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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
城下町妖怪相撲編

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酒呑童子の親父さんは塩親子丼で退治します

「ん? なんだあれは」


 屋敷の前に1台の大きな馬車が止まった。運転席には腕が4本生えた巨体の男。

 よく見ると顔も2面あるように見える。あれは、現実世界でも一時期有名になった妖怪、両面宿儺ではないのか?

 運転席を降りた男はそのまま馬車の扉を開ける。

 中から艶やかな長い黒髪を持つ女性が降りてきた。なんだろう、オウカによく似ている。さらに奥から2メートル近い大男がゆっくりと降りてきた。

 額に反り返った2本の角、広い肩幅に丸太のような腕。一目見て分かった。あれがオウカの親父さんだな。


「はわわわわ。ハクオウ様にレイカ様。いらしていたのですね」


 近くにいたヨウコが慌てて屋敷の中へ案内する。

 あの鬼がオウカの親父さん、名前はハクオウだったか。

「ヨウコか、久しいな。こやつは誰だ?」


 俺はハクオウに睨みつけられる。そりゃあ、自分の娘の屋敷にこんな野郎が一匹紛れ込んでいたらこんな顔にもなるだろう。

 俺は頭を下げ礼儀正しく自己紹介する。


「お、俺の名前はエイタ、家名はハヤマと言います。この屋敷で料理番やらせてもらっています」

「ほう、貴様がオウカが手紙で言っていた料理番か」


 俺は目の前に立つ大鬼を見上げた。デカい。とにかくデカい。2メートルはあり、まさに昔話に出てくるような鬼が目の前にいた。


「あなた、怖がらせんじゃないの。ただでさえ強面なんだから」

「いででででで」


 突如、隣にいた女性が大鬼の耳を引っ張った。彼女も角が生えており、オウカと同じような濡れ烏のような長い黒髪をしていた。


「おお、父殿、母殿、久しぶりではないか」


 屋敷の奥からオウカが嬉しそうに近づいてくる。

 それを見た大鬼のハクオウさんはぱあっと笑顔になった。


「オウカ、久々じゃのう。今日はたんまりと酒を持ってきたぞ。それと、スクナヒコ。あれを渡してやれ」

「はい。こちら、手土産でございます」


 そう言って両面宿儺のスクナヒコさんが乾いた竹の皮に包まれたものをヨウコに渡した。


「わわ、これはギャウルのお肉なのです」

「おお、さすが父殿じゃ。こいつを肴に早速飲むぞ」

「いや、オウカ、そろそろ昼食になるんだが」


 昼から酒盛りをしようとしている鬼親子を俺は昼食という言葉で遮った。


「なぬ、そうなのか。父殿、まずは飯じゃ、飯にしよう」

「ぬう、貴様、親子の酒盛りを邪魔するつもりか!?」


 ハクオウさんが俺の目の前に立ちふさがった。デカくて怖い。さすが鬼だ。


 しかし、それを遮るようにオウカが口を開く。


「ダメじゃぞ、父殿。昼食は大切なんじゃ。こやつの作る飯は絶品なんじゃ。食べないわけにはいかん」

「ぬううう、貴様、オウカをそそのかしおったな」

「あなた、少しくらい話を聞きなさい」

「いででででで」


 再び耳を引っ張られるハクオウさん。なんだろう、どの世界のどの家庭でも奥さんの言うことは絶対なのか。

 耳を引っ張られたハクオウさんはその場にしょぼんとしている。それを無視してオウカの母親、レイカはため息をついて俺を見てくる。


「ごめんなさいね。うちの旦那、娘のこととなると目の色変えちゃうからさ」

「まったく、父殿は困ったもんじゃのう」

「ところで、オウカの話によると、あなたの作る料理は絶品とのことだけど」


 レイカは興味深そうに俺を見つめる。そして、彼女たちに付いてきた運転手の両面宿儺さんも興味深そうに頷いている。


「私も興味がありますぞ。ハクオウ様の食を預かる料理番として非常に興味があります」

「でも、実際にはそこまで言われる料理を食べてみたいというのが本音です」

「あら、スクナヒコもやっぱり興味があるのね」


 両面宿儺さんことスクナヒコさんの顔が交互に喋る。なんかややこしいなこの妖怪。

 しかし、そこまで言われては腕によりをかけたい所だが。


「だったら、そうじゃな。我は肉料理を所望するぞ」


 先ほどまでしょぼんとしていたハクオウさんが復活して俺に指示を出している。


「もう、何勝手に指示してるのよ。私は卵が食べたいと思ったのに」

「ええと、卵と肉の料理か」

「エイタ。妾は久々に親子丼が食いたいぞ」


 確かに、それなら肉もあるし卵もある。おまけにオウカの所望する料理だ。3人分の希望をいっぺんに叶えられる。

 乾物屋で買ったスルメイカはあとで使うとするか。


 よし、それじゃあ鬼退治といきますか。


 料理でだけどな……!


