鶏肉+卵+ご飯=親子丼
1軒目は、おっさん猫店主の店
「へい、らっしゃい、お、旦那じゃにゃいか」
俺は店内を見渡し、乾燥昆布を探したが、それらしい物は見当たらない。
「なあ、店主さん、干した昆布は置いてないのかい?」
「ホシタコンブ? にゃんだ、そのホシタコンブって」
なるほど、昆布自体を知らない感じか。
俺は店主にどういう物かを説明した。
「海の草を干した物? うにゃ~、お前さん、変わったもん欲しがるんだにゃ」
おっさん猫店主はしばらく考えると、頷いた。
「よし、すまねえが旦那、3、4日後位にまた来てくれねえか? 明日、兄弟がいる城下に行くでさぁ、そんときに探して作ってみるからよぉ」
おお、まさかの一から作成。しかし、成功すれば、料理の幅がまた一つ広がるぞ。
俺は、鰹節(ここではカタオブシと呼ぶ)とアージェと呼ばれる鯵っぽい魚の干物を買い、ワクワクしながら、次の店へと向かった。
二軒目、店先に色とりどりの野菜が並んでいる、なるほど、八百屋か。
「へい、いらっしゃいまし、おっと、ヨウコちゃんじゃないかい」
店の奥から出てきたのは、肌が緑色で口元が少し尖った妖怪、うん、河童だな。
「おはようございます、カワマタさん」
店先の看板をみると、野菜の「カワマタ」と書いてある。
俺は、店先の野菜を手に取り鮮度や張りを確かめる。
「おお、このナス、張りがあって良いな、この大根も、いい形している」
「お、見る目あるね、兄ちゃん、って昨日叫びながら走ってた兄ちゃんじゃねえか」
あ、昨日の事覚えておいでで、お恥ずかしい。ヨウコは俺の事を店主のカワマタさんに説明してくれた。
「ほぉ~、料理番か、まあ、うちの野菜はそこら辺のよりも良いものって自信はあっからよ、ほら、特にこのきゅうりなんかは……」
ふむ、確かに張りとツヤがある良いきゅうりだ。俺はきゅうりの他に色々な野菜を購入した、幸い、野菜の名前は現実と変わりない様だ。
しかし、中には現実世界では見たことない野菜もある。特にこの、ジャガイモっぽいんだけど真っ白で、大きさはグレープフルーツほどの野菜だ。
「この野菜は何だ?」
「お、目の付け所が違うね。そいつはベタイモって言ってな。まあ、なんだ、ジャガイモの親戚みてえなもんさ」
値段を聞いたら、ジャガイモより断然安い。よし、試しに買ってみるか。
「よし、こいつを1つくれ」
「毎度あり〜」
「あ! それはダメなのです!」
え? これはダメって、このジャガイモもどきが?
「おおっと、買っちまったら返金は受け付けねえぜ」
「あううう、ベタイモを買ってしまったのです」
な、なんだ、そんなにヤバいのか、このイモは
「ベタイモは焼いても茹でてもベタベタしてて、とても食べれたものではないのです。これはジャガイモ畑でたまにとれる嫌われ者なのです」
いわゆる、ハズレイモって訳か、あの店主め、抜け目ないな。
いや、ここは異世界、知識が無かった俺の負けだ。
さあ、3件目は……。
「……いらっしゃい」
身長2m近くの巨体、深紅の肌に頭から生えた立派な角。間違いない、俺がこの世界に来て初めて見た妖怪、赤鬼だ。
「アカシさんこんにちは」
赤鬼で肉屋のアカシさん、見た目は強面だが、優しい人、いや、妖怪らしい。
なるほど、あの時、手に持っていた鳥はドドか、うん、十分怖えよ。
商品は……。
「これがドドの肉か」
赤鬼の店主が目の前で、筋や脂を落とし、切り分けていく。見た感じ現実世界の鶏肉だ。
ふむ、鶏肉、いやドド肉か、こいつを使おう。あと、朝食で使いきってしまった卵も買おう。あれなら仕込みの時間がなくても作れるし、早くも昼食が決まったようだ。
夕食はどうするか……。仕方がない昼食の後にも時間がある。あまり遅いとオウカが急かしてくるかもしれないしな。
俺たちは昼食作りのため、いったん屋敷に戻ることにした。
「腹が減ったぞ、飯はまだか」
案の定、オウカは急かしてきた。うん、早めに戻ってきて正解だった。
「待ってろって、もうすぐご飯が炊けるから」
鍋から、胃袋を刺激する白米の炊ける匂いが漂っている。オウカが催促するのも無理はない。
必要な野菜や肉はすでに下処理を終えて待機状態だ、並行してみそ汁も作ってある。今回の具はジャガイモだ。
お、炊きあがりの時間になったな、後は蒸らしの時間だ。そろそろ始めるとしよう。
「なあ、オウカ、お前の腰のヒョウタンの中身って酒か?」
「うむ、酒じゃぞ、なんだ、飲みたいのか?」
オウカは自慢するように俺の前へと突き出して見せびらかした。
「いや、料理に使わせてくれ」
「料理に使うじゃと? いったい何を作るのじゃ?」
