表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖の料理番 〜いただきますで始まり、ごちそうさまで終わる、妖たちの食卓譚~  作者: 奇理可羅
西の国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
55/67

ギャウル・ブルギニョン①

 俺たちは買物から戻ると、コック服に着替え厨房へ入る。

 すでに厨房では夕食の準備が着々と進められている。


「おう、戻ったみたいだな。なんか器が大量に届いて驚いたぜ」

「オラブオイルも缶で届いてたよ」


 街で注文していたものがもう届いていたようだ。

 さすが伯爵家ともなると遅れるわけにはいかないよな。


 さて、夕食の準備だが、あらかじめみんなに仕込みを進めてもらっている。

 ここは一度、全員で今日作る料理の内容をおさらいしておこう。


「それじゃあ、今日の献立をおさらいします。みんな集まってください」


 俺の声に、ヨウコ、ガロ、オーグリア、オーグランドさん、下働きの子5人が集まり、厨房中央のテーブルを囲む。

 その上へ、今日まとめておいたレシピ表を広げた。


「今日の夕食は前菜がトマトのキッシュ、キャベツと卵のスープ、クロワッサン、ギャウル・ブルギニョン、プリンです」

「とりあえず、このレシピ表ってやつに書いてあった通りに下処理はしておいたけど」

「まずは一番時間がかかるギャウル・ブルギニョンを作ります」


 ギャウルと聞いて、オーグランドさんが冷蔵庫から素早くギャウルのロース部分を取り出す。すでに処理は完了しているようだ。

 欲を言えば前日にギャウルの肉をワインに漬けておくと良かったんだけどな。さすがにそこまで頭が回らなかったよ。


「ちなみに聞いておくが、そのギャウル・ブルギニョンってどれくらいかかるんだ?」

「ええと、大体2時間半から3時間かかります」

「そ、そんなに時間がかかるのですか!?」

「3時間って、スープと同じ時間かかるの!?」

「……ふっ、もうお前に何を言われても驚かなくなっちまったぜ」

「途方もないっすね、料理って」


 ははは、フランス料理なんてそんなもんだぜ。

 本格的にやろうと思えば、丸一日かかる料理だって珍しくない。


「まず、ギャウル肉にコショウを振って焼き色をつけます」


 鍋にオラブオイルを引き、肉の全面を焼いていく。

 香ばしい焼き色が付いたところで、一度取り出しておく。


 その間に、あらかじめ用意しておいた野菜を確認する。

 玉ねぎ、にんじん、セロリは二センチ角。

 ニンニクは横半分に切ってもらっていた。


「そのまま同じ鍋でベーコンを炒めます。脂が出てきたら、玉ねぎ、にんじん、セロリ、ニンニクを投入してください」


 ジュウゥゥ、と音を立てながら野菜が炒まっていく。


「ここは手を抜いちゃダメです。濃いきつね色になるまで、じっくり炒めてください。この工程が甘みと深みを作ります」


 そこへ、細かく刻んでペースト状にしたトマトを加える。

 酸味を飛ばすように炒めたあと、小麦粉を少しずつ振り入れていく。


「小麦粉は一気に入れちゃダメだ。馴染ませるように少しずつ入れてくれ」


 鍋底に軽く焦げ目が付いたら、こいつの出番だ。


「一応用意はしたんすけど、本当にワインを料理に使うんすか、兄貴?」

「ああ、東の国の料理本でも酒を使ってあっただろ? それと同じようなものだ」


 俺は慣れた手つきでコルクを抜き、そのまま鍋へワインを注いだ。

 ジュワッ――という音と共に、鍋底にこびり付いていた旨味が浮かび上がる。

 ちなみに、これをデグラッセという。


「……おい、どれだけ入れるつもりだ?」

「え? 一本全部入れますけど」


 俺は迷うことなく鍋の中にワインを一本分入れ、フォン・ド・ギャウルも入れる。

 沸騰してきたら弱火にしてそのまま――。


「後はここに香草を入れ2時間半から3時間煮込むだけだ。あと、提供前にこのシャンピニオンを炒めて入れて完成だ」


