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美味しい朝食づくり

 

 ジリリリリリリリリリ!


 俺は枕元にある時計の頭を押して鐘の音を止める。

 8畳一間の和室、日本の田舎の様な家屋で俺は目を覚ました。

 目の前にある時計は5時を指している。ちなみにここは現代に戻ってきたわけではない。

 

「ええと、起きたら右側にあるこのゼンマイを音が鳴るまで回すんだよな…」


 昨日の夜、寝る前にヨウコに渡されたもの、ゼンマイ式の時計だ


「これはカナメちゃんが作っているのです、カナメちゃんはとても手先が器用なのですよ」

 

 すげえな、これ作ったのか、この異世界で…。

 この世界に電池というものは存在しないようだが、代わりにゼンマイでの稼働になる。

 これ、ちゃんと回せば半永久的に使えるのではないか?

 

 と、カチカチとゼンマイから音がなり始めた。

 俺は布団を畳み、炊事場へと向かった。


「おはよう、ヨウコ」

「あ、おはようなのです」


 俺は軽く挨拶を済ませると、これから朝の家事のための準備をする。

 料理では指導者の立場でも、俺に与えられた仕事は料理だけではない。

 家事全般も仕事に入っている、そして、家事全般はヨウコの方が先輩だ。

 

「ご指導ご鞭撻、よろしくお願いします」

「はわわわわ、分かりましたのです」


 まずは朝一に井戸から水を汲む、と言っても汲むのは水ではなく…。


「なるほど、夜のうちに井戸の中に水の妖石を浸けておくわけか」


 水や火を出すことのできる妖石、しかし、この石も無限に出るわけではない。

 中身が無くなったら、その中身を入れないといけないのだが、そこそこ時間がかかるのである。

 

「水は何とかなるのですが、火とか氷はお店に行かないとダメなのです」


 さすがに長時間、火や氷に浸けておくのは一般じゃ不可能なので、専門店に行かないといけないらしい。火は火種屋、氷は氷屋といった具合にだ。

 さらに、各部屋の天井に付いている白い妖石も回収し、それは天日にさらしておく。この白い妖石は光を溜め込むようだ。


「オウカ様はいつも6時半くらいに起きて、酒蔵の様子を見に行くのです。その後は髪を梳かし、7時半くらいに朝食を取る予定なのです」


 なるほど、つまり、時間は2時間半程か、その間に朝食を準備すればいいのか。

 今日は指導もあるので時間に余裕をもって早起きをした。


 俺はヨウコに連れられて屋敷の裏手へとやってきた。


「おわ、何だこいつは!?」


 木で小さな小屋に数匹の鳥がいた。ニワトリに似ているが、それよりもずんぐりしていて丸く、灰色がかった羽をしていた。


「この鳥はドドっていうのです。毎朝卵を産むので回収するのですよ。あと、ご飯をあげるのを忘れちゃダメなのです!」


 ヨウコはそういうと麻袋を抱え餌箱に入れていく。その餌にドドと呼ばれる鳥がわらわらと群がるように集まり餌を食べ始める。

 ドドが餌に群がっている間に、ヨウコは卵を手際よく回収していく。全部で6個の卵が回収できた。

 なるほど、見た目は普通の鶏の卵と変わりないみたいだ。

 昨日の夜、オウカに朝もだし巻き卵を作れとせがまれ、無理だと思ったが、これが今日の朝食になるわけだ。


 さてと、朝食の準備だ、昨日のカタオ節はまだ残っている。朝食分には足りそうだな。

 まず出汁を取る前にやっておくことがある。それは……。


「エイタさん、昨日言っていた通り洗ったお米を水に浸けておきました」

「ありがとう、いい感じだ」


 俺は昨日のうちに米を量って洗って水に浸けておいた。

 分量はちょうどいい感じの木製の升を見つけたので、それを目安にした。

 水の量は米の重さの1.2倍、しかし、計量カップなんてものはこの世界に無い。なので……。


「水の分量はお米を平らにして手首位まで」

「え!? そんなに少ないと焦げてしまうのです」

「大丈夫だって」


 俺は鍋に火をかける、最初は沸騰するまで中火、沸騰し始めたら……。


「蓋をして、ぎりぎりの弱火にする」


 俺はかまどのレバーを調整し火を鍋から遠ざける。

 このまま10分ほど。目覚ましに使ったゼンマイ時計がここで役に立つ。


「今までお水をいっぱい入れて、ずっとかき混ぜていたのです」


 なるほど、それが昨日食ったあのお粥だったって訳ね。

 安心しな、今日の朝から、炊きたての白米を食わせてやる。

 さて、ご飯の準備はできた。後はみそ汁とおかずだ。

 俺はカタオ節で出汁を取る。本当は昆布出汁も使いたいけどな、昨日行った店に乾燥昆布おいてあるかな。

 あ、煮干しがあったか、あれもいいけどやっぱ王道はカツオ、いやカタオ節でしょ。

 取った出汁を二つに分け、一つはだし巻き卵用で、もう一つは……。


「これに味噌を入れてみそ汁にする」

「昨日卵に入れていたお水、出汁なのですね」

「ああ、だがこの出汁自体には味はないんだ」

「どういうことなのです?」


 俺は小皿に出汁を少し取ると、それをヨウコに味見させた。

 