オウカが興味津々に聞いてくる。卵、ドド肉、玉ねぎ、醤油、砂糖、酒。あと、みりんがあれば良かったのだが仕方がない、今回は酒で代用しよう。
これらを合わせて作る料理は……。
「親子丼だ」
「おやこどん?」
親=鶏肉、卵=子、合わせて親子丼、仕込み入らずでご飯と材料さえあれば速攻で作れる。
まず、平鍋に脂を垂らし、一口大に切ったドド肉をいれ中火で炒める。
色が変わったところで玉ねぎを入れ、しんなりしてきたら、 醤油、砂糖、酒を入れて中火で煮る。みりんがないので砂糖を少々多めに入れることにした。
ドド肉に火が通り汁気が半量ほどになったら溶き卵を2/3程入れて中火でさらに煮る。あえて少し残しておくのがポイントだ。
卵が半熟状になったら、残りの溶き卵を入れ10秒ほどで火からおろす。
「ヨウコ、ご飯をその器に盛ってくれ」
「分かりましたのです」
器に盛ったご飯の上に盛り付けて完成。次はヨウコに教えながら作らせる。うん、まあ、簡単だしな、親子丼。一回見ただけで覚えたようだ。
付け合わせは、きゅうりと鰹節浅漬けだ。色々と野菜も購入したので夕食用で漬け込んでおくか。
「さあ、お待ちどうさん、親子丼だ」
本日の昼食
親子丼、きゅうりと鰹節の浅漬け、ジャガイモのみそ汁
「いただきます」
「なあ、エイタ、お前は何で食べる前に手を合わせるのじゃ?」
「ん? これは、俺のいた世界で食事をとる前にする作法みたいなもんだ。料理ってのは元々は全て生き物だから、その命をいただくことに感謝しろってな。俺の死んだばあちゃんが言ってたんだ。だから、ご飯を食う前は必ず手を合わせていただきますって言うんだよ」
「ふむ、そうなのか」
オウカはそう言うと持っていた木のスプーンを置いて、掌を合わせる。
「いただきます!」
「……いただきます」
「い、いただきますのです」
皆、真似するようにいただきますを言ってくれた。いいぞ、きっとご飯が一段と美味くなるはずだ。
「はふはふ、美味いぞ、この親子丼」
今日買ったドド肉は恐らく胸肉、見た目が鶏肉と変わらないし、味もほとんど同じだ。いや、こちらの方が少しジューシーか?
「おかわり!」
いや、早えよ! 材料を余分に買っておいて良かった。まあ、作るのも早いしな、親子丼。
「カナメもおかわりか?」
カナメも空の丼を持って、首を縦にブンブン振った。俺、まだ半分も食ってないんだけどな……。
俺は一旦食事の手を止め、親子丼作り
に専念する。おっと、どうらやヨウコが手伝ってくれるみたいだ。
「エイタ、お前、飯をこの竹棒で食ってるのか?」
「ああ、まあな、俺の住んでいた所じゃ、皆、当たり前に使っているぞ」
オウカは俺の使っている箸を使って、きゅうりを挟もうしている。
「結構、簡単……」
いつの間にか持ってきたのか、カナメは箸の先端できゅうりひょいとつまみ上げる。見ただけ使える様になるなんて凄いな。
「ほら、出来たぞ」
オウカが俺の箸を使っているので、かわりの箸を持ってきた。おや? ヨウコも箸を挑戦するようだ。まあ、だし巻き卵の時に使っていたし、すぐにでも使える様になるだろう。
「おい、エイタ、この箸とやらはどうやって使うのか教えろ」
「いいか、一本はここに挟んで、もう一本は……」
オウカはプルプルしながら箸を使っている。案の定、ヨウコは難なく使える様になった。
しかし、驚いた、すぐにでも投げ出すかと思ったが、あきらめずに箸を使っている。
「まあ、最初は上手くはいかないさ、俺も子供の頃はスプーン使っていたしな」
「でも、カナメちゃんは直ぐに使える様になってしまったのです」
うん、それには俺も驚いた。
「時計の部品、摘むよりも、簡単……」
カナメはドヤ顔でドド肉を摘むと、口に放り込む。
時計、そういえば、この屋敷には、目覚まし時計や壁時計、調理場にもあったな。すべてゼンマイ式だけど、あれ全部カナメが作っているのか?
よく見ると、カナメは黄銅色のペンダントのようなものを首から下げている
「まさか、それも時計か?」
「うん、でも、これはカナメの爺が作った時計。カナメも爺の様な立派な時計職人になるんだ」
あれは、サイズ的に懐中時計ってやつか、現実世界だと、アンティーク物で凄く高いってイメージがある。それをあげてしまうとは、相当の孫好きだろうな。
「む、なんか使い方が少し分かってきたぞ。次、また頑張るのじゃ」
オウカは一旦箸からスプーンに持ち替えると、丼の中の残りの米をかき込んだ。
いただきますのついでに食べ終わったあとの言葉と意味も教えてあげた。
食事を用意してくれた人や食材に感謝をするという心、それを言葉にしてこう言う……。
「「「「ごちそうさまでした」」」」




