はこれから相撲大会の稽古をする時間にゃ」
実は集まると同時に各家庭から材料を持ち寄ってもらった。ドド肉、野菜、カタオ節、味噌や醤油、豆腐等だ。
そして、困惑する声が聞こえる中、オウカが口を開いた。
「皆の者、聞くのじゃ。実は我が父ハクオウが言っておったのじゃ。今年の相撲大会は中々楽しめそうじゃとな」
その言葉に観衆がざわめいた。前回の優勝者がそう言うということは期待されているという証でもある。
「そして、ここにおるエイタはお主たちを強くするための料理を教えるためにこうして集めてもらったという訳じゃ」
「俺の世界にも相撲という文化はあります。そして、その相撲をする力士たちは共通してある料理を食べていました」
料理という言葉を聞いて、観衆の興味が一斉に注がれる。俺は一呼吸置くとその料理の名前を口にした。
「料理の名前はちゃんこ鍋。これは俺の世界の力士たちが相撲で勝つために研究された、相撲のための料理です」
正直言って、今から体づくりをしては間に合わない。そうなると後は気持ちの問題だ。その為の料理がこのちゃんこ鍋という訳だ。
ちなみにちゃんこ鍋というのは料理名ではなく、元々力士が日常的に食べる鍋料理の総称のことをいうのだ。栄養バランスが良く大量に作りやすいため、相撲部屋で広く食べられている。
「材料は簡単です。肉や野菜、豆腐等を鍋に入れ一緒に煮込むだけです。こうすることによって余すことなく栄養を取ることができます」
「あら、意外と簡単なのね」
「でも、この調理法なら食材を無駄にすることなく全部いただけるにゃ」
「よし、早速今日から作るわよ」
すでにみんなやる気満々なようだ。よし、ここは俺も色々な鍋料理を教えていくとするか。
「まずは俺がここで基本の鍋料理を教えます。なにせ、この村には鍋料理に欠かせない肉に野菜に豆腐に味噌に出汁の素まで一式が揃っていますからね」
しかも、出場する力士たちが扱っている食材たちだ。ドド肉はアカシさん、野菜はカワマタさん、味噌や醤油や豆腐はアズキダさん、出汁の素であるカタオ節はネコタさん。
「確かに、俺たちが扱っている食材ばかりだな」
「こいつはやるしかねえようだな。ハクオウのやつをぶん投げてやろうぜ」
アカシさんとカワマタさんはすでにやる気満々なようだ。一方アズキダさんは険しい表情をしている。
「……俺はハクオウさんには用はねえが。どうしてもぶっ倒してえ奴がいてよう」
アズキダさんはアズキダさんで違う目的があるようだ。一方ネコタさんは。
「私は、タマちゃんの前でかっこいい所を見せられたらそれでいいですにゃ」
「頑張ってにゃ。マタキチさん」
ネコタさんは力の限り頑張るそうだ。
理由はどうであれみんなが戦う理由があるようだ。ここは俺が手伝わないわけにはいかないな。
早速俺は広場の大釜を使って調理することにする。どうせこの後、男たちは稽古をするのだ。力が付くちゃんこ鍋を作るとしよう。
今回は家庭でも簡単に作れるしょうゆベースのちゃんこ鍋の作り方を教えることにする。
まずは野菜や豆腐を食べやすい大きさに切る。
大釜に水を入れ火にかけ、そこで出汁を取るための昆布と細かくしたカタオ節を入れる。出汁を取った乾物は取り出さず、そのまま入れておく。これも全て食べてもらうためだ。もちろん、食べやすいように細かく刻んである。
「ドド肉はこれくらいのひき肉にすればいいの?」
「ええ、それくらいで大丈夫です」
「ネギはみじん切りで、オウコンは全部すりおろすのね」
「アタシはご飯炊いてくるわね」
もちろん、力士の奥様方たちにも手伝ってもらっている。
ドド肉をひき肉にして、そこにネギのみじん切り、オウコンこと生姜のすりおろしを混ぜ、塩で下味をつけておく。卵と片栗粉を混ぜて繋ぎにする。
肉はそのままで入れるものと、鶏団子の両方を入れるとしよう。もちろん野菜もたっぷり入れるぞ。〆のうどん……はない。
うどんの作り方も教えるのもありだけど、小麦粉の入手手段が行商しかないからな。〆はご飯にしてもらおう。
鍋の汁が沸騰してきたら匙を使って肉団子を作っていく。混ぜたひき肉を手で持って、握るように押し出し、それを匙ですくって沸騰した鍋に入れる。
「こうして鍋に入れて火を入れると固まるってわけです」
「なるほどねぇ」
「小さなハンバーグみたいなのです」
みんなで大釜に大量の肉団子を入れていく。大人数で作っているのであっという間に終わってしまった。
野菜と肉、さらには豆腐もたっぷり入った鍋料理だ。もちろん力士たちの分だけではない。その家族全員分だ。みんなで囲んで食うのも鍋料理の醍醐味と言えよう。
もっとも、釜が大きすぎて囲めないから各自器によそって食べるしかないんだけどね。
「さあ、出来たぞ。たくさん作ったから遠慮なく食べてくれ」
「おお、なんだか凄い量だな」
