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妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
西の国

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賄いも豪華にしたい

 料理の提供が終わり、ようやく俺たちも夕食の時間となった。

 冷蔵庫で冷やしておいたブレッドプディングも、そろそろ食べ頃だろう。俺はそれを切り分け、食堂のテーブルへ並べていく。

 ほどなくして、館の従者たちも食堂へと姿を見せる。


「今日の賄いはこれだ。好きなだけ食ってくれ」


 俺がそう言って指し示した先に並んでいるのは、先ほど客人たちへ提供したものと同じ、焼きたてのロールパンだった。

 従者たちは一斉に目を見開く。

 つい先ほどまで、あのパンを絶賛する声を間近で聞いていたのだ。まさか自分たちまで口にできるとは思っていなかったのだろう。


「ほ、本当に食べてもいいんですか……?」


 誰かが思わずそう呟く。

 戸惑いと遠慮が食堂の空気を包み込んでいた。

 そんな中、給仕係の一人であるシェイルだけは迷う様子もなかった。

 当然のように鍋からドドのワイン煮込みをよそい、さらにロールパンを二つ手に取ると、そのまま従者用の食堂へ向かっていく。


「冷める前に食べたほうが美味しいよ」

「ははは、確かにそうだな。あと、今日はデザートもあるから一つ持っていきな」


 シェイルのその一言で、ほかの従者たちもようやく顔を見合わせた。

 そして次の瞬間、堰を切ったように皆が鍋へ集まり始める。

 器いっぱいに煮込みをよそい、大事そうにロールパンを抱えながら、次々と食堂の席へ向かっていった。

 しばらくして、食堂の方から歓声が上がった。よかった、味は気に入ってくれたみたいだな。


「さてと、俺たちも夕食を食べよう」


 ドドのワイン煮込みを器によそい、ロールパンを取る。

 さらにデザートのブレッドプディングも持って俺たちは食堂へと移動する。


「「いただきます」」


 まずは煮込みを一口。

 濃厚な香りと深いコクが口いっぱいに広がり、ドド肉のジューシーな旨味とワインのほのかな酸味が絶妙に絡み合う。

 うん、これはかなりの出来だな。


「ドド肉に味が染みて美味しいのです!」

「これ美味えっす兄貴!」

「パンもふわふわで美味しい!」

「うむ。このソース、パンとの相性が抜群だな」

「そうだ、いいものを持ってきたぞ」


 そう言って俺は、厨房からあるものを持ってきていた。


「あ、それはギャウル・ブルギニョンが入っていた鍋!」

「パンはこのソースをつけて食っても美味いぞ」


 俺のその言葉でみんなが鍋に残ったソースにパンをつけて食い始める。


「パンがいくらでも食べられそうなのです」

「ほほう、こっちのソースの方が濃厚だな」

「兄貴、このソースって、肉とかにかけても美味いっすか」


 ガロがソースをパンに付けて食いながら聞いてくる。


「そいつは言わば肉を煮た時の副産物だからな。肉にかけるならデミグラスソースっていうのがあるんだけど。2時間から3時間くらいかかるな」

「ははは、もう何時間とか聞いても驚かなくなったな」

「フォン・ド・ギャウル作った後じゃあねぇ」

「兄貴、それ、作り方教えてください!」


 フレンチ料理はとにかく時間かけるからな。和食が恋しいぜ。

 俺は紙にデミグラスソースの作り方を説明しながら書いてあげた。


 皆は次々と感想を口にしながら、夢中で料理を頬張っていく。

 そんな賑やかな夕食の時間が、ゆっくりと過ぎていった。


「俺、一つ心配なことがあるんすけど……」

「ん? 心配なことってなんだ?」


 何か悩み事でもあるのだろうか?


「兄貴が他の貴族たちに狙われるかもしれないことっすね」

「優れたやつは王族とか上の連中に囲われるって話し? さすがに伯爵様がついているんだから大丈夫じゃないの?」


 確かにそうだな。アルバートさんは、そういう独占とか囲い込みとかはしなそうな雰囲気だし。


「……何を言っておる。エイタ殿は東の国から来たのだ。東の国なら伯爵様も管轄外だ」

「それってつまり、西の国の王族とか貴族が東の国まで干渉してくるってことか? それって国際問題だろ!?」

「直接は手を下さずとも間接的に接近してくるだろうな。密偵とか使ってな」

「うう、なんか怖いのです」


 王族とかに囲われて無理やり料理作らされるとか、そんなのやだな。息が詰まりそうだ。


「まあ、今考えても仕方ないな。もし来たらその時はその時だ」


 今は深く考えないようにしよう。俺はロールパンをかじり、ドドのワイン煮込みを掻き込んだ。


「そういえば、これ、ブレッドプディングだっけ。まさかデザートが食べられるなんて思わなかった」


 夕食を食べ終え、残りはデザートとなった。

 周囲からはすでに歓声に近い声が上がっている。特にオーグリアなんて、さっきから目を輝かせっぱなしだ。

 やはり甘いものにときめくのは女子だけじゃないよな。

 特にオウカやカナメがそうだったからな。あいつら、甘いものとなれば怒られようとつまみ食いしに来るからな。まったくもって油断ならない。


「それじゃあ、早速……」


 オーグリアは期待に満ちた声を漏らしながら、ブレッドプディングをすくい、迷いなく口へと運んだ。

 ――次の瞬間だった。


「っ……!」


 目を見開き、そして一拍遅れて、とろけるような笑みがその顔に広がる。


「んん~、甘くておいしい~」


 俺がこう言っては失礼だが、オーグリアの見た目は男勝りで凛とした女性だ。家族といえど、あのガチムチマッチョな父親に堂々と物申すその気風の良さ、それが彼女だ。

 それがどうだ。甘いものを口にした瞬間、その雰囲気が一変したのだ。

 やはりスイーツとは恐ろしい。

 それは理性の奥底を、容赦なく暴き出す――悪魔的な魔法の料理なのかもしれない。


そして、それは――どうやら男も例外ではないらしい。


「むふぅ~……こいつはたまらんな」


 その声の主は、あのオーグリアの父・オーグランドである。


 普段は寡黙で真面目、伯爵に絶対の忠誠を誓う鉄の男。

 そのはずの彼が――今や頬を緩ませ、目じりを下げ、まるで大好きな孫に「お爺ちゃん大好き」と言われたような顔をしているのだ。


「あははは! ちょっとパパ、すごい顔になってるよ!」

「むむ、本当か!?」

「面白い顔をしていたのです」

「すごい蕩ける様な顔をしていましたぜ」


 オーグランドさんが照れくさそうに頭をかく。

 俺たちだけじゃなく、食堂にいる他の従者たちも温かい雰囲気のまま俺たちは夕食を終えた。


「「ごちそうさまでした」」


***



 さて、明日のために仕込みをしておかないとな。

 俺は鍋にブラドベリーと砂糖を入れ30分置いたものを中火にかけた。

 沸騰させつつアクを取り、へらでつぶしていく。そのまま、焦がさないように煮詰めていく。


「エイタさん、それは何を作っているのですか?」

「これはジャムだな。果物を砂糖で煮詰めたものだ。保存もきくし、パンに塗って食ったり色々使えるぞ」

「パンっすか、明日コボッタさんが持って来る日っすね。ちゃんとできてるでしょうかね」


 それに関してはコボッタさんを信じるしかない。コボッタさんは見た感じパン作りに生涯を捧げてきた職人気質なんだよな。だから、大丈夫だと思う。


 おっと、フォン・ド・ギャウルの2番だしはそろそろ火は消しておかないとね。

 別の鍋に一度濾してから粗熱を取る。そしたら冷蔵庫で冷やしておこう。

 こいつは明日の朝食に使うとしよう。


 ジャムもとろみがつくまで煮詰まってきた。熱いうちに熱湯消毒した瓶に入れ、蓋をして冷ましておく。


 さて、明日の仕込みは終わった。そろそろ、風呂の時間だな。入ったら早めに寝るとしますかね。

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