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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
東の国間話

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サクラノ村の漬物会

 包丁を炊事場の棚に置き、代わりに糠漬けの瓶を取り出した。

 ちなみに、糠漬けの瓶は二つ。一つは俺が作ったやつで、もう一つはヨウコが作ったやつだ。今回持って行くのは俺の方だ。


 俺は自分の瓶からいくつか糠漬けを取り出し、容器に移す。


「何をしているのですか?」


 声の方へ振り向くと、そこにはヨウコの姿があった。


「ああ、これから集会場で漬物会をするんだ」

「漬物会なのです?」


 漬物会と聞いて、ヨウコも興味を持ったようだ。彼女は冷蔵庫から瓶詰めの漬物を取り出した。あれは西の国でガロが作ったピクルスだろうか。

 ならば俺は糠漬けの他にも昆布漬けなどの漬物も持っていくことにしよう。準備ができたので俺とヨウコは集会場に向かうことにした。



***




「あら、エイタさんいらっしゃい。漬物会へようこそ」


 すでにヤマネさんも集会場に来ており、俺を案内してくれた。中には複数人の奥様達が集まっており、それぞれが持ち寄った漬物を交換したり味見をしたりしている。


「あ、エイタさんだにゃ。ようこそだにゃ」


 猫耳付けた美少女ことネコタさんの奥さん、ちなみに名前はタマさんと言うらしい。

 彼女の持っている容器には一本漬けが入っているのだが、それは見覚えのある漬物だった。


「こ、こいつはたくあんじゃないですか!?」

「うにゃ? そういう名前なのかにゃ?」


 たくあんはたくあんでもこいつは本格派ではなく浅漬風のたくあんだ。もちろんこれだけでも美味い。俺は試しにいただくことにする。


「ん、こいつは美味いな」


 ポリポリ、と小気味いい音が口の中に響く。噛むたびに広がる塩気と旨味。――これ、ダメなやつだ。食べ始めたら最後、止まらなくなるやつだ。


「うちでは野菜の干物も作っているにゃ。試しに干し大根で漬けてみたら大成功したのにゃ」


 タマさんは得意げに胸を張る。

 干した大根を漬ける――それはつまり、たくあんの基本形だ。知らず知らずのうちに最適解へたどり着いているあたり、この人――、いや、この猫耳奥様は侮れない。


「恐らく、これは漬けてから2週間くらいだと思いますが、これを1ヵ月から2ヵ月漬けるとさらに旨味が増しますよ」

「うにゃ!? そうなのかにゃ」

「ええ。ただ、今の時期になると暖かくなるので発酵が早くなりがちです。塩を多めにするか冷蔵庫で漬けるといいかもしれませんね」

「ふむむ、勉強になるにゃ」


 タマさんは俺の意見を聞いて持ってきていたノートにメモを取っている。

 俺たちのやり取りを聞いて、他の奥様達も漬物を持って来る。


「次は私のを食べてみて、このきゅうりの漬物なんだけど」

「ちょ、ちょっとミドリさん。それ痛んでいるんじゃない!?」


 ミドリさんと呼ばれた女性は恐らくカワマタさんの奥さんだろう。手のひらに河童のような水かきがついている。

 しかし、肌の色は肌色で口の周りも人間と変わらない。


 彼女の持っているきゅうりは黄色に近い緑色をしており、傍から見たら痛んでいるようにしか見えない。

 しかし、俺はそのきゅうりの漬物の正体を知っている。

 昔、ばあちゃんがよく作っていたきゅうりの古漬けだ。


「おお、こいつはきゅうりの古漬けじゃないですか」

「ふふふ。これは長めに漬けて酸っぱい匂いがしてきた頃が美味しいのよ」


 ミドリさんはまな板できゅうりの古漬けを細かく切り、みんなに配る。どれ、俺もいただくことにしよう。


「お、しっかりと漬かっていて酸味も丁度いい具合だ」

「あら、この酸っぱさが癖になるわね」


 きゅうりの古漬けはその酸味がたまらない。こいつだけでご飯が何杯でもいける漬物だ。


「あ、よろしかったら俺の持ってきたキャベツの昆布漬けも食べてみてください」


 こいつはキャベツに塩、酢、刻み昆布、唐辛子を加えて混ぜた浅漬けだ。こいつもご飯が止まらなくなる漬物だ。


「これは危険ね。食べ始めたら止まらなくなるやつよ」

「うにゃ。止まらないにゃ」

「ちょっと、私のも食べてみてよ~」


 そう言って大きめの壺を持ってきたのは赤鬼の女性。彼女はアカシさんの奥さんで名前はセキナさん。彼女が壺から取り出したのは白菜の漬物なのだが……。


「ちょ、ちょっとセキナ。それ凄くない?」

「それは唐辛子なのです!? すごく真っ赤なのです!?」


 セキナさんが壺から出した白菜には唐辛子がたっぷり付いていた。真っ赤に染まったそれは見ただけで辛いと分かる漬物だ。

 おいおい、マジかよ。今日だけで俺の知っている漬物がどれだけ出てくるんだ?


「すげえ、それキムチですよね」

「私、辛いものが好きでさ。唐揚げも唐辛子たっぷり使ったりするのよね」


 見た目は完全にキムチだが、味はどうなのだろうか。

 キムチとはただ辛くすれば良いという訳ではない。辛みの中に旨味、甘み、塩味等色々な味が絡み合ってこそ本場のキムチと言える。

 現実世界での本場のキムチは作る地域によって味が違うと言われるくらいだ。


「ちょっと食べてみてもいいですか?」

「エイタさん、あれを食べるの!?」

「ちょっとなんでそんな引いてるのよ!?」


 俺は切ってもらったキムチを一切れ口に運ぶ。


「うお、辛い!」


 舌がひりひりするくらい辛い。あるのは塩味と辛みだけだ。実に惜しい。


「あれ? ちょっと辛すぎた?」

「恐らく塩と唐辛子だけですよね。ここに細切りにした大根やにんじんを入れたり、少し砂糖を加えると辛さが丸くなって旨味が増しますよ」

「え、ホントに!? よし、早速やってみよう」


 俺の意見にセキナさんは早速メモを取る。

 俺が食べたのを見て他の奥様達も味見をするが、みんなその辛さに顔をしかめるのだった。


「セキナこれ辛すぎよ」

「でも、確かにこれ、甘みが足されると化けるかもしれないわね」

「刻んだ昆布なんか入れるのもいいんじゃないかしら?」


 みんなセキナさんの作ったキムチにいろんな意見を言い合っている。確かに、こいつが完成すればそのままでも美味いし、ボアッカの肉と炒めて豚キムチならぬボアッカキムチなんかも美味そうだ。


「よし、次は私の番だね。こいつは自信作だよ」


 そう言って前に出てきたのは醤油屋の小豆洗い女将だ。

 ちなみに、名前はトウコさんというらしい。


「私が作ったのは味噌漬けよ。にんじん、大根、ナスを漬けてみたの」


 おお、味噌の漬物か。さすが醤油屋らしい漬物だ。

 切ってもらった漬物を早速食べてみる。糠漬けや浅漬けといった漬物と違い、味噌の風味とコクがご飯を進ませる味付けだ。


「うちの旦那、これを酒の肴にするのが好きでね」

「あ、分かる気がする。これは酒の肴にも合うわよね」


 そう言われると確かに酒の肴になりそうな味付けだ。味噌や醤油って本当に日本酒と合うんだよな。


「次は私のを食べてみるのです」


 ヨウコは持ってきた瓶詰の漬物をみんなに配った。酢漬けだが酢がワインビネガーなので米酢とは違った風味を醸し出している。


「これは西の国の酢で作った漬物なのね」

「あら、私これ好きかもしれない」


 西の国のピクルスも結構好評なようだ。

 その後は持ってきた漬物を食べたり交換したりして楽しい時間は過ぎていった。

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