「肉に野菜にたっぷりだ。こいつは力が付きそうだぜ」
大釜に大量に作られたちゃんこ鍋を見て4人の力士が驚いている。
各自が大きめの器にたっぷり盛る。もちろん、家族の分もだ。やはり食事とはみんなで食うのが一番うまいからな。
全員分に行き渡っても大釜の中にはまだ残っている。力士たちには一杯食べてもらわないといけないな。
そんなことを思っていると全員の視線が俺に集まった。
「おいおい、エイタ、何やってんだよ。お前さんの分も器によそわないと」
アズキダさんが器を取って大釜からちゃんこをよそい、俺に突き出した。
「え? これはみんなの分でして」
「何言っているのじゃエイタ。みんなで食ってこその飯じゃろう」
「もう、カナメちゃんも呼んだのでここでみんなで食べるのです」
ヨウコはいつの間にかカナメを呼んできていた。確かに、今から屋敷に戻って昼食を作り直すのはなかなか大変だからな。ここは同じ釜の飯を食わせてもらうとしよう。
「それじゃあエイタ。いつものをやるぞ」
「いつものか、そうだな。みんなでやるか」
俺がそう言うと全員が合わせたように手を合わせる。
「それでは、皆さん手を合わせまして」
「「「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」」」
さて、自分で作ってみたちゃんこ鍋の味付けはどうだろうか。俺は早速肉団子を口に運ぶ。
「あふっ、ほふっ」
「ほふほふ、熱いけど、こいつはなかなか美味いのう」
俺の隣でオウカも肉団子に苦戦している。
出汁のしみこんだ肉団子に野菜に豆腐と、具材のたっぷり入った鍋物はやはり食べ応えがある。
「おかわりだ!」
「よし、俺も食うぞ」
俺たちがまだ1杯目を食べている途中だというのに、すでにカワマタさんとアカシさんは器を空にしていた。
再び器にたっぷり盛るとちゃんこを主菜にご飯もあっという間に平らげる。二人とも凄い食いっぷりだ。見ているこちらまで清々しくなるくらいだ。
「食って稽古して。また食って。こうでもしないとハクオウには勝てねえからな」
「ああ、さっきは負けちまったがな。今年はいけそうな気がするんだ」
そう言いながら二人とも食べ進めていく。それを見た彼らの奥方たちも顔を見合わせ頷きあう。
「そうだね。そろそろ勝って番付1位取ってきな」
「アンタ、今年は番付上がるかしらね」
「番付って、やっぱりみんな番付を持っているんですか?」
相撲はあまり詳しくないが、番付という順位みたいなのがあるとは聞いたことがある。一番上が横綱というのを知っている程度だけどな。
「そうね。例えば、去年の秋にやった大会では全部で20名の参加者がいたわ。その中の優勝者が横綱と呼ばれているわ」
「うむ。妾の父殿はもう何年も横綱として君臨しておるからのう。未だに負け知らずじゃ」
しかし、それが故に最近は盛り上がりに欠けてしまっていると嘆いているらしい。
「1位は横綱、2位は大関、3位は関脇、4位は小結と呼ばれておる。上位4位まで勝ち上がれば強者と認められるという訳じゃ」
なるほど、もちろん上位4位まで残るだけでも相当な努力が必要なわけだ。
「ちなみに、この村で上位者はいるのか?」
「うむ、アカシもカワマタも小結までは残ったことがあるぞ」
小結、ってことは4位まで上がったってことか。城下町の力士たちがどれだけ強いか分からないが4位まで上がれるだけでも凄い事じゃないか。
「しかも、今回はスクナヒコが参加するようじゃからのう。奴の強さは未知数じゃ」
「スクナヒコってハクオウの従者だったよな。今年は奴が参加するのか」
「ただでさえ厄介な奴らが多い城下町だからな。ぬりかべのシラタに大入道のダイジロウ。海坊主のカイエン。城下町には大関を取った奴らもたくさんいる」
名前を聞くだけでも強そうな妖怪しかいないのだが、そのなかで戦うのか。
「最近じゃ西の国出身のやつらも参加するという話も聞くな」
西の国出身の力士って、まさかオーグランドさんみたいなのが出てくるのか。
いや、もしかしたら鍛冶屋にいたサイクロプスみたいなのとか、規格外の魔物とかが出てくるのかもしれない。そう考えたらこの相撲大会はなかなかに迫力がある試合になりそうだ。
「まあ、とにもかくにも食って稽古して力を付けなくちゃ話にならねえってことだな」
「ああ、そうだな。幸いうちの村には美味い飯の作り方を知っている料理番がいるからな」
そう言ってアカシさんとカワマタさんは3杯目のおかわりを器によそう。さらにアズキダさんやネコタさん、参加する鬼衆たちもおかわりをしていく。
気づけばあれだけ大量に作ったちゃんこ鍋は綺麗さっぱり無くなってしまった。
「「「「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」」」」」




