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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
西の国

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料理番たちのベーコンエッグ

 俺が厨房で今日の朝食の準備に取り掛かっていると、厨房の裏手のドアが開いた。

 オーグランドさんと下働きのアルマとエルスが朝の市場から戻ってきたようだ。


「うむ、昨日手配しておいたギャウルの肉だ」


 オーグランドさんが抱えていた木箱を下ろす。昨日運び込まれたものより、一回りは大きい箱だ。蓋を開けて中を確認すると、見事な赤身肉があった。

 さらに、木箱の中には大量のギャウルの骨。


「昨日よりも骨がいっぱいありますね。これならフォン・ド・ギャウルもたくさん作れそうです」

「ああ、元々こいつらは焼いて灰にして肥料に回される代物だからな。グラトールからはタダで流れてくるようなもんだ」


 マジかよ、なんてもったいない。出汁を取った後にでも灰にすれば結局は肥料に出来るからな。

 とにかく、これで出汁の元と肉の確保は出来た。パンは……そろそろ来る時間だが。


「ちわーす、パン屋コボッタです! ご注文のパンをお届けに来ただよ!」


 厨房の裏口から元気な声を響かせながら入ってきたのは、パン屋のコボッタさんだ。

 おお、なんとベストタイミング。


 昨日、俺がパンの焼き方を教え、さらにミルフィスから食パン用の焼き型まで支給されたものだから、本人はすっかり上機嫌だった。そして、その成果が今朝さっそく届けられたのである。


 コボッタさんは背負っていた大きな籠を床に下ろした。

 さて、その出来栄えは――。


「お、これはロールパンっすね」


 ガロが取り出したのは拳ほどの大きさのロールパン。こんがりと焼き色がついていて、実に美味しそうだ。

 さらに、長く真四角に焼きあがった食パンを見つけた。


 俺はそれを掴み、調理台の上へ置く。


「試しに切らせていただきますね」

「おう、構わねえべさ。ぜひとも確認してくれ」


 俺は包丁でパンをスライスしていく。柔らかさは普通の食パンと変わりない。問題は中身だが……。


「おお、中もちゃんと火が通っているぞ!」


 外側は硬めに、中はふんわりと焼きあがった食パンは、現実世界で売られていても遜色ないくらいに出来上がっている。


「よっしゃ、成功でねえべか、これ!」

「ええ、見事な腕前ですね」


 正直、かなり驚いた。

 食パン作りは実演して見せたわけではない。それなのに、ここまで仕上げてくるとは。

 さすが長年パンを焼き続けてきた職人である。


「実はこれより前に何本か作って失敗してるだよ」


 あらら、一発成功じゃなかったのか。


「おかげで失敗作が店に数本残ってるだよ。こいつは4本目だぁ」


 そう言ったのにも関わらず、コボッタさんは全然落ち込んでいる様子はない。


「実はな、おら、昨日のうちに秘策を考えておいただ」

「秘策ですか?」


 一体なんだろう。

 首を傾げる俺に、コボッタさんはニヤリと口元を歪めた。


「昨日はパン焼きの依頼を全部断ったんだよ。来たみんなには今日の開店時間に来るよう伝えてな。それと、家にある硬くなったパンを持ってくるよう頼んだだ」


 硬いパンを回収する?

