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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
西の国

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昼食とクリームシチュー

 俺とヨウコは朝食が終わると厨房へ向かった。厨房ではすでに伯爵家の料理番たちが昼食の献立の話し合いをしていた。


「あ、兄貴。朝食はどうでした?」

「ああ、美味しくいただいたよ。ごちそうさま」

「あはは、よかったぁ。そういえば、お昼過ぎには帰っちゃうんだよね?」


 オーグリアが寂しそうな顔をする。


「ああ、そういう訳だから、最後にもう一品料理を教えに来たってわけだ」

「え? 本当ですか兄貴!」


 ガロは厨房にある椅子から立ちあがり笑顔を見せる。


「オーグランドさん、フォン・ド・ギャウルってまだ余っていますよね?」

「ああ、2番出汁は使ってしまったが、1番出汁はまだ残っているな。今日の夜にまかないで使ってしまおうと思っていてな」


 すでに厨房の火口には新しいフォン・ド・ギャウルや、ブイヨンがかけられている。

 これなら、昼食と夕食を少しだけ手を貸すことが出来そうだ。


「今から小麦粉とバターでルーの作り方を教えますが、構いませんか?」

「もちろん、構わないよ」

「む? 新しい料理法か。是非とも教えていただきたい」

「教えてください。兄貴!」

「私も教わるのです!」


 さあ、俺たちが東の国へ戻るまでの間に教えられることは教えてしまおう。

 下働きの子たちに指示をして材料を用意してもらう。

 一つの鍋で、ブラウンルー。こいつは夕食に使ってもらおう。

 昼食分とさらに従者分、全部で3つの鍋でホワイトルーを作ってもらおう。といっても、途中まではやることは同じ。


「まずはバターで小麦粉を焦がさないように炒めるんだ」


 鍋にバターを溶かして小麦粉を加えじっくりと炒めていく。ブラウンルーはオーグランドさん。ホワイトルーはガロ、ヨウコ、オーグリアの3人だ。

 まず、ホワイトルーの方が先に完成するのでこちらから見ていこう。

 弱火で粉っぽさがなくなるまで混ぜ続け、粉っぽさが消えたらギャウルの乳を少しずつ加える。ここで一気に加えるとダマになってしまうので注意だ。

 少しずつ入れてはよく混ぜ、入れては混ぜを繰り返す。中火にして混ぜながら加熱し、とろみが付いたら完成。


「後はこれに炒めたドドの肉やにんじん、ジャガイモ、玉ねぎを入れて煮込んだ後、塩コショウで味を整えればクリームシチューの完成だ」

「すごいっすね。まさかギャウルの乳で煮込む料理なんて」

「これでパンと一緒に食べたら美味しそうなのです」


 さすがヨウコいい所に気が付いた。むしろ、スープよりもクリームシチューで食べた方が美味いまである。


「よし、これで従者たちの分も作れたんじゃないかな?」


 大鍋にいっぱいのホワイトルーが出来上がった。後は具材を入れるだけだが、これで昼食のメインと従者たちの昼食が完成した。


 さて、次はオーグランドさんが担当しているブラウンルーだ。


「エイタ殿、色が変わってきたぞ」


 先ほどまで白かったソースが長時間炒め続けたことによって、きつね色より少し濃い色に変わってきた。

 ここで香ばしいナッツのような香りが出たらルーの完成だ。


「ここで焦がさないようにしっかり色をつけてください。色をつければつけるほどコクのあるソースになります」


 一度火を止め、別の鍋にバターを落とす。そこへみじん切りにした玉ねぎを加え、弱火でじっくりと炒めていく。

 玉ねぎが透き通り、甘い香りを放ちはじめたところで、ワインを加え中火へ。半量ほどになるまで丁寧に煮詰めていく。

 そこへ先ほど仕上げたブラウンルーを加え、よく混ぜ合わせる。

 フォン・ド・ギャウルを加えて弱火で10分ほど軽く煮込んだら、味を見ながら塩、コショウで調整して完成だ。


「これでデミグラスソースが完成です」

「ふむ、これは先ほどのクリームシチューよりも味が濃そうに見えるな」

「ええ、その通りです。試しに味見してみましょう」


 小皿に取り分け、下働きの者も含めて全員に配り、口に運んだ瞬間——。


「うわぁ! なにこれ美味しい!」

「これだけでもパンが食べられるわね」

「ご飯にも合いそうなのです」

「うむ、この香ばしい風味が素晴らしいな」


 このデミグラスはハンバーグなどのソースにも使えるし、ビーフシチューにもなる。いやギャウルシチューか?

