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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
東の国編

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酒呑童子はだし巻き卵で退治します

 さて、そろそろ夕食の時間だ。

 だが、問題が1つある。


 ――この世界の調理器具、使い方が分からん。


 なにせ、現代の調理器具に慣れてしまった故、異世界の調理器具というものは全く想像できない。

 ……そう思っていたのだが。


「なるほど、この横にある取っ手を上下させて火の調整を……」

「はい、そうなのです、それでこっちが……」


 あれ?


 普通に分かりやすい。


 火は薪と炭で管理し、後ろの煙突から排気。

 いわば“古風な竈”だが、構造はかなり理にかなっている。


 そして――


「この赤い妖石を、この棒で叩くと火が出るのです」

「……便利だな、これ」


 妖石。


 要するに、属性エネルギーを蓄えた魔石のようなものらしい。


 叩けば火が出る

 ただし単体では出力が弱く、着火補助用。


 ちなみに水や風、氷などもある。


 なるほど、理屈は分からんが便利すぎる。


 冷蔵庫もこの妖石式で動くらしい。

 もはや魔法と文明のハイブリッドだ。


「よし、そろそろ飯の時間じゃ。どっちから先に作るのか決めたかの?」

「私が先に作るのです!」


 ヨウコが早速料理に取り掛かった。


 平たい鉄鍋を火にかけ、少々の脂を垂らす。

 油ではなく、脂なのは、ヨウコが肉屋から貰った獣脂を熱して作ったものらしい。

 脂があったまってきたところで、卵にヒビを入れ、鉄鍋の上で割り、そのまま焼き始める。


 ジュウゥゥッ――。


 なるほど、目玉焼きか。


 俺は自分の準備を進めながら、ヨウコの手際を観察する。


「…おぬし、それは、干物屋のカビの塊じゃな。ま、まさかそれを食うつもりじゃないだろうな!?」

「ん? まあ、ある意味でそうだけど?」


 安心しろ、そのまま食うんじゃなくて削って使うだけだから。

 俺の手元を怪訝そうな顔つきで見ているオウカを尻目に、俺は短刀でカビの塊を薄く削っていく。


 ヨウコは器用にヘラを差し込み、卵をひっくり返した。


 ターンオーバー。


 半熟気味のいい焼き加減だ。

 塩を振って、完成と。


「出来ましたのです!」


 オウカの前にさらに載せられた目玉焼きの両面焼き、ターンオーバーが出された。


「はい、カナメちゃんのもです!」


 いつの間にかオウカの横に座っているカナメが低いテンションで喜んでいる。


「ふむ、美味いのう、さすがはヨウコじゃな」

「うまうま」


 オウカもカナメも満足そうにターンオーバーを食べている。あ、ちょっと半熟っぽい感じがいい焼き加減だよね。

 美味しそうに食べている2人の姿を見たヨウコは自信満々に俺を指さした。


「さあ、今度はあなたの番なのです、エイタさん!」


 俺はオウカたちと同じ居間に座って待機していた。


 背伸びをして肩を回し、体をほぐす。


 料理をするときに大切なことは“楽しむこと”。


 楽しいという感情はそのまま味に反映するって親父が言っていたっけ。


 俺はそれを忘れずに今日まで料理をしてきた。


「よし、やるか」


 ……さて、それじゃあ、妖怪退治と行きますか!


 ――ご飯でだけどな!


 俺はカビの塊の削り節を沸騰したお湯に入れ、すぐに鍋を火から離した。

 とりあえず、体感で1~2分ほど待ってから、ざるに布を敷いてこし始める 。


 まさか、異世界で鰹節に出会えるとは思わなかったぜ。

 まあ、名前はカタオ節らしいけど。


 しかもこれ鰹節の中でもカビのついているものは、枯節と呼ばれるもので、上品な香りとまろやかな深い味わいの出汁が取れるのが特徴だ。


「何をしておるのじゃ!? 早く卵の料理を作らぬか!」

「まあ、待てって、焦ったらいいもんは食えないぜ」


 濾した出汁を今度は冷やす。

 少量であれば、冷えた水の中に鍋ごと入れ、かき混ぜればあっという間に冷える。


 器に溶いた卵に冷やした出汁を2:1の割合で混ぜ合わせる。


 お、調味料もそこそこそろっているぞ。

 砂糖、塩、酢、醤油、味噌。

 すごいな、さしすせそ全部そろってんじゃん。フル装備かよこの世界。


 今回は塩で味付け、砂糖は控えめに……っと。


「なかなかいい形のフライパンがあって助かったな…」


 真四角とはいかないが、縦長の取っ手が付いた四角い小さな鉄鍋を火にかける。


 竹の棒を見つけたので菜箸代わりに、脂の入れた器に布の切れ端を入れ準備完了。


 箸で布を掴んで脂を塗り、そこに出汁の入った卵を少し流し込む。

 