 今日、街の薬屋でシャンピニオンを見つけられたのは本当に運が良かった。

 こいつがあるとないとで全然違うからな。


「デザートのプリンはもう冷やしてあります?」

「ええ、言われた通りの器があったから、それに入れて一回蒸した後、冷蔵庫に入れておいたわ」


 作り方は簡単だ。卵、ギャウルの乳、砂糖を混ぜて蒸すだけだ。

 といっても計量器なんてこの世界には無いと思っていたのだが。


「天秤あったんできっちり量って入れたわ」

「天秤あるの!?」


 あの時は思わず叫んでしまった。

 なんでも、薬の調合する時とかに使うらしい。結構値が張るみたいだけどな

 まあ、納得だ。こういうのって異世界だと高いイメージがあるんだよな。


「とりあえず、レシピ通りに。ギャウルの乳4、卵2、砂糖1の割合で混ぜ合わせたわ」


 そう、後は器に液を注ぎ蓋をして蒸し器にセットし、15分ほどで完成する。

 作るのは非常に簡単なのだが、冷やす時間が結構かかるので、早めにやってもらったわけだ。


 さて、この間にロールパンの準備だ。

 コボッタさんが焼くロールパンは明日にならないと来ないので、今日は俺たちで焼くしかない。


 昼のうちに、俺とガロで生地の準備は済ませてある。

 が、冷蔵庫に入れておいたのもあって少し発酵が遅れている。このまま常温で放置しておこう。


「とりあえず常温で30分くらいこのままで置いておきましょう」

「そういえば、今日朝に作った分よりも多くない?」


 オーグリアが言うように、今日の朝食で作った量の軽く3倍はある。これには理由があるのだ。


「いつもの硬いパンはそろそろなくなりそうなので、今日の賄いはこのロールパンになります」

「え!? あの柔らかいロールパンが食べられるの!?」

「うおおお! いいんすか兄貴!」


 オーグリアとガロははしゃいでいる。しかし、その横でオーグランドさんが険しい顔をしている。


「ロールパンが出るのはいいことだ。俺も食べてみたいしな。しかし、こいつはどうするんだ?」


 オーグランドさんが指差した先にあるのは、籠に残った硬いパン。

 さすがにロールパンがあるのに、わざわざ硬いパンを食べるものはいないだろう。


「大丈夫です、もちろんそいつも使いますよ。賄いのデザートとして」

「え!? パンのデザートなのですか!?」


 パンなのにデザートという矛盾を聞いてヨウコは驚きを隠せないでいる。

 まあ、硬いパンの残りを考えたら、一人当たり結構少なくなってしまうけど問題ないだろう。 


 そうだな。まだ夕食まで時間があるし、先に仕込んでおくか。


 俺は硬いパンを包丁で一口大の大きさに切り分けて、窯用のバットに並べた。

 ボウルに卵、砂糖、ギャウルの乳、溶かしバターを加えてよく混ぜたら、それをバットに流し込む。

 そうだな、ちょっと手を加えてドライブラドベリーを入れておこう。


 後はこれを30分くらい焼くだけだ。


 そうこうしているうちにプリンが完成したようだ。


「ガロ、粗熱を取ったらそのまま冷蔵庫に入れて冷やしておいてくれ」

「うっす、分かりやした!」


 後は冷えたら完成だ。


 さて、パン生地がある程度膨らんできたので、分割していこう。

 俺は発酵を終えたパン生地を適当な大きさに切り分け、しずく型に整えていく。

 朝はワイン瓶で形を整えていたが、今回からは違う。


「街で見つけたこいつの出番だな」


 麺棒で細長い三角形にし、太い方からくるくる巻いて、オーブン用の鉄板に並べていく。今回は従者の分まで焼くので結構な量の生地が並べられていく。


「しかし、すごい数っすね」

「コボッタさんもこれと同じ数焼いているんだろうな」


 しかもパン職人の朝は早いと聞く。上手く焼けるかは明日次第だな。

 鉄板に並べ終わったら、そのまま30分ほど放置して2次発酵させる。


 ちょうど、窯に入れていた賄いのデザートも焼きあがったようだ。


「よし、完成だ。こいつの名前はブレッドプディング。まあ、窯で焼いたフレンチトーストだと思ってくれればいい」