 付け合わせは、切り干し大根があったからこいつで煮物を作るか。

 切り干し大根はたっぷりの水で15分くらい浸けておく。軽く絞り、食べやすい大きさに切って、戻し汁は取っておく。

 にんじんは千切りに切っておこう。

 鍋に油をひいてにんじんから先に炒める。次に切り干し大根を加え軽く炒める。

 戻し汁と砂糖、醤油、酒、みりんもどき、カタオ節を少し入れ、蓋をして中火で15分ほど煮る。

 汁気が無くなったら10分ほど置いて味をなじませれば完成だ。


 俺が煮物を作っている間にヨウコがご飯とみそ汁を準備しておいてくれた。

 今日の味噌汁の具材はわかめとネギだ。


 それと、今日は親子丼だけど、コショウがあるし塩味の親子丼を作るか。

 まず、平鍋に油を垂らし、一口大に切ったドド肉をいれ中火で炒める。

 色が変わったところで玉ねぎを入れ、しんなりしてきたら、塩、酒、みりんもどき、水を入れて中火で煮る。

 ドド肉に火が通り汁気が半量ほどになったら溶き卵を2/3程入れて中火でさらに煮る。

 卵が半熟状になったら、残りの溶き卵を入れ10秒ほどで火からおろす。

 塩は醤油味よりも塩加減が際立ちやすいので、最初はやや控えめにして、最後に調整する方がいい。

 器にご飯を盛ってその上に乗せたら完成だ。


「よし、完成だ」


 今日は俺たちの他に、オウカの両親と従者のスクナヒコさんの分も作ったのでいつも使っているちゃぶ台に乗り切らない。

 ヨウコはどこからかちゃぶ台をもう一台持ってきて並べた。

 カナメも天井裏から降りてきて全員が揃ったようだ。



本日の昼食

塩親子丼、わかめとねぎのみそ汁、切り干し大根の煮物、きゅうりの古漬け。


「「「「いただきます」」」」


 俺たちが手を合わせていただきますを言うと、それを見た三人がキョトンとした顔をしている。


「父殿、これはいただきますというてな、料理は元々は全て生き物だから、その命をいただくことに感謝するということじゃ」

「これはエイタさんに教えてもらったことなのです」

「へえ、食事に感謝するってわけね」


 そう言うとレイカは俺たちと同じように手を合わせる。それを見ていたスクナヒコさんも同じように4本の手を合わせる。


「「いただきます」」

「父殿も『いただきます』を言わんと食ってはいかんぞ」

「む、い、いただきます」


 ハクオウさんも手を合わせいただきますを言ってくれた。

 俺はさっそく親子丼を口にする。今回は塩味なので塩味の調整が難しいが。


「お、味はちょうど良いようだな」

「コショウが効いててこいつは美味いのう」

「醤油味も美味しいけど、塩味の親子丼も美味しいのです」

「……こっちも好き。美味い」


 今日の親子丼は多めに作ってある。恐らくこの後おかわりがくるであろう。


「はふはふ、ほふほふ!」

「んん~。美味しい!」

「こいつはたまらんな!」


 3人とも夢中になって匙を動かしている。予想どおり、一番最初に器を空にしたのはハクオウさんだった。


「あの、おかわり、いりますか?」

「う、うむ、もらおうか」

「エイタ。妾もじゃ」


 俺は平鍋を火にかけ、新しい親子丼を作り始める。隣ではヨウコも慣れた手つきで調理を進めていた。

 出来上がった親子丼をちゃぶ台へ運ぶと、ハクオウさんは礼を言う暇も惜しいと言わんばかりに、再び勢いよく食べ始めた。


「む、この細く切った物は大根か。こいつもなかなか美味いぞ」

「ああ、乾物屋に売ってたから買ってみたんだ」


 切り干し大根は煮物以外にも使えるからな。色々試してみるか。

 塩味の親子丼はなかなか調整が難しかったが、気に入ってもらえたようだな。


「そうじゃ、食べ終わった後もちゃんと言う言葉があるんじゃぞ」

「なに? そ、そうなのか」

「食事をいただいたことへの感謝を表す言葉じゃ」

「そうね。だったらみんなで合わせて言うことにしましょう」


 オウカがハクオウさんにごちそうさまについて教えている。そして、レイカの提案で全員で合わせて言うこととなった。それでは手を合わせまして。



「「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」」

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