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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
東の国間話

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石窯オーブン設置①

 朝食を済ませ、酒屋の仕事も片付けた俺たちは、さっそく石切屋へと向かった。


「セキヨウ、おるかのう?」

「あれぇ、オウカぁ、どうしたのぉ?」


 相変わらずのんびりした口調のセキヨウさんは、店の裏手で石を彫っていた。


「実はのう、妾の炊事場に石窯を設置してほしいんじゃ」

「えぇ~、石窯ってぇ、西の国にあるようなやつ~?」

「うむ、そうじゃ、石窯オーブンとかいうやつじゃ」


 セキヨウさんは少し考えると店の裏手にある倉庫へと向かっていった。

 中にはいろんな形をした石が積まれている。


「ここにぃ、すぐに設置出来るぅ。石窯があるんだけどぉ、高いよぉ~?」


 そう言ってセキヨウさんが指差したのは積まれた石。どこに石窯オーブンがと思ったが、花祭りの時に一瞬で組み立てていたのを思い出した。

 まさか、石窯オーブンも組み立て式で持ち運びしやすいものになっているのだろう。


「ほう、そうなのか、いくらじゃ」


 セキヨウさんは、懐から紙と鉛筆を取り出し、指を折りながら計算していく。


「えっとぉ、設置費用にぃ、材料代にぃ、あとそれからそれからぁ……」


 ぶつぶつと呟きながら計算を終えると、紙をオウカへ差し出した。


「ふむ……そんなもんか。ほれ」


 オウカは懐から巾着を取り出し、中身を適当に掴むとそのままセキヨウさんに渡した。セキヨウさんはそれを作業台の上へ広げ、一枚ずつ数え始める。

 ……いや、あれ全部金貨じゃないか。

 しかも結構な枚数あるぞ。

 やはり石窯オーブンともなると、それなりの値段がするらしい。


「はい、これ多かった分ねぇ。すぐに設置しちゃうんでしょ~?」


 セキヨウさんは受け取った金銭の多い分をオウカへ返す。


「うむ、もちろんじゃ。すぐに取り掛かってくれ」


 それを聞いたセキヨウさんは外に置いてある台車を倉庫まで運び、それに石を積んでいく。ここから先はプロの仕事だ。


「設置にどれくらいかかるんですか?」

「そうだねぇ、今はお昼前だからぁ、3時くらいには組み立てられるかな~」

「その間、隣の火口とかって使っても問題ないですか?」


 昼を過ぎるということは昼食中も作業をするということだ。

 もし使えないのなら昼以降にやってもらおうと思ったが問題ないようだ。


「それじゃあ、石窯の設置を頼んだぞ、セキヨウ」

「わかったぁ。まかせてねぇ~」


 台車に石を積み終えたセキヨウさんが、のんびりとオウカの屋敷に向かって歩き出す。倉庫の中にまだ残っているので何往復かするのかもしれないな。


 その間に俺はあるものを作るとしよう。

 まずは玉ねぎをみじん切り、にんじんをすりおろしにする。

 そこにブラドベリージュースとトマトジュースを加え、砂糖、醤油、酢、水、コショウを加える。さらに、西の国で買った香草の中にシナモンに近い匂いのものがあったので、これも少し入れる。

 すべてを鍋に入れて火にかける。

 焦がさないよう、木べらでゆっくりとかき混ぜながら、じっくりと煮込んでいった。


「これは何を作っているのですか?」

「ああ、こいつはソースだ。といっても西の国で作ったものとは違うものだけどな」


 昼食は小麦粉を使った料理を作る予定だ。その為にも、このソースが必要になってくる。

 中火で煮立たせて、全体量が2割くらい減ってきたところで味見をする。ここで味を調整するのだが、今回はちょうど良かったのでこのまま仕上げに入る。

 水溶き片栗粉を入れ、とろみをつけたら、粗熱を冷まして完成だ。


「これで中濃ソースの完成だ」


 よし、そろそろ昼なのでこのまま作ってしまおう。

 小麦粉に水を入れダマが無くなるまでよく混ぜる。さらにそこへ塩を少々と卵を加えさらに混ぜる。

 キャベツはみじん切り、ボルアッカのバラ肉を薄切りにして加えて、さらに混ぜる。これで、今日の昼食のメインはいつでも焼くことができる。


「いったい、何を作るのですか?」

「今日の昼食はお好み焼きだ。溶いた小麦粉にキャベツや肉を混ぜて焼いたら、ソースをかけて食べる料理だな」


 みそ汁をヨウコに任せている。具材は玉ねぎと卵……の白身だけ。

 卵の黄身はあるものを作るのに使うからだ。


「ここで西の国で買ってきたホイッパーの出番だな」

「今からマヨネーズを作るのですか?」


 卵黄に酢を入れ、油を少しずつ入れながら混ぜる。とことん混ぜる。


「うぉおおおお!!」

「……大変そうなのです」


 うん、正直、すごく大変だ。


 だがしかし。マヨネーズの有無で、お好み焼きの完成度が天と地ほど変わるのだとしたら、この程度のエマルジョン作業など、苦行ではあっても乗り越える価値はある――はずなのだ。

