行商とボルアッカツ
おやつを終えた俺は、あんぱんを持って行商のいる広場へと向かった。
丁度そこにはクダンさんとオボロさんが話しており、先ほどまでできていた妖怪だかりもある程度は解消されていた。
「やあ、いらっしゃい。何か買い忘れでもしたのかい?」
「いえ、実は今日お二人にいいものを持ってきまして」
そう言って俺はクダンさんとオボロさんにアンパンを差し出す。
オボロさんは首を傾げ、クダンさんは興味深そうにアンパンを見つめる。
「エイタさん、これは新しい料理ですか?」
「ええ、これはあんぱんって言います」
「あんぱん? パンってことは西の国の料理ってことかい?」
オボロさんはそう言うとため息をついて手をひらひらさせる。
「あたしは西の国に行った事あるけど。パンはどうにも好きになれないね。硬くてとても食えたもんじゃないよ」
「……あの、エイタさん。これ、パンですよね?」
あんぱんを受け取ったクダンさんは持ったまま固まっている。
強く握りすぎたせいか、少し潰れてしまっている。
「私ももちろんパンは食べたことがあります。ですが、これは……」
クダンさんはあんぱんに顔を近づけ匂いや色を確かめる。そして、手でちぎって見せる。
「な、何でこんなに柔らかいんですか!?」
「は!? や、柔らかいパンだって!?」
クダンさんのその叫びにオボロさんも興味を示したようだ。俺からあんぱんを受け取ると、それをまじまじと見つめ、その柔らかさを確認している。
「ほ、本当だ。ふかふかしてて柔らかい。もしかして、このまま食べられたりするの!?」
「ええ、もちろん食べられますよ」
俺がそう答えるや否や、すぐさまかぶりつく二人。
「ちょ、なにこれ、美味しい!?」
「こ、これは革命的ですぞ。これだけ柔らかいパンを西の国で広めれば――」
「あ、もう、西の国に広めてきました」
その瞬間、クダンさんがポカンとした顔になった。
「え、エイタさん! その柔らかいパンの作り方が書かれた料理本は無いのですか!?」
「えっと、多分ヨウコが持っていると思いますが」
「そうですか、次にお会いした時にお聞きします」
クダンさんは軽く一礼すると、手に持っていたあんぱんを食べ始めた。
オボロさんもあんぱんを食べているが一口食べるたびに幸せそうな顔をしている。
「ヤバい、これ美味しすぎる! アンタ、こんな料理知ってんの?」
「はい、これ以外にもそれなりには知っています」
「なるほど、これはアタシも頑張らないといけないねえ。アンタに関わると色々と儲けられそうだね」
まあ、料理を広めてくれるんなら全然利用してくれて構わないさ。
用事も済んだので、俺は屋敷へ戻ることにした。
「あ、そうだ。オウカに返さないとな」
自室へ戻り、置いてあった麻袋の中身を確認する。
ミルフィスから受け取った報酬だ。そういえば、受け取ってから一度も中を見ていなかった。
麻袋を開けてみると、中には金銭が50枚入っていた。
「3日間料理を教えただけで50枚か……」
正直、多い気もする。
だが、向こうが提示した報酬なのだから遠慮する必要もないだろう。
俺は50枚のうち5枚だけを取り分け、残りを麻袋へ戻した。個人的に買いたいものがあるので、その分だけは手元に残しておく。
そして麻袋を持ち、自室を出てオウカの部屋へ向かった。
「オウカ、いるか?」
「む、なんじゃ?」
オウカは自室で本を読んでいた。そういえば、西の国で買っていたな。
俺はオウカの前に麻袋を差し出すと、オウカは首を傾げながら受け取った。
「なんじゃこれは?」
「なんじゃって、西の国での報酬分だよ。借金返済に当ててくれ」
オウカは少し考えると思い出したように頷いた。
「おお、そうじゃったな。感心じゃ。それでは、こいつは借金返済に当てておくぞ」
こいつ、絶対忘れていたよな。報酬のことも借金のことも。
「中身は数えてあるからごまかすなよ」