「……あれ? 味が全くしないのです。でも、なんというか……」


 そう、味はしないけど何かを感じる、それが出汁というもの、そしてそれが旨味である。

 

「それじゃあ、これに少し塩を入れてみよう」

「す、すごく美味しくなったのです」


 旨味は単体では効果を発揮しない、他の味覚と合わさって初めてその効果を発揮する。

 昨日飲んだみそ汁は出汁の味が全くしないし、味噌の風味も抜けていた。

 まず、鍋で出汁を沸かしてみそ汁の具を入れる。冷蔵庫の中に玉ねぎがあったし、これにしよう。野菜を入れることによって、野菜からの旨味もプラスされる。

 切った玉ねぎを入れ、ひと煮立ちさせて火を止める。

 ちなみに火を止めるのは米味噌や麦味噌の場合のみだ。豆味噌は煮立たせるほど美味くなると言われている。


「あ、そうだ、昨日漬けておいたきゅうりを出してくれ」

「これなのですね」


 きゅうりも昨日の段階で仕込んでおいた。やはり料理は下準備が大切だな。

 厚さ5mm程に斜めに切ったきゅうりに塩と、昨日使った鰹節のガラを混ぜて一晩漬けただけだ。

 

「試しに一つ食ってみな」


 ポリッ

 歯切れのいい音とともにヨウコは目を見開いた

 

「これも美味しいのです!」


 塩の効果で余計な水分が抜けて、旨味を凝縮させる。原理は魚の干物と同じだ。

 その時、時計の鐘が鳴った。鍋の火を消して、このまま10分ほど放置させる。炊飯の蒸らしの時間だ。


「よし、だし巻き卵を作っていくぞ、最初は俺が手本を見せるから、次は自分でやってみてくれ」

「わ、分かったのです」



 ***



 オウカの屋敷の天井裏で寝ているカナメは、嗅ぎなれない匂いで目を覚ました。

 いつもなら、ヨウコが呼びに来るぎりぎりまで寝ているのに……。

 嗅ぎなれない匂いの正体を確かめようと天井裏から覗き込む。

 その匂いは一段と強くなり、ぐうっと彼女のお腹を鳴らせた。

 カナメは天井裏から降り立つと、いそいそと居間へと向かっていった。


 自室で大きな鏡を前に自身の長い髪を梳かしているオウカ。

 酒蔵の見回りは毎日の日課であり、大切な酒がダメになっていないか、次に店に出す酒は何にしようか、そんなことを考えながら、ちょっと味見したりもしている。

 今日は思ったよりも早く終わってしまったので、髪を梳かしながら、残った時間は行商で買った本でも読もうかと思っていた所だ。


「ん? 何じゃこの匂いは」


 嗅ぎなれない匂い、しかし、嗅いでいると猛烈に腹が減ってくる胃袋を刺激する匂い。


「なんじゃ、楽しみじゃのう」


 本を読むのを諦め、早めに居間へと向かうことにした。


「おお、丁度良かった、二人を今呼ぼうと思っていた所だ」


 今日の朝ごはんはこちら

 ご飯 玉ねぎの味噌汁 だし巻き卵 きゅうりと鰹節の浅漬け

 

「いただきます」

 

 さあ食うぞ、俺も手を合わせ朝食をいただくことにする。


「なんだか物凄く腹が減る匂いじゃのう」


 バクバクモグモグ

 カナメは無言で食べているが、美味いのだろう、目が爛々と輝いている。

 特に気に入ったのが浅漬けだろうか、あっという間に食べてしまった。


「な、何じゃ、これは、米なのか!?」


 オウカはホカホカのご飯を見て唖然としている。

 なるほど、昨日食べたのは炊き粥のようなものだからな。普段もあれを食っていたのかもしれない。

 だし巻き卵はすぐになくなってしまったが、白米だけでも2回はおかわりしていた。いや、朝からどれだけ食うんだよ。


登場キャラ紹介

オウカ 苗字(家名):シュテンジ 名前:オウカ

種族:鬼(酒呑童子)

職業:酒造

性格はわがままだが、弱き者を見捨てないタイプ。

この世界の鬼族の女性は皆、自分の髪に誇りを持っており、長く綺麗な髪ほど良き女性とされている。もちろんオウカもその一人

鬼なのでも大酒飲み

好きな食べ物はだし巻き卵

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