 ……すまん、嘘だ。

 せめて電動ホイッパー。……いや、もう市販のマヨネーズが欲しい。


「さて、そろそろ焼くとするか」


 平鍋を熱して油をひく。

 そこに先ほど混ぜ合わせたお好み焼きのタネを流し込む。厚さは2㎝くらいがいいだろう。火口を2ヵ所使い、同時に二枚焼いていく。

 どうせなら大きく焼いてから切り分けた方が効率がいい。

  じゅう、と香ばしい音が響く。

 両面にこんがりと焼き色が付いたところで蓋をする。蒸し焼きにすることで中までふっくら仕上がるのだ。

 焼き上がったお好み焼きをまな板へ移し、食べやすい大きさに切り分ける。

 皿に盛り付け、まずはマヨネーズをたっぷりと。その上からソースをかけ、最後に削ったカタオ節を散らせば完成だ。


「お味噌汁も出来たのです」


 お好み焼きは見た目以上に腹にたまる。付け合わせは漬物だけで十分だろう。

 ちょうどその頃、オウカが戻ってきた。天井裏からはカナメも降りてくる。


「セキヨウさん、よろしかったら昼食をご一緒にどうですか?」

「えぇ? 私もいいのぉ~?」


 わざわざ自分の家へ戻るのも面倒だろう。それに石窯オーブンを作ってもらっているのだ。これくらいの礼は当然である。


「うむ。セキヨウも一緒に食うのじゃ。こやつの作る飯は美味いからのう」


 屋敷の主自ら許可が出た。ならば遠慮する理由もない。



本日の昼食


 ボルアッカのバラ肉入りお好み焼き、玉ねぎと白身のみそ汁、きゅうりの漬物



「「「「「いただきます」」」」」



「エイタ、こやつはなんだ? いつものご飯が見当たらぬぞ」

「そいつはお好み焼きって料理だ」

「お好み焼きじゃと?」


 オウカは首を傾げながら、取り皿に載せられたそれをじっと見つめた。

 ソースの甘辛い香り。ふわりと揺れるカタオ節。


「……この上にかかっているやつ、いい匂いがする」


 最初に動いたのはカナメだった。小さく切った一切れを口に運ぶ。


 もぐ。


 その瞬間、カナメの目が大きく見開かれた。


「……っ!」


 無言のまま二口目、三口目と箸が止まらない。

 その様子を見ていたオウカとセキヨウも顔を見合わせる。


「そんなに美味いのか?」

「どれどれぇ~」


 二人もお好み焼きを口へ運んだ。

 そして――。


「むっ!?」

「えぇっ!? なにこれぇ!」


 外は香ばしく、中はふわふわ。

 甘辛いソースとまろやかなマヨネーズが絡み合い、噛むたびに旨味が広がる。


「この上にかかっているたれが美味いのう」

「ご飯にも合いそうなソースなのです」


 ソースご飯。いや、そばめしといったところか。その場合は中濃ソースではなくウスターソースを作る方がいいだろう。

 ただ、トマトジュースを結構使うし、自家製となるとあまり日持ちはしないからな。


 トマトが普通に買えればいいんだけど、八百屋では見かけないからな。


「のう、エイタ。このたれ、西の国で食ったドドカツにも合うのではないか?」

「オウカ、お前よく気付いたな。その通りだ」


 今回作った中濃ソースは揚げ物、特にフライ関係に最適な調味料だ。つまりドドカツにかければ美味さは跳ね上がる。


「本当は向こうで作りたかったんだけどな。醤油が無かったからな」

「よし、今日の夕食はドドカツにするのじゃ! このたれでドドカツを食ってみたいぞ」


 カツを作るにもまずはパンがないと作れない。そしてパンを作るには石窯オーブンがないと作れない。

 そして、石窯オーブンは今作っているところだ。


「もう少しでぇ、完成するからぁ、試しに使ってみてねぇ」


 確かに、完成したら一度試運転して使い勝手を確かめないといけないな。

 といっても、バターもギャウルの乳もないからリーンパンを作るしかないか。

 瓶詰のドライヴァイスベリーで酵母を作って置いたので大丈夫だ。


 気づけば、あれだけ大量に作ったお好み焼きはきれいさっぱり無くなっていた。

 いつもきれいさっぱり食べてくれると作っているこちらも気持ちがいいものだ。


「「「「「ごちそうさまでした」」」」」

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