「むう、分かっておるわ!」
俺はオウカの部屋を出て夕食の支度をすることにした。
まずは小鉢を作るぞ。
俺は鍋でお湯を沸かして、海のスカイフィッシュこと寒天を溶かしていく。
寒天を溶かした鍋の水を型に流して冷蔵庫で冷やしておく。久々にところてんが食いたくなったし、今日のメインを考えるとさっぱりしたものが必要だからな。
さて、今日作る夕食の献立は決まっている。もちろん、とんかつ……、いやこの場合ボルアッカツというべきか。
「準備するものは西の国で作ったドドカツと同じだ」
「ええと、卵と小麦粉とパン粉なのですね」
ボルアッカもこれでラストだな。豪快に使ってしまおう。
俺はボルアッカのロースを厚めにスライスしていく。今日焼いたパンをヨウコに細かく切ってもらった。
スライスしたボルアッカの肉に小麦粉を付け、溶き卵、パン粉の順で付け、熱した油に入れる。
じゅわわわわわ。
厚めに切ったボルアッカを豪快に揚げていく。泡が少なくなってきて、表面がきつね色になってきたころがちょうどいい。
「そろそろかな」
揚がったボルアッカツをしばらく容器に置いて油をきっておく。
縦にカットをして食べやすい大きさに切ったら、皿に千切りキャベツを盛って、そこに切ったボルアッカツを盛る。
「よし、完成だ」
本日の夕食
ご飯、わかめと豆腐のみそ汁、ボルアッカツ、ところてん、大根の糠漬け。
「「「「いただきます」」」」
「む? こいつはドドではないのう」
「ああ、そいつはボルアッカの肉で作ったカツだ」
「……ボルアッカツ?」
「そのとおり、このソースをかけて食ってみてくれ」
俺は別の器にソースを移しておいた。オウカはソースをボルアッカツにかけて一口かじる。
「んん~! サクサクのボルアッカにこのソースというたれがよく合って美味いのう!」
「このソース、キャベツにかけても美味しいのです!」
「……ご飯に乗せて、食う」
オウカとヨウコは普通に食べている中、カナメはソースカツ丼を作って食っている。
「のう、エイタ。このボルアッカツは丼にしたら美味いんじゃないか?」
「ああ、もちろん美味いぞ。そいつはカツ丼っていう料理でな。一般的には大きく2種類あるんだ」
「なんじゃと!? 2種類あるのか、そいつは楽しみじゃのう」
カツ丼は卵と出汁で煮るカツ丼と、今カナメが食べているソースカツ丼の2種類がある。
前者は親子丼と同じで、卵や出汁がご飯に絡むタイプ。後者はカツの食感を残しつつ、キャベツと共に食べ、ソースが味のメインとなるタイプ。
ちなみに、俺は前者の方が好きだが、どちらもそれぞれの美味しさがある。
「ボルアッカの肉はこれで最後だな」
「なぬ!? 行商でボアッカの肉は買ったんじゃろうな」
「もちろん買ったぞ。こいつはなにかと使い勝手のいい肉だからな。料理のバリエーションも増えるし」
ボアッカも見た感じはボルアッカと変わりないように見えるし、違いは少し獣臭いくらいだろう。現実世界の豚肉と同じ感覚で使えるのが嬉しい所だ。
後は小麦粉、こいつも行商が持ってきてくれる。もっとも、小麦の状態なので一度水車小屋で挽かないといけないが問題ない。
こいつがあれば、パンやお菓子、麺類なんかも……。
「そういえば、麺類食ってないな」
まあ、そこは仕方がない。ここは異世界なのでコンビニもなければインスタント麺もラーメン屋もない。
「めんるいというのはなんなのじゃ?」
「麺類っていうのはこんな感じの長細い食い物で、汁に入っている料理というか……」
なんだろう、説明しづらい。実際に作って見せた方が早いだろう。
「よし、明日の昼はうどんにするか。丁度小麦粉もあるしな」
「うどんじゃと? また聞きなれん言葉じゃが美味ければ問題ないぞ」
「どんなお料理なのか楽しみなのです」
明日の昼の献立が決まったところで、夕食の時間は終わりを迎えていた。
「「「「ごちそうさまでした」」」」




