酒屋『シュテンジ』
「そうじゃ、今日は酒屋を開けるからのう、エイタも手伝うのじゃ」
朝食が終わり、洗い物をしているとオウカが声をかけてきた。
そういえば、オウカは酒屋をやっているって言っていたな。
開店の日時は決まっておらず、事前に村の掲示板のような所で販売の告知をしているらしい。
すでに酒樽はオウカが朝のうちに販売所へ運んであるとのことだ。
……なるほど、昨日ぶつかってぶちまけたあれか。
嫌でも思い出す光景に、少しだけ胃が重くなる。
まあ、今日はその分取り返すように客が来るのだろう。
俺は洗い物を済ませ、オウカたちとともに販売所へ向かった。
屋敷とは少し離れて出店のようになっている。そこが販売所だ。
「酒を買いに来る客は皆、ヒョウタンを持ってくる。そいつに入れて、吊るしに載せて値段を言うのじゃ」
見ると酒樽は三つ。
それぞれに異世界文字で「1」「2」「3」と番号が振られている。
取っ手を回すと中から酒が出る仕組みらしい。
客の指定した番号の酒を注ぎ、代金を受け取る。
なるほど、完全に量り売りだ。
ちなみに、この世界の通貨はこうなっている。
金銭1=銀銭10。銀銭1=銅銭10。
さらに銀と銅には“貫銭”と呼ばれる穴あき硬貨があり、それぞれ元の5倍の価値を持つ。
つまり――
1銀貫銭=銀銭5枚分。1銅貫銭=銅銭5枚分。
(日本で言うと、50円玉とか5円玉みたいなもんか……)
そして木銭なんてものもあるらしいが、ほぼ子供の小遣い用でしか使われていないという。
「そろそろ時間じゃ、準備しろ」
開店前のはずなのに、すでに客がぞろぞろと集まり始めていた。
その光景はまるで――百鬼夜行だ。
「開店の時間じゃ! そりゃ、並べ並べ」
「2番だ、2番をくれ」
俺の仕事は単純だ。
客からヒョウタンを受け取り、指定の番号の酒を注ぐ。
それをカナメに渡し、カナメが吊るしに掛けて値段を告げ、代金を受け取る。
「3番だ」
「2番ちょうだい」
これは番号を間違えないようにしないとな。
とはいえ、実家で定食屋の手伝いをしていた経験がある。
この程度、問題はない。
「おお、昨日カタオ節買ってくれた旦那じゃにゃいか!」
突然客の一人が俺に声をかけてきた。
ああ、昨日のおっさん猫店主か。
「先日はどうも、あれのおかげで昨日はいい料理が作れたよ」
「うにゃ? お前さん、料理番かにゃ…って後ろがつっかえてんにゃ。今日は1番をくれにゃ」
おっさん猫店主は上機嫌になりながらヒョウタンを渡してきた。確か1番って名前の通り1番高いやつだよな。いくらなんだ?
「……金1と銀2」
俺の借金はあの1番の酒、約834本分かよ。
いや待てよ、確か50年って言ったよな。金銭1000を50年、1年で金銭20、つまり1ヵ月で金銭1と銀銭6、それを30日で割ると、1日に銅銭5と半分……。
いや、昨日ヨウコと給料を同じにしてくれると言ってたから、銀銭1と銅銭1……。
「……なあ、オウカ、俺の借金に対して、働く年数が多くねえか?」
「し、知らんぞ! 妾の計算だとおぬしは50年じゃ!」
”50年じゃ”じゃねえよ!
俺の日当は昨日買ったカタオ節かよ!?
しかも給料倍なら単純計算25年じゃねえか!?
いや、それでも多い。これはしっかりと話し合いをするべきだ。
丁度昨日、俺は飯という名の武器を手に入れたからな、ふははははは。
新たな目標ができ、上機嫌になった俺は、難なく客を捌いていくのであった。
舐めるなよ。こっちは実家の定食屋でガキの頃から鍛えられてるんだ。
「うむ、よくやったぞおぬしら」
時計の針が11時を指した所で、客足も途絶えた為、オウカがきり上げた。
特に売り上げたのが二番の酒で、大きな樽の中身はほぼ空っぽになってしまった。
「今日は中々に売ったからのう、昼と夜は美味いものを作るのじゃぞ」
オウカは、売上の一部から金銭を2枚渡してきた。
これでお昼と夜の分を買ってこいということだな。
金銭2枚。これだけあれば色々買えそうだ。
それに、この村の店を色々見て回ることができる。
しかし、昼まで1時間。あまり時間をかけると何か言われそうだしな。
さらに、夕食のことも考えなければならない。
とりあえず、ヨウコに村の中を案内してもらいつつ、献立を考えていくしかないか。




