昼食と宝探し再び
「本日の昼食はオラブ風味の野菜焼き、ネギと卵のスープ、クリームシチュー、バゲットでございます」
昼食がテーブルに並んでいく。
伯爵家の4人は胸に手を当て目を瞑り祈りをささげる。
俺たち――オウカ、ヨウコ、カナメ、そして俺も、それに倣って手を合わせる。
「「「「いただきます」」」」
まず目を引いたのは、先ほど「野菜焼き」と呼ばれていた一品だ。恐らく、乱切りにした野菜を炒めただけのシンプルな料理なのだろう。
見た目はどこかラタトゥイユにも似ているな。俺は試しに一口食べてみる。
塩と胡椒のみの、極めてシンプルな味付け。しかし、それがオラブオイルによって全体を優しく包み込み、驚くほど香り高い一皿へと昇華されていた。
――素材の味を活かしているからこそ、旨い。
まさに、そういう料理だった。
「このドド肉と野菜が入った白いスープは、一体なんなのだ?」
アルバートさんはクリームシチューを見て戸惑っている。いや、アルバートさんだけではなく伯爵家全員が同様に戸惑っている。
その空気を察したのかディケムさんが説明に入る。
「そちらはクリームシチューという料理でして、ドド肉や野菜をギャウルの乳で煮込んだ料理でございます」
「ギャ、ギャウルの乳で煮込んだ!?」
ギャウルの乳はそのまま飲むものという常識があったオルフェウスは驚いた声をあげる。
しかし、その反応に対してカナメは何の迷いもなくクリームシチューをスプーンですくって口に入れる。
「……美味い。これ好き」
それだけ呟くと、さらにバゲットを手に取り、クリームシチューへと浸して口へ運ぶ。
瞬間、彼女の表情がふわりと綻び、満面の笑みが広がった。
その様子を見たオルフェウスも、恐る恐るスプーンを口へ運ぶ。
「おお、濃厚なんだけどいくらでも食べられそうな味わいだ。これ、本当にギャウルの乳で煮込んだ料理なのかい?」
「すごいわ。ドド肉や野菜の美味しさも溶け込んでて舌触りもとても滑らかだわ」
セラフィナもまた、感嘆の声を漏らしながら笑顔でスプーンを進めていく。
俺もクリームシチューを一口。
うん、さすがに市販のルーとはいかないがいい出来にはなったと思う。
バゲットをちぎり、シチューに浸して口へ運ぶ。
これも正解だな。
ロールパンだとバターの油分が少し重なって、くどく感じたかもしれない。やはり、この濃厚なシチューにはバゲットが一番合う。
「なあ、エイタ。このクリームシチューとやらは米とも合うのではないか?」
「もちろん合うぞ。俺はむしろ米の方が好きだな」
カレーライスならぬシチューライスはありか、それともなしかの論争。俺はあり派である。なぜならドリアっていう料理があるからな。
「そうだ、オウカ。戻る前に店を色々回りたいんだけどいいか?」
「む、昨日買わなかったのか?」
「ああ、さすがに重くなるかもしれないしな。何を買うか色々考えていたからさ」
正直あれも欲しい、これも欲しいと思ってしまうが、そこはぐっと抑えて必要なものだけ買おうと思う。
「それじゃあ、昼食を食い終わったら、最後の日の街を回ってみるとしよう」
俺たちは静かにシチューを食べ進めながら、残されたこの街での時間に思いを馳せた。
「「「「ごちそうさまでした」」」」
***
俺たちは昼食を終えて、街へと行くために着替えていると、部屋がノックされた。
扉を開けるとそこにはディケムさんが背筋を伸ばし立っていた。
「失礼いたします。エイタ様。こちら、伯爵家の料理番たちへ教育していただいた分の報酬でございます」
そう言って小さな麻袋を渡された。小さいと言えど、結構な枚数入っているのだろう。
「わかりました。ありがとうございます」
ディケムさんは一礼するとその場を後にする。
俺はそのまま街へと繰り出した。今回のメンバーは俺、オウカ、ヨウコ、カナメ、そしてミルフィスの5人だ。
まず最初に向かうのはサイクロプスの店主がいる鍛冶屋だ。
「おう、いらっしゃい……ってアンタか。今日はどうした?」
「今日、東の国に戻るので、必要な物を買いに来たんです」
そう言って、俺は店の中を物色する。そして、まず1つ目、目的の物を見つける。
「あった。まずホイッパーとそれからケーキの型にパイの型に……。お、これはクッキーの型をとるのに使えるな」
俺は次々と調理器具を手に取っていく。
もっとも、大きなものは東の国で職人に作ってもらった方がいいだろう。そんなことを考えながら品定めを続けていると――。
「こ、こいつはフードミルじゃないか!?」
俺が見つけたのは、ポタージュやソース作り、裏ごしなどに使う手動式のフードミルだ。
まさかこんな場所でお目にかかれるとは思わなかった。
「ああ、そいつは薬作りに薬屋のばあさんが買うくらいだな。あんまり売れねえから困ってたんだよ。買ってくれるんなら安くしとくぜ」
