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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
東の国間話

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冷たいお菓子と炊き込みご飯

 さて、夕食まで少し時間があるし、明日はおやつでも作ろうかな。

 といっても明日のおやつは今から仕込むのだがな。


「明日食べるのに今日仕込みをするおやつなのですか?」

「ああ、ちょうど冷凍庫があることだし、凍らせる冷たいお菓子でも作ろうかと思ってな」


 調理台の上に並べられた材料。

 ギャウルの乳、生クリーム、砂糖、卵黄。この4つを使って作る料理。


「その名もアイスクリームだ。こいつは冷凍庫がないと作れない代物さ」

「楽しみなのです」


 まずボウルに卵黄と砂糖を入れ、白っぽくなるまでよく混ぜる。

 次に沸騰直前まで温めたギャウルの乳を、卵黄を混ぜたボウルに少しずつ加えてよく混ぜる。

 いったん鍋に移したら、弱火でとろみがつくまで加熱し、火を止めてある程度冷ます。

 最後に生クリームを混ぜて容器に移したら、凍らせるだけで完成だ


「とても早いのです!」

「ああ、分量さえ覚えてしまえば簡単に作れるからな」


 しかし、これからお菓子などを作る時に、分量を正確に量らないといけない時が来るかもしれない。

 現実世界にいた時に俺の友人でパティシエをやっていたやつがいて、そいつ曰く。

 『お菓子を作る時は分量を正確に量れ』って言っていたっけな。

 料理の場合はある程度融通は効くかもしれないけど、お菓子作りは分量の違いで仕上がりに大きな差が出てしまうのである。

 その為にも天秤の購入は検討せざるを得ない。


「天秤の購入はオウカに要相談だな」

「天秤はすごく高いのです」


 西の国でガロも言っていたな。元は薬の分量を量るためのものだそうだ。

 まあ、まだ天秤が必要な料理を作る機会はないからな。気長に待つとしよう。


 俺たちはアイスクリームを入れた容器をもって氷屋へと向かった。

 氷屋のユキメさんが容器を抱えた俺を見て怪訝そうな顔をする。


「ねえ、アンタ。それ一体何持ってきてんの?」

「え? これはアイスクリームです。凍らせて作るお菓子なんですけど」

「まあ、冷凍庫の中でそんなもんひっくり返さないでよ」


 そう言って冷凍庫の扉を開けてくれる。

 相変わらず凍えるほどの寒さだ。俺は自分のスペースにアイスクリームを入れた容器を置き、蓋をする。あとは固まるのを待つだけだ。


「ユキメさんも完成したら食べてみますか? 美味しいですよ」

「へえ、そこまで言うんなら貰おうかな~」


 どこか半信半疑といった様子で返される。ふふふ、今に見ていろ。

 あれを一口でも食べれば、きっと驚くはずだ。

 完成を楽しみにしながら、俺は屋敷へと戻ることにした。


 屋敷へ戻る途中にオボロさんの馬車を見かけたのだが、どうやら、今日城下町へ戻るようだ。帰る前に軽く挨拶だけしておこう。


「あ、オボロさん、そろそろ城下町へ戻るんですか」

「うん、まあね。今回持ってきた品は粗方売れたし、次回持って来る品も決めないとだしさ」


 確かに、来るときはあれだけ馬車の前に並んでいた品が少なくなっている。何が売れ、何が売れないかを見極めるのも行商の腕の見せ所といったところだろう。


「まあ、次回はアンタが興味持ちそうな食材やらを持ってきてみるさ」

「ええ、期待して待っていますよ。次回はいつ来るんですか?」

「そうだねぇ。いつもの感覚だと、2週間後ってところだけど。もしかすると早まるかもしれないよ?」


 それは珍しい食材が手に入ったら真っ先に持ってきてくれるって言っているようなものだ。

 オボロさんは荷物をまとめると馬車の運転席に乗り込んだ。


「次来た時はさ、昨日食べたあんぱんってやつみたいに驚くような料理食べさせてよね」

「ははは、もちろんですよ。それではお気をつけて」


 オボロさんは馬車を走らせると、城下町へと戻っていった。

 さて、俺も屋敷に戻って夕食の準備をしないといけないな。



***


 屋敷に戻った俺は、早速夕食の準備に取り掛かった


「今日作る料理は炊き込みご飯だ」

「山菜やたけのこの時に作ったお料理なのですね」


 しかし、今日は山菜もたけのこも用意していない。今日使うのはこいつだ。


