雪女とアイスクリーム
俺たちは氷屋に到着すると、早速冷凍庫からアイスクリームを取り出した。表面は見た感じしっかりと固まっている様だ。
「これがアイスクリーム? ギャウルの乳を固めただけじゃない」
「なんじゃ、そうなのか。がっかりじゃのう」
「おいおい、見た目で判断してもらっちゃ困るぞ。試しに匙ですくって食べてみてくれ」
ユキメさんは家から持ってきた匙を手に取り、半信半疑といった様子でアイスクリームをすくった。
「あれ? 柔らかい?」
恐らく氷と同じ硬さだと思っていたのかその柔らかさに驚いている。ユキメさんはそのまますくったアイスクリームを口に運ぶ。
「んん~。なにこれ甘くて美味しい」
満面の笑みを浮かべたユキメさんは、夢中になってアイスクリームを食べ始めた。
一口食べるともう止まらない。匙を何度も動かし、あっという間に器を空にしてしまう。
「凄いねこれ。凍っているのに柔らかくって口の中で溶けるようになくなっちゃうわ」
どうやら、ユキメさんはアイスクリームを相当気に入ってくれたようだ。
俺は食べ終わった器を回収すると残りのアイスクリームを持って屋敷へと戻ることにした。
***
「戻ったのじゃ」
屋敷へ入ると、先に帰っていたハクオウさんが腕を組んで待っていた。
「オウカ、ずいぶん帰りが遅かったではないか」
先に戻っていたハクオウさんが俺のことを睨みながらそう呟いた。
オウカはそんな様子のハクオウさんを無視して早速俺の持っている器に釘付けになっている。
「エイタ、早速そのあいすくりーむというおやつを食べるぞ」
「む? 貴様、その器は一体何なのだ?」
ハクオウさんも俺の持っているアイスクリームの器が気になっているようだ。
作れたアイスクリームは全部で8つ。そのうち一つはユキメさんにあげたので残り7つ。
なんということだ。来客分も含めるとちょうどいい数字じゃないか。
「こいつはアイスクリームといって、冷たくて甘いお菓子ですね。冷凍庫の使えるこの期間しか作れません」
「ほ、ほう、甘いお菓子とな?」
なるほど、ハクオウさんも甘いお菓子には興味があるようだ。ちょうどいいし、この屋敷のおやつ事情でも教えつつ、お茶の時間としますか。
「毎日じゃないですけど、この時間にお茶の時間としておやつを食べることがあるんですよ。ちょうど皆さんの分もありますし、一緒に食べましょう」
今日のおやつはアイスクリームなので、ここは緑茶じゃなくて西の国に行ったときにお土産で買ってきた紅茶を淹れてみよう。
ちょうどヨウコがお湯を沸かしてくれたところなので、俺は紅茶の缶を開け、急須の中へ茶葉を入れる。
あいにくティーカップなるものはないので湯呑に入れることになるが仕方がない。
「お待たせしました。それじゃあ、いただきましょう」
全員が席に着くと、俺たちは手を合わせる。
「「「「いただきます」」」」
「こうかしらね。いただきます」
「いただきます!」
レイカさんとスクナヒコさんも俺たちと同じようにいただきますを言ってくれた。
「い、いただきます」
ハクオウさんも遅れていただきますを言ってくれる。
オウカは早速匙でアイスクリームをすくうと口へ運んだ。
「ほほう。こいつは冷たくて口の中で溶けて美味いもんじゃのう」
「……美味い! これもっと食べたい!」
オウカはアイスクリームの味を堪能し、カナメに関してはアイスのおかわりを要求しそうな勢いだ。悪いな、今日は一人一つずつしかないんだ。
「むふぅ~。こいつは美味であるぞ」
「ちょっと、あなたなんて顔してんのよ」
レイカさんはハクオウさんを見て大笑いしている。
あの顔、西の国でも見たことがあるぞ。ブレッドプディングを食べた時のオーグランドさんと同じ顔をしている。
「む? そ、そんな変な顔をしていたのか?」
「うむ、なんか気味悪い顔をしておったぞ」
冷たいアイスクリームに紅茶はよく合うな。
そんなことを思いながらアイスクリームを食べていると、ハクオウさんが何かを考えこむように唸っている。
「なるほどのう。アカシやカワマタ。他の連中が去年よりも強くなっている理由が分かった気がするぞ」
ハクオウさんは俺を見ながらにやりと笑みを浮かべる。
「貴様がこの村に料理を広めたからであろうな」
「どういうこと? 料理でそんなに変わるものなの」
「いえ、レイカ様、あながち間違いとも言えませぬぞ」
レイカさんの疑問にスクナヒコさんが答えた。
「食というものは食べた者に喜びややる気を与えるものだと私は思うのです。故に美味いものを食べればその者に活気が現れる。この村は以前よりも活気に満ちている気がします」
確かに、俺がこの村に料理を広めてから活気に満ちていると言われたよな。
まさか料理の影響が今年の相撲大会にまで影響するとは思わなかった。
「貴様、エイタと言ったな」
「は、はい」
俺はハクオウさんに名前を呼ばれ思わず姿勢を正し返事をする。
「どうやら、貴様の料理は本物のようだな。面白い。貴様の広めた料理とやらでこの村の力士たちを強くしてみせるがいい」
「……え!? お、俺の料理でですか?」
いやいや、料理一つでこんな最強クラスの酒呑童子力士に勝てる妖怪力士を育てろだなんて。
「うむ、そうじゃのう。お主の作った料理で力を付けて父殿をぶん投げられる妖怪が現れれば村も賑わうからのう」
横綱相手に手軽に大金星出来たら苦労しないぜ。
いや、しかし、あの圧倒的な強さを誇るハクオウさんがここまで言うということは、この村にハクオウさんを負かしうる者がいるということだな。
「そうじゃ、父殿に母殿。今日は泊っていくのじゃろう?」
「うむ、そのつもりじゃ。ほれ、こうして酒も持ってきておるからのう」
「おお、夜は早速飲むぞ。エイタ、夕食は酒に合うものにするのじゃ」
酒に合うものか、そういえばさっきヨウコがスクナヒコさんからギャウルの肉をもらっていたよな。あれを使った料理で何かあったかな。
「とにかく、おやつも食い終わったことだし、そろそろ片付けるぞ」
「うむ、そうじゃな。夕食も楽しみにしておるぞ」
「「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」」