 その言葉を聞いた瞬間、俺はコボッタさんの考えに気付いた。


「まさか……」

「ふっふっふ、察したようだべな」


 コボッタさんは胸を張る。


「そうだ。集めたパンは全部おらがフレンチトーストにしてやるだよ。それで持ってきてくれたやつには、今日焼いた新しいパンと交換するってわけだ」


 なるほど、各家庭の硬いパンを交換しつつ、無駄なく再利用して料理に変えるという訳か。いいね、コボッタさん、俺、食い物無駄にするやつは例え王族だろうと嫌いだからさ。


 コボッタさんは焼きたてのパンを置き、意気揚々と店へ戻っていた。


 さて、俺たちは朝食づくりだ。と言ってもレシピはもう決まっている。


「今日の朝食のメニューはこれだ」


 俺は今日のメニューの作り方が書かれた紙を中央の調理台に広げる。

 トマトサラダ、トースト、ベーコンエッグ、野菜スープ、ブラドベリージャム。


「そういえば昨日作ってたけど、このブラドベリージャムってデザートなの?」


 レシピを覗き込んだオーグリアが首を傾げる。


「いや、こいつはパンに塗って食べるものだ。試しに食べてみるか?」


 オーグリアはコクコクと頷くと、ジャムを一口食べてみる。


「んんん~! 甘くておいしい」


 昨日のブレッドプディングを食べた時の顔になった。

 ジャムは保存が利くし、パンのアクセントにも最適だ。ヨーグルトとか発酵食品があればいいんだけどな。


「兄貴、思ったんですけど、今日の料理って……」


 ガロがレシピを見て首を傾げている。


「調理時間やたら短くありません?」

「あ、気が付いたか」


 ガロが言う通り、今日の朝食の調理時間は短い、これには理由がある。


「今日は俺とヨウコの分も作ってもらおうと思ってね」

「え!? ということは兄貴たちは厨房に入らないってことですか」

「ふむ、なるほどな。いつまでも頼ってばかりではいかんという訳だな」


 オーグランドさんが腕を組み頷く。


「え? どういうことですか? 料理長」

「彼らは元々客人として招かれたのだ。それを善意という形で教えてもらっている」


 オーグランドさんの言葉でガロはハッとなった。

 俺たちはいつまでもここにはいられない。いずれ帰らなくてはならないのだ。


「彼らがいなくなった途端何も出来ないという訳にはいかんだろう。我らは何を学んだんだ!」

「そうっすね。いつまでも兄貴たちに頼っちゃ成長できねえっすよね」

「そうだね。あたしたちでも出来るって証明しなくちゃね」


 3人だけじゃなく、下働きの子たちも互いに顔を見合わせ頷いている。そうだな、料理番たちだけじゃない。下働きの子たちだって成長しているはずだ。


「言っておくけど、まだまだ教えたりないんだぜ、これでも」

「え!? まだあるんすか!?」

「うむ、つまり我らもまだまだ成長できるということだな」


 それじゃあ、勉強の成果を見せてもらうぜ。

 俺とヨウコのいない厨房では誰がどの担当をやるか。綿密に計画を立てていた。


「まず、このレシピの中でも特に時間がかかるものは、ガロなんだと思う?」

「見る限りだと、スープっすね!」

「うむ、正解だ。こいつはとにかく野菜の下処理が多い。逆にメインはそれほど時間がかからない。まずはスープの野菜の下処理を重点的に行う。ガロ、アルマ、リントン、レントンで作業に当たれ」

