従者たちの休息
一方、厨房では、料理番たちが気が抜けたようにぐったりしていた。
「いつもの数倍疲れたっす……」
「ふぅう~、めっちゃ緊張したぁ」
「うむ、そうだな。我らの料理で満足していただけただろうか」
ガロ、オーグリア、オーグランドの3人は、今日の夕食作りに全力をかけて挑んだようだ。
その反動が今まさに返ってきたところである。
「大丈夫なのです。みんな一生懸命頑張ったのです」
「悪いなヨウコ。試食手伝ってくれて」
実は夕食のメニューを決めた後、それをぎりぎりの時間まで試作していた。
最初は自分たちだが、ヨウコも参戦、さらに下働きの子たちも。最終的には給仕担当のメイドまで試食を手伝った。
「しかし、最後の最後までデザートは決まらなかったな」
「ああ、むしろ、あれだけ食った後デザートなんて食いたくないから思いつかなかったぜ」
「さすがにあれだけ時間があってブラドベリーは無いでしょ」
そう、実はデザートは何も思いつかなかった。思いつかず苦し紛れに出したデザート。実はそれが最適解だったとは知る由もない3人。
「しかし、ハンバーグカツなんてよく思いついたな、オーグリアよ」
「あはは、実は既存の料理を組み合わせただけなんだけどね」
「え、そうなのか?」
「それでも、思いつくのはすごいことなのです」
オーグリアは、チキンカツとハンバーグを見て閃いた。他の食材も同じように作れるのではないかと。
「他にもいろいろ組み合わせられるんじゃないかな」
「実を言うと私の作ったスープも似たようなものだ。ドドのトマト煮から発想を得たのだ」
「なるほどな。ってことはボアッカとかギャウルでカツを作るのもありかもしれねえっすね」
ガロがさりげなく言った言葉でトンカツもといボアッカツが生み出された。
さらに――
「それと、昨日作ったサンドイッチだったか。あれも違うものを挟むとか……。例えばハンバーグとか」
「パパ、さすがにハンバーグをパンで挟むのはないんじゃない?」
いつの間にかハンバーガーまで生み出していた。
料理とは不思議なものだ。
一つの発想と、一つの組み合わせ。
それだけで、まったく新しい料理が生まれることがあるのだから。
「失礼いたします。オーグランド様、オーグリア様、ガロディアルさま。旦那様がお呼びでございます」
食堂の扉が開かれ、執事長のディケムが恭しく礼をする。
「え? 全員っすか!?」
「うむ、すぐに向かおう」
3人は食堂へと向かっていった。
「うう、なんか胃が痛くなってきたっす」
「呼ばれた時のエイタさん、こんな気持ちだったんだね」
「安心しろ。私も含め、皆同じ気持ちだ」
ディケムに案内され、食堂の大扉がゆっくりと開かれる。
普段、食後に呼ばれるのは料理長であるオーグランドだけだ。しかし今回は違う。
まさかの料理番全員招集である。
オーグランドはもちろん、普段は料理の感想を直接聞く機会のないオーグリアとガロも緊張を隠せない。額にはうっすらと冷や汗が浮かんでいた。
「失礼いたします。本日の夕食をお作りになった料理番3人をお呼びいたしました」
「ああ、ありがとうディケム。……さて、料理長のオーグランド」
「ははっ!」
オーグランドは片膝をつき、オーグリアとガロも同じように膝をつく。
「今日の夕食はとても素晴らしいものだった。感動したよ」
「あ……ありがとうございます!」
その言葉を聞いた瞬間、オーグランドの胸を締め付けていた重圧が一気に消え去った。
主人に認められたという事実。
隣ではオーグリアとガロも安堵したように顔を見合わせ、小さく息を吐いていた。
「私だけじゃなくてエイタ君も驚いていたからね」
そう言ってアルバートさんは俺の方へ視線を向ける。
「ええ、まさか、新しい料理を3つも出してくるなんて思いませんでしたよ。特にあのメインディッシュ。あれは、俺の国だとメンチカツっていう料理でして」
「あれは、オーグリアが思いついた料理だ。教えてもらった料理の組み合わせで思いついたと言っていた。そうであろう」
「ええ、チキンカツとハンバーグを合わせてみたらどうなるのかなって思って」
オーグリアは照れくさそうに頬を掻いている。
まさか、既存の料理の組み合わせで思いつくとは。
「正直なところ、デザートは思いつかなかったっす」
「……え?」
「あら、そうだったの? てっきりメインがボリュームがあるから、あえてブラドベリーにしたのかと思ったわ」
まあ、それが思いつかなくて逆に良かったってことで。
しかし、これは思った以上に成長しているのかもしれない。
そうだな、東の国に帰る時にさらに何か一つ教えていくのもアリかな。
「オウカ、東の国に戻るのは何時くらいだ?」
「そうじゃのう、昼の後には戻るつもりじゃ」
「それなら、明日の朝にデザートを一つ教えていくか」
「え!? マジっすか兄貴!」
ガロは身を乗り出してきた。が、伯爵の手前すぐに引っ込んだ。
「デザートの基本中の基本の料理なんだけど、それをいろいろなアレンジができるんだ」
「ほう、それは気になるな。是非とも教えていただきたい」
オーグランドさんも興味深そうに頷いた。
そのまま料理番たちも交えた雑談へと流れ、先ほどまでの緊張感はどこへやら、穏やかで賑やかな食卓の時間はゆっくりと幕を下ろしていった。
***
食堂から戻り、明日の朝食について話し合っている。伯爵家の料理番たち。明日からは自分たちで料理を考え、メニューを決め作っていくのだ。
「明日、兄貴たち帰っちゃうんすよね」
「なんか寂しくなるな~」
「仕方あるまい。彼らは東の国の者だ」
そんな話をしながら朝の料理を決めていく。
それぞれが考え、意見を出し、料理を作ろうとしている。そんな二人の姿を見て、オーグランドは目を細めた。
「成長したものだな」
「え?」
「最初のお前たちなら、私に献立を決めてくださいと言っていただろう」
「あー……確かに」
「そうかもしれないっす」
二人は照れ臭そうに笑った。
オーグランドもまた小さく笑う。
それは自分自身にも向けられた笑みだった。
エイタが来る前の自分もまた、与えられた仕事をこなすだけだったのだから。
「よし、決めた」
オーグランドは献立表に鉛筆を走らせる。
「よし、メインは卵料理にしよう。ベーコンを刻んで混ぜこんで焼くのはどうだろうか?」
「あ、それいいっすね。そうなると、スープはカブを入れたいっすね」
「サラダはピクルスを混ぜてみようかな」
そんなことを話し合いながら3人は明日の献立を遅くまで決めていた。