 少し焼けたらパタパタと手前に折り込んで 重ねていく。


 重ねた卵の下にまた卵を流し込み、手前に織り込む。これを数回繰り返していく。


「よし、完成だ」


 綺麗な黄金色に焼き上がったそれを切り分け、皿へ盛る。


「お待ちどう、だし巻き卵だ」

「な、何じゃこれは!?」


 オウカは口をあんぐりとあけ、だし巻き卵を凝視している。


 あ~、涎を垂らすな、美人が台無しになるぞ。


 フォークのようなものでブスリと刺して、口に運ぶ。

 オウカは口に入れた瞬間に目を見開いた。


「うまひひょほれ!?」


 何言ってるか分からないけど、多分『うまいぞこれ』って言っているんだろうな。

 隣にいるカナメも一口食べた途端、無言でバクバクと食べだした。


「おかわりじゃ!!」


 いやねえよ! いや、作ればあるけど…。


「おかわりじゃ、さっさと作れ! 今すぐにじゃ!」

「お、おう、分かった…」


 そこから先は、完全に戦場だった。


 焼く。

 食われる。


 焼く。

 食われる。


 出汁が切れれば再びカタオ節を削り、

 卵がなくなるまで延々とだし巻きを量産する羽目になった。


 そして――


「ふう、妾は満足じゃ」

「…お腹いっぱい」


 ようやく終わったか、まったくどれだけ食ったんだか…。

 さて、お腹がいっぱいになって満足しているときこそが勝機


「で、この勝負の行方はどうなんだ?」

「む、そうじゃったな。よし、おぬしを料理番として改めて雇うぞ、給料も上げてやろうではないか」


 よし、何とか取り入ることができたようだ。これで少しは扱いがマシにはなりそうだ。ほっとしていると、俺の横にいるヨウコが振るえる声で口を開いた。


「あ、あの……オウカ様……私は……」


 やばい。


 負けた側の空気だ。


 ……俺に挑んできたのはヨウコなのだが、なんだかものすごく申し訳ないことをしたような気がする。


 まあ、ヨウコもオウカ達と一緒にだし巻き卵食っていたけどな……。

 たしか、従者って住み込みで働きに来ているんだよな。

 見た感じオウカよりも若いと思う。妖怪だから年齢は詳しくは分からないが…。


 ああ、ヤバい、泣きそうな顔になっているよ。


 このままじゃ普通に曇るやつだ。


 ヨウコはオウカのことを慕っているようだし、何かいい方法は……。


 ……仕方ない。


「あ~、仕事の件だけどさ、料理番じゃなくて、料理指導者として雇ってくれないか?」

「料理指導者? なんじゃそれは?」

「俺は今日作った料理意外にもいろんな料理を知っている。でもさ、そういうのって独り占めするもんじゃないと思うんだよ。同じものを作っても、作る人によって味が変わる、それが料理ってもんだと思うんだ」


 俺が提案したのは料理番ではなく料理指導者、いわば料理番の上司的立場だ。


「だからさ、俺に他の料理番、まずはヨウコを指導させてくれないか? オウカだって食べるんだったら美味いものの方がいいだろ?」


 さっきまで泣きそうだったヨウコの顔がぱあっと明るくなった。


「オ、オウカ様、私、頑張るのです!」

「ふむ、そういうことならよいぞ。よし、エイタ、お前を料理指導者として雇う。ヨウコと共に美味いものを食わせるのじゃ!」


 こうして俺は――


 異世界で“妖怪専属の料理人兼指導者”になった。

 


 ――とりあえず、俺、飯食っていいかな?

だし巻き卵レシピ(1本分)

材料(2〜3人分)

卵:3個

出汁:60〜90ml(卵の約1〜1.5倍弱くらいが安定)

砂糖:小さじ1(甘めが嫌なら小さじ1/2でもOK)

塩:ひとつまみ

醤油:小さじ1/2(香り付け程度、入れなくても可)

油:適量(焼く用)



登場キャラ紹介

エイタ 苗字:葉山 名前:栄太

種族:人間

何処にでもいそうな普通の青年

小さい頃に母を亡くしており、父と母親代わりの祖母に育てられた。

主に祖母の影響で異常なまでの料理知識を持っている。

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