 この館で初めて出した料理、ハンバーグにも使える万能ソースだ。


「なるほど、フォン・ド・ギャウルは煮込めば煮込むほど、濃厚なソースに変わっていくということか」

「ええ、なんならハンバーグやカツにも使えますよ」

「へえ、普通に焼いた肉にかけても美味しそうだね」


 そんな話をしているうちに、気付けば昼も近い。

 あとは伯爵家の料理番たちに任せるとしよう。


「それじゃあ、俺はここまでだな。昼食楽しみにしているぜ」

「うっす、分かりやした。兄貴」

「って言ってもメインディッシュはちょっと手を加えるだけだけどね」


 ははは、確かにそうだ。

 今日の昼は俺が作ってしまったけど、シチューとかソースだけは教えておきたかったからな。


 俺とヨウコは厨房を出て食堂で待つことにした。

 食堂にはアルバートさんと……カナメがいた。

 カナメは右目に拡大鏡を付け、懐中時計を分解している。


「……ずっと見ていなかったから結構ずれてる」

「ふむ、そうだったか。この街には時計技師がいないからいつも助かっているよ」


 カナメはアルバートさんの懐中時計を調整しているのだろう。


「おや、エイタ君じゃないか。うちの料理番たちに料理は教え終わったのかい?」

「ええ、先ほど、教えられることは何とか教えました」


 と言っても、教えたりない事の方が多い。それに、この西の国にはまだ見ぬ食材があるかもしれない。まだまだ料理の幅は広がっていきそうだ。


「……はい、終わったよ」

「ああ、ありがとう。いつもみてくれてすまないね」


 アルバートは懐中時計を大事そうに眺めている。カナメの持っているものと違い、銀色に輝く豪華な装飾が施されていた。


「すごい高そうだなぁ」


 思わず口から漏れた言葉に


「……うん。すごく高いよ」


 カナメが即答した。さすが時計技師、値段が高いものも一発で見抜いてしまうということか。


「……あれ作ったのカナメの爺だから」

「……マジか」

「ははは、確かに少し値は張ったけどそれだけの価値があるからね」


 しかし、カナメの爺さんの時計を平気でバラシて当たり前のように直す技術って相当すごいよな。


「あら、お父様。カナメに時計を直ししていただいておりましたの?」


 食堂にミルフィスとオウカがやってくる。さらにセラフィナ、オルフェウスもやってきた。

 オルフェウスがアルバートの懐中時計を見てぽつりと呟く。


「懐中時計かぁ、僕もそろそろ頼もうかな」

「……いいよ。今は仕事も空いているから」


 カナメは懐から小さなノートと鉛筆を取り出し、オルフェウスの要望を聞いてノートに書いている。

 てっきりオウカの家の屋根裏に居候してるだけかと思ったら、ちゃんと仕事しているんだな。

 ……すまん、カナメ。

 今までただの引きこもりだと思ってた。


「……表面はミスリル銀細工、風防はマナクリスタル製、鎖もミスリルでいい?」

「そうだね。表面は父さんと同じブラッドベイン家の紋章を入れてくれる?」


 なんだか凄そうな単語が次々と飛び出してくる。

 ミスリルにマナクリスタル。名前からして絶対高いやつだ。


「……締めて金銭113枚。端数はいらない、110枚でいいよ」

「へえ、なかなかお手頃価格なんだね。よし、それじゃあそれで頼むよ」


 ……今、金銭110枚っていったよな。しかもそれをお手頃価格とか言っていたよな。

 当たり前のように買うオルフェウスもすごいけど、それを仕事として受けるカナメも大概だな。


 そんなことを考えていると、食堂の扉が静かに開いた。

 入ってきたのはディケムさんだ。

 ディケムさんは俺たちに向かって恭しく一礼する。


「お待たせいたしました。ただ今昼食をお持ちいたします」

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