「本当ですか!? 喜んで買わせていただきます」
「エイタ。これを買うのは妾じゃぞ。それで、こいつは何に使うのじゃ?」
オウカが不満そうな顔をしている。
しかし、そんな顔も一瞬で変える魔法の言葉を俺は知っている。
「そうだな、こいつらがあれば今日食ったカトルカールをもっと美味いものに変えられるかもしれないぞ」
「なんじゃと!?」
オウカの目が輝く。
「よし、買うのじゃ! 他にも買うものとかはないのか!?」
……相変わらずちょろい。
まあ、買ってくれるのだから文句はない。
俺たちは鍛冶屋で必要な品を買い込み、それらを麻袋に詰めると、次の店へ向かった。
「次に行きたいお店はございますの?」
「そうだな、乾物屋とかないかな?」
「乾物屋……。ドライブラドベリーとかが売っているお店かしら?」
「そう! そういう店だ!」
俺たちは次に、乾物屋へと足を運んだ。
店先には、色とりどりの乾物が吊るされている。干し野菜や乾燥肉、香草類が吊るされている。
その店の棚に、俺は目的のものを見つけた。
「お、あった。ドライヴァイスベリーにドライブラドベリー」
パンを作るのには酵母がいる。その酵母を作るのにはこいつらが必要不可欠なのだ。
「いらっしゃい。おや、アンタもドライヴァイスベリーを買っていくのかい?」
奥から姿を現したのは、赤い鱗を持つ爬虫類のような顔つきの店主だった。
サラマンダー族だろうか。
「この間もパン屋の主人が大量に使うって言って買っていってさ。まさかこれが売れるなんて思ってなかったよ」
そんなに売れなかったのかドライヴァイスベリー。まあ、ハズレベリーって言われるくらいだからな。
そういえば東の国でもベタイモで似たようなことがあったな。
最初はハズレ扱いでも、使い方次第で一気に価値が跳ね上がる。
この世界にも、まだ見ぬ“化ける食材”が眠っているのかもしれない。
「エイタ。こいつは買っていかないのか?」
オウカが指差したのはガラス張りの冷蔵庫の中で吊るされたベーコン。
なるほど、西の国はガラス製品が豊富だから、冷蔵庫の中身をそのまま商品棚にすることができるのか。
だが、さすがにそんな大物を買ってしまったら、持ち物がいっぱいになってしまい、龍門ではじかれるかもしれない。
「ベーコンや腸詰は船で運ばれたりします?」
「ああ、こいつらは保存が利くからね。東の国でも作られているけど、風味は国ごとに違うからさ」
そうなると、東の国の城下町にも売られているということだ。乾燥したベリーも輸出しているのだが、もちろんドライヴァイスベリーは輸出されない。この国限定の商品という訳だ。
俺がお土産で持ち帰りたいのはそういった限定品だ。
おっと、だが香草類やコショウなんかは買っていくぞ。こいつらは今すぐに欲しいものだからな。ついでに売っていたペッパーミルも購入した。
ドライヴァイスベリー以外の商品は東の国に輸出されているので、ここでの目的は達成した。
「エイタ。後はどこの店にいくのじゃ?」
「そうだな。ブラドベリーとかトマトとかをジュースにしたものが欲しいんだけど」
「あら、それでしたらワインショップの隣がそうですわ」
なんと、ワインショップの隣にあったのか。早速俺たちはその店へと向かうことにした。
到着すると、そこには大きなワインショップの建物に寄り添うように、小さな入口が並んでいた。
「なるほど……これは隣と繋がっているという訳か」
中へ足を踏み入れると、そこは想像以上に狭かった。商品棚もなく、陳列スペースすらほとんどない。あるのは簡素な受付カウンターのみ。
ここで注文を受け、奥の冷蔵庫から品物を持ってくる仕組みなのだろう。
しばらくすると、受付の奥から店員がやってきた。
「いらっしゃいませ。こちらの商品はお酒ではありませんがよろしいですか?」
「ええ、トマトとかブラドベリーのジュースを瓶で欲しいんですけど」
「はい、少々お待ちください。こちらが値段表となっております」
そう言って店員が板に書かれた値段表を見せてくる。
商品はトマトとブラドベリーの2点のみで、季節によって商品が変わるらしい。
とりあえず俺はトマトとブラドベリーをそれぞれ一本ずつ注文した。
店員は店の奥に引っ込む。しばらくすると、手に瓶を持って戻ってきた。
「一度加熱してありますが、封を開けると風味が無くなりやすいのでお早めにお飲みください」
よし、これで欲しいものは粗方揃ったと思う。
「ふむ、ようやく終わったのか」
「お店を回っているときのエイタさん。すごくうれしそうな顔をしていたのです」
「……エイタにとっては宝探しと同じ」
……俺そんな顔していたのか。仕方がないだろう。俺にとってはこの街の商品全てがお宝に見えるんだから。
「さて、それでは用も済みましたし、一度館へ戻りましょう」




