うどん作り
さて、今日の昼食はうどん作りだ。
材料は小麦粉、塩、水。ボウルに小麦粉を入れ塩を溶かした水を3回くらいに分けて加えながら混ぜる。
最初はボロボロした状態だが、全体に水分が行き渡ったらひとまとめにする。
「後は綺麗な厚手の布にくるんで踏むんだ」
「ふ、踏むのですか!?」
目を丸くするヨウコに頷く。
うどん生地は非常に硬い。手だけで均一に捏ねるのは骨が折れるため、昔から足で踏んでコシを出すのだ。
清潔な布で包んだ生地の上に乗り、体重をかけてぐいぐい踏む。平らになったら折り畳み、再び包んで踏む。
それを何度も繰り返した。
「ある程度踏んだら丸めて20分から30分ほど休ませるんだ。これを3回くらい繰り返す」
「とても大変な作業なのです」
生地を十分に踏み終えたら、そのまま一時間から二時間ほど寝かせる。
「なるほど、これは発酵させるのですね」
「いや、うどんは発酵しないんだ」
「そうなのですか!?」
ヨウコがぱちぱちと瞬きを繰り返した。
パンを作る時には発酵が必要だが、うどんは酵母を使わない。だから基本的に発酵は起こらないのだ。
「じゃあ、どうして休ませるのです?」
「生地のコシと食感を整えるためだな」
「コシと食感なのです?」
「ああ。捏ねたり踏んだりした後に休ませることで、生地全体が落ち着くんだ。茹でた時の弾力も良くなるし、水分も均一に行き渡る」
他にも、練ったことで強くなったグルテンを落ち着かせたり、生地の中の水分を均一に馴染ませたりといった理由がある。
細かい理屈はさておき、しっかり捏ねてしっかり休ませる。それが美味いうどんを作る秘訣というわけだ。
十分に休ませた生地を取り出し、次は切りの作業だ。
打ち粉を振り、生地を2ミリから3ミリほどの厚さまで伸ばす。それを折り畳み、包丁で3ミリほどの幅に切っていく。切り終えたら軽くほぐし、再び打ち粉をまぶしておいた。
「うどんを作るし、どうせなら天ぷらも作るか」
温かいうどんのお供といえば、やはり天ぷらだろう。
今回はドド肉の天ぷら――略してドド天に、ナスの天ぷら。それからかき揚げも用意することにした。衣は小麦粉で作ろう。
かき揚げの具材は玉ねぎ、にんじん、ネギ。どれも定番だが相性は抜群だ。
そして、うどんの具材はわかめとネギ。
シンプルではあるが、打ちたてのうどんを味わうには十分だ。
さて、生地を休ませている間に天ぷらの下準備を進めるとしよう。
「今日はみそ汁は作らなくて大丈夫だ。代わりにうどんのかけつゆを作ってもらう」
「かけつゆなのです? 前に作った天ぷらのつゆみたいなものなのです?」
「まあ、似たようなものだな。めんつゆの割合を変えるだけだからな。ただし今回は水じゃなくて出汁で割る」
出汁は昆布とカタオ節の合わせ出汁だ。そこにめんつゆを加えれば、かけつゆの完成である。
天ぷらはヨウコに任せるつもりだが、かき揚げの作り方はまだ教えてない。それだけは作り方を教えつつ俺が作ることにしよう。
「まず、千切りにした玉ねぎ、にんじん、ネギに打ち粉をして、そこに天ぷらの衣を入れて混ぜるんだ」
「これを揚げるのですか? ちょっと難しそうなのです」
かき揚げは普通の天ぷらよりも崩れやすい。
慣れないうちは、お玉に具材を乗せて、そのまま油へ滑らせる方法が失敗しにくいだろう。
「油に入れたら、最初の一分くらいは触るなよ。形が固まってから裏返すんだ」
「なるほどなのです」
ヨウコは真剣な表情で頷く。
両面がこんがりとしたきつね色になるまで揚げれば完成だ。
「これなら崩れずに揚げられるのです」
「上出来だ。揚がったら容器に入れて油を切っておいてくれ」
その間に、別で用意していた大鍋のお湯がちょうど沸騰してきた。
いよいよ今日の主役、うどんを茹でる番である。
この太さだと茹で時間は10分くらいだろう。硬さを見て茹で時間を調整しよう。
「すごく長いのです。これがうどんという料理なのですか?」
「ああ、うどんは麺類という種類の料理なんだけど。うどんの他にも色々な麺があるぞ」
「でも、どこかで見たような形なのです」
見たことがある?
ということは、この世界にも麺に近い食材が存在するのだろうか。
少し気になったが、今は料理が先だ。
うどんの太さなら茹で時間は10分ほど。途中で硬さを確かめながら調整していけばいい。
さて、今日はこの異世界に来て初めての麺料理だ。今日はこのうどんを味わってもらうとしよう。
「天ぷらを揚げ終わったのです」
ヨウコは天ぷらを揚げ終え、俺のうどんを茹でる様子を見ている。茹で始めて10分で一本すくって硬さを確認してみる。
「少し硬いな。茹で上がったら一度冷やしてぬめりを取るからな。気持ち少し柔らかめの方がいい」
「なるほどなのです」
相変わらずヨウコは作り方を書き込んでいる。西の国で書いた分も合わせればすでに4冊目に突入している。
「よし、そろそろだな」
俺はザルでうどんをすくい、ボウルへ入れて一度冷やしながらぬめりを取る。その後、一度お湯に通して温め直し、器に盛ってかけつゆを入れ具材を乗せて完成。
「よし、完成だ」
ヨウコにオウカを呼んできてもらい、俺は料理を運んだ。
天ぷらは各自で取ってもらうように大皿に盛っておいた。
「カナメー! そろそろ昼食だぞ」
俺が天井に声をかけると、カナメが顔をのぞかせ天井から下りてくる。
やがて、オウカもやってきてちゃぶ台を囲む。
「「「「いただきます」」」」
「む? なんじゃこの汁。中に何か入っておるのう」
「ああ、そいつはうどんっていう料理でさ」
ずぞぞぞぞ――
俺はうどんをずるずると啜る。
うどんのモチモチした食感がたまらない。そして、このうどんに昆布とカタオの出汁が効いた汁がよく合っている。
「こうやって食う料理だ」
「ほう、花の国にあるリュウモウに似ているのう」
「あ、思い出したのです。リュウモウなのです」
「……リュウモウだ」
「え!? この世界に麺料理があるのか!?」
まさか麺料理があるとは驚いた。花の国にある麺料理で、名前はリュウモウっていうのか。
みんな俺と同じように食い始めると驚いた表情をする。
「むむ。これはリュウモウよりも美味いかもしれんぞ」
「リュウモウはもっと違う味をしていたのです」
「……こっちの方が美味い」
そう言ってみんなズルズルとうどんを啜る。リュウモウって一体どんな料理なんだろう。
そんなことを考えていたら、目の前にある大皿の天ぷらがどんどん無くなっていく。
「この天ぷらをうどんの汁の中に沈めると美味いのう」
「……ナスの天ぷら、うまうま」
「このかき揚げが美味しいのです」
「ああ、俺まだ食ってないんだぞ!?」
どうやらこの屋敷では早い者勝ちだ。さっさと食わないと無くなってしまうようだ。
……やはり大皿で盛ったのは間違いだったのか。
まあ、仕方がない。美味い美味いと言って食ってくれるのは料理番としては嬉しいことだしな。
「「「「ごちそうさまでした」」」」