「うっす! さあ、早速始めるぜ!」


 ガロと下働きたちは野菜の処理を始めていく。


「続いてサラダはオーグリア、お前だ。ミネルヴァと共に作業に当たれ」

「任せて!」


 オーグリアも自分の配置につく。


「よし、エルス。お前は窯に火を点けたら、食パンを切り、いつでも焼ける準備を整えておけ」

「はい!」


 オーグランドさんは冷蔵庫からベーコンを取り出し、スライスしてバットに乗せて準備をしておく。


 時間はあっという間に過ぎるもので、朝食の時間が迫ってきていた。

 ミネルヴァは玉ねぎを薄くスライスし、塩を振ってしばらく置いておく。

 その間にオーグリアはドレッシングづくりの準備を始める。ワインビネガーに塩、コショウを加えオラブオイルを少しづつ混ぜていく。


 切ったトマトをさらに並べ、スライスした玉ねぎを水で少し塩抜きした後、トマトの上に散らし、ドレッシングをかける。

 トマトサラダ。シンプルながらも、トマトの素材の旨味を引き出した料理だ。


 ガロはスープ担当。と言っても昨日のフォン・ド・ギャウル2番出汁に切った野菜を入れて少し火を通すだけだ。

 しかし処理をする具材は多い。

 アルマ、リントン、レントンでキャベツ、にんじん、カブ、ジャガイモ、を1センチ角に切っていく。

 ガロはスープを見つつ、合間を見て野菜を一緒に切る。


 しばらくすると、食堂へディケムさんが静かに入ってきて恭しく一礼をする。


「失礼いたします。旦那様とご家族がお席に着かれました」

「ああ、分かった」


 壁にかけてある時計を確認する。時間は6時45分。


 オーグランドはエルスに指示をし、スライスした食パンを石窯オーブンに入れる。

 ガロとオーグリアの方はすでに完了している。後はオーグランドの担当するメイン、ベーコンエッグ。

 まず、ベーコンを油をひかずに平鍋で焼く。油をひかないのは、ベーコンから脂がでるので、必要はない。

 ベーコンに焼き目が付いたら卵を割って平鍋に落とす。

 卵がある程度固まってきたら、水を少量入れ蓋をして蒸し焼きにする。

 これによって半熟の目玉焼きが完成するという訳だ。


「給仕を頼む」


 オーグランドの声に給仕係が素早く行動する。サラダ、スープ、パン、ベーコンエッグ、そして、ジャムが入った瓶が運ばれていった。


「ふう……何とかなったな」

 肩の力を抜きながらガロが息を吐く。

「あ~、緊張したけど楽しかった!」


 先ほどまでの緊張感は無くなり厨房は穏やかな雰囲気になる。


「今日は俺が作るんでみんなは食っててください」


 ガロが平鍋を手に取りベーコンエッグを焼き始めた。


「じゃあ、あたしはみんなのスープを作ろうかな」

「ふむ、それでは先に昨日のブイヨンを使ってくれ。新しいブイヨンが昼前には完成するからな」


 当然のように仕事の話を始めるオーグランドに、ガロは思わず目を見開いた。


「ちょっと待ってください! 仕事は終わったんじゃないんすか!?」

「朝食はまだだろう?」

「そういう問題じゃないっす!」


 ガロの悲痛な叫びが厨房に響く。


 一方その頃

 食堂では、伯爵家の4人にオウカとカナメ、そこに俺とヨウコが加わり8人になっている。


「エイタさんがここにいて今日は朝食抜きなのかと思ったわ」

「ははは、いやいや、さすがにそれは」

「今日からはみんなの力で頑張ってもらうのです」

「みんなの力でって、なるほど、一種の試験みたいなものね」


 ヨウコの言葉でミルフィスは理解したようだ。


「そうだ、エイタ君、朝食を食べたら、少し付いて来てもらいたいところがあるんだがよろしいかね?」

「ええ、構いませんよ」


 アルバートさんが俺を呼び出し、一体何なんだろう?


「お待たせいたしました。本日の朝食はトマトサラダ、トースト、ベーコンエッグ、野菜スープとなっております」


 さて、まずは朝食の出来を確認しよう。

 俺の目の前に朝食が並べられる。見た感じ失敗した様子は無さそうだ。


「「「「いただきます」」」」


 まずはトマトサラダをいただこう。


「お、味付けもいい感じだな」

「この野菜の入った汁も美味いのじゃ」


 さて目玉焼きだが……、こちらもいい感じに焼けている。まあ、目玉焼きは失敗するのが難しい料理だからな。

 俺はトーストにベーコンエッグを乗せる。やはりこの組み合わせが最強だよな。


「……それ、美味しそう。カナメもやる」


 カナメも俺の真似をしてトーストにベーコンエッグを乗せる。……いや、みんな乗せている。


「ほう、こうやって食べるのか」

「なるほど、これは中々美味しいわね」

「美味しいのです!」


 伯爵家の料理番たちの朝食作りは成功したようだ。


「「「「ごちそうさまでした」」」」

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