「今日はボアッカのバラ肉を使う」


 まず、ボアッカのバラ肉を1cm幅に切る。

 にんじんは細切り、ごぼうはささがきにして水にさらしておく。

 干し椎茸を水で戻して千切りに。もちろん戻した水も使うぞ。オウコンこと生姜も千切りにする。

 釜に研いで30分ほど浸水させておいた米を入れる。

 醤油、みりんもどき、酒、カタオ節で取った出汁も加えて残りは水で調整したら、後は火にかけるだけだ。


 その間にメインのおかずを作ろう。


「今日のメインのおかずはこいつを使うか」

「カナメちゃんの好きなナスなのです」


 手鍋に味噌、砂糖、みりんもどき、酒を入れ、弱火で練るように混ぜ、つやが出て少しもったりとしてきたら火を止める。これで田楽味噌の完成だ。


 メインのナスはヘタを切り縦半分に切る。

 皮に切り込みを数本入れ、身の部分には格子状に浅く切れ目を入れる。

 平鍋に油を入れ熱したら、ナスを皮目から焼く。

 焼き色が付いたら裏返し、蓋をして弱火で蒸し焼きにする。


 ナスが柔らかくなったら皿に盛り、田楽味噌をたっぷり塗って完成だ。


「こいつがナス田楽だ」

「美味しそうなのです!」


 本日の夕食

 ボアッカバラ肉の炊き込みご飯、玉ねぎと卵の白身のみそ汁、ナス田楽、たくあん。



「「「「いただきます」」」」



「……ナスだ!」

「ほお、今日は炊き込みご飯じゃな。」

「ああ、ボアッカのバラ肉を使った炊き込みご飯だぞ」


 カナメは真っ先にナス田楽へ箸を伸ばす。少し味を濃いめにしてあるので、ご飯が欲しくなる味付けだ。


「今日の漬物はタマさんが作ったたくあんなのですね」

「ああ。たくさん漬けたらしいから、交換してもらったんだ」

「む? 今日の漬物は何か違うと思ったが、これはタマが作った漬物なのか」


 オウカはそう言ってポリポリとたくあんをかじる。気に入ったのか箸が止まらない。


「これは美味いのう。この歯応えがたまらんのじゃ」

「本格的なものを作るのに2か月くらいかかるんだけど、今の時期は腐る可能性があるからな」

「なんじゃと!? そんなに時間がかかるのか!」


 今日の漬物会でいろんな漬物を交換したからな。明日は古漬けでも出してやるか。

 他にも試したい漬物はいろいろあるが──。


「そうだ! なあ、オウカ。梅ってこの辺に生えたりとかしてないか?」

「梅じゃと。もちろん生えておるがこの辺はあまり生えておらんのう」


 あまり生えてないのか。でも知っているってことはもちろん使っているってことだよな。


「梅は城下の近くにたくさん生えておるのう。妾はいつもそこから貰っておる」

「もしかして梅酒を作ったりしているのか?」


 俺のその反応にオウカは自信満々に答える。


「もちろんじゃ、時期になると妾も父殿も作るからのう」

「父殿ってお前の親父さんも酒屋なのか」

「うむ、城下で酒屋をやっておるぞ」


 酒呑童子の親父か。一体どんな大鬼なのだろうか。

 しかし、梅があるとなると梅酒もいいがやはりあれを作るのがいいだろう。


「梅が収穫できるようになったら梅酒だけでなく梅干も作りたいな」

「梅干じゃと? 一体何なのじゃ梅干とは」

「梅干って言うのはある程度熟した梅に塩を振って干した漬物だ。めちゃくちゃ酸っぱいけどご飯との相性は抜群だぞ」


 梅が取れる時期になったら是非とも作らないとな。保存もきくし、大量に仕込めるからな。


「梅が取れる時期になったら是非とも俺を連れて行ってくれ」

「もちろんじゃ、妾も梅干というものを食ってみたいからのう」


 そう言うと、オウカは何かを思い出したように席を立った。

 しばらくして戻ってくると、小さな瓶を抱えていた。


「ほれ、こいつは去年漬けた梅酒じゃ。飲んでみるか?」

「お、是非とも飲ませてくれ」


 俺はオウカの漬けた梅酒を一杯もらう。

 米焼酎で漬けられた梅酒は、香りと甘みが絶妙に溶け合い、喉の奥へとすっと落ちていく。

 これは危ない。気づけば飲みすぎてしまうやつだ。


「くぅううう。美味え!」

「そうじゃろ! 普通の酒もいいがたまに飲みたくなるのがこの梅酒なんじゃ」


 オウカも盃を傾け、満足げに味わっている。

 美味い飯を食うと美味い酒が欲しくなるのは本当だな。



「「「「ごちそうさまでした」」」」

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