「わあ、いい匂い」


 ブレッドプディングは、表面はこんがりと焼き色がつき、中はプリンのようにしっとりと仕上がっている。

 ちなみに温かくても冷たくても美味いのが特徴だ。


「そろそろ準備をするか。トマトキッシュで使うパイ生地を出してくれ」


 オーグリアは冷蔵庫からパイ生地を取り出す。

 こいつは俺が街に行っている間にオーグリアに作っておいてもらったやつだ。

 小麦粉とバターをボウルに入れ、指でつぶすようにしてそぼろ状にしたら、水を加えてひとまとめにしたもの。硬さは少し柔らかいかもしれないが何とかなるだろう。

 すでに石窯は下働きの子がすでに火を入れてくれている。


 その生地を麺棒で伸ばして、同じく街で買った金属製の皿。こいつに貼るようにして生地を敷いて焼けば簡単に型が出来るという訳だ。

 俺は早速伸ばした生地を張り付け、フォークで穴をあける。後はここに具材を流し込むだけだ。


 フライパンにオラブオイルをひいて薄切りにした玉ねぎ、短冊切りにしたベーコンを炒める。

 次に一口大に切ったトマトを入れ軽く水分を飛ばす。

 これをパイ生地に入れて第1工程完了。


 ボウルに卵、ギャウルの乳、塩、コショウを入れよく混ぜる。

 これもパイ生地に入れて第2工程完了。


 後は窯に入れて30分から40分ほど焼けば完了だ。


「そういえば、前回作ったブラドベリーパイの時は型を焼いていたじゃない? なんで今回は焼かないの?」

「あ、それは俺も思ってやした」

「そうだな。まず、型をあらかじめ焼いておく工程を”空焼き”というんだ。で、その空焼きが必要かそうでないかは中身によって変わる」

「中身って、型に入れる具材のことっすよね」


 ガロが窯の中にあるキッシュを指差した。


「生地よりも中身の方が焼き時間が短いものは空焼きが必要になる。逆に中身と生地が同じくらいの焼き時間の場合は不要になる。そう思ってくれていい」


 つまり、今回のトマトキッシュは中身と生地の焼き時間が大体同じだから、空焼きは無しという訳だ。


「トマトキッシュを焼いている間はパンが焼けないっすね」

「そうだな、だから料理を組み立てる時はそれも考慮しないといけない」


 前菜の後はスープとパンなので、時間的に間に合わない可能性が出てくる。やはりコボッタさんにパンを教えておいて正解だったな。

 

「一応前菜を違うものにしようかと考えていたんだけどな。材料が揃うかが微妙だったからさ」

「たしかに、作る料理決めたのに、材料が無かったらどうしようもなくなっちゃいますからね」


 俺はオーブンの中にあるキッシュの焼き具合を確認する。

 ――よし、ちょうど良い焼き具合だ。


「キッシュを引き上げてくれ」

「分かりました」


 ミネルヴァはオーブンからキッシュを取り出し、双子の姉のリントンが皿を用意する。

 オーグリアが型から丁寧に外し、一度まな板の上に置く。それを包丁で8等分に切って、それぞれを皿に盛った。

 すかさず、ミネルヴァがロールパンをオーブンに入れる。

 時間は10分から15分ほどで、6人分なら1回の焼きで済む。


「失礼いたします」


 執事長のディケムさんが厨房へ静かに入ってきた。


「旦那様とご家族の皆様がお席にお着きになられました」

「分かりました」


 俺は時間を確認する。現在午後6時45分。


「ガロ、そろそろスープの準備をしてくれ。レシピは頭に入っているな?」

「うっす、任せてください!」

「アルマ、エルス、スープの器を用意しておいてくれ」


 ガロはブイヨンが入った鍋からおたまですくい手鍋で火にかける。


「給仕お願いします。ディケムさん、本日の献立の説明を……」


 俺はディケムさんに今日の夕食の説明を一通りすると厨房へ戻った。

 ディケムさんは恭しく一礼すると、給仕のメイドたちとともに食堂